「うぇっ!?」

「やあやあ、諸君。グリフィンドールへようこそ!」



ロンが悲鳴を上げた原因は、長テーブルから頭をのぞかせたゴーストがいるからだった。

そのゴーストはパーマがかった髪をしていて、ひだ襟の立派な服を着ていた。

銀色の半透明のゴーストはテーブルを透けて、すうっと前に上がっていった。

ふと気づけば、壁のあちこちからゴーストが姿を現していた。

周りにいる一年生はぎょっとしたが、上級生達は気にもとめていないようだった。

パーシーは食べる手を止め、長テーブルの下から出てきたひだ襟服のゴーストに声をかけた。



「サー・ニコラス、夏は楽しかった?」

「いやいや、首なし狩りクラブに入りたいのにまたまた断られました。」



サー・ニコラスと呼ばれたゴーストはパーシーの方を向き、憂鬱げにため息を吐いた。

彼の名はニコラス・ド・ミムジーーポーピントン卿だ。生徒達には、ほとんど首なしニックと呼ばれている。

私は皿に盛り付けたコーンのグリル焼きを口に運びながらそのやり取りを見ていた。

ハリーとハーマイオニーは気にしたように視線を向けていて、ロンははっと息を呑んだ。



「僕知ってる!ほとんど首なしニックだ!」



ロンは裏返る声でそう叫んだ。

その呼び名に、すべるように移動して背を向けていたポーピントン卿は振り返る。

ロンをじっと見つめながら、彼は言い聞かせるかのように口を開く。

どうやら、彼はその呼び名を気に入ってはいないらしい。



「できればサー・ニコラスと呼んでくれたまえ。」

「ほとんど首なし?なぜほとんど首なしなの?」



ポーピントン卿の言葉を気にかけてもいないように、ハーマイオニーが眉を寄せた。

ポーピントン卿はその話があまり気に入らないらしく、苛立たしげに口を開いた。

私はできるだけそちらを見ないようにナギニに食べ物を差し出した。

ナギニはホグワーツの食事がなかなか気に入ったようで、チキンに噛みついた。



「この通り。」

「ぅわあっ!」



ポーピントン卿は荒っぽく自分の右耳を引っ張った。

すると粘着質な音が響き、首から頭がグラッと外れた。

蝶番で開いているかのように、首の皮一枚で頭が繋がっている。

それをこちら側に見せるようにするので、ロンはまた悲鳴を上げた。

ハリーとハーマイオニーは見ていられない、といったように視線を逸らす。

上級生以外の皆がぎょっとした反応を見せたので、ポーピントン卿は気をよくしたように肩を揺らして首をもとに戻した。

そのまますべるように移動する後ろ姿を見送りながら、私達は食事を再開させた。

豪華な食事は皆の胃袋におさまり、皿が綺麗になると次はデザートが姿を現した。

様々な味のアイスクリーム、アップルパイ、糖蜜パイ、エクレア、ジャムドーナツ、トライフル、いちご、ゼリー、ライスプディング。

あまりにもたくさんのデザートに、皆は目が眩んだように手をのばしていた。

デザートは別腹なのだろうか、と考えながら私はチョコのアイスクリームをつついていた。

ナギニは冷たいものはあまり好きではないようで、アイスクリームは口に入れなかった。

ハリーは糖蜜パイを頬張りながら、周りの会話を聞いているようだった。

やがて満腹になった生徒がうとうととし始めた頃、宴は終わりを告げた。

私達一年生は監督生であるパーシー・ウィーズリーに連れられ、寮を目指していた。



「グリフィンドールの諸君、きちんと着いてきて。」



うとうとしながら歩いている生徒に、パーシーは注意深く何度も声を上げていた。

しかし今日一日の緊張感と疲労感にくたくたなのは頷ける。

それに加えて食事をしたので身体も温かくなり、寝る準備を始めているのだ。

私はぎゅっと目を擦りながら列に続いていた。

パーシーは大広間を出て進んだ踊り場でふと足を止めた。



「ここが寮への1番の近道だ。
でも階段には気をつけて、じっとしてないから。」



パーシーがそう言うと、ほとんどの生徒がどこまで続いているかわからない階段を見上げた。

天井は見えないほどにどこまでも高く、囲まれたように階段が存在している。

しかし普通ではないのはその高さだけではなかった。

点在している階段は気まぐれに移動し、その方向を変えていた。

口をぱっかりと開けている一年生達に、パーシーは気を戻すように声をかけた。



「遅れないように着いてきて。
ほら急いで…急いで。」



その声に、一年生達は足を階段にかけた。

階段の壁に飾ってある絵画が動くということに皆は驚いていた。

絵画に描かれた老人がホグワーツへ来たことを祝福していた。

そんな声をぼんやりと聞きながら、私は階段を上っていた。

ナギニが注意する声を上げたちょうどその時、私は足をつまずかせてしまった。

前のめりに倒れそうになった私の腕を、ハリーが反射的に掴んだ。



「っ…!」

「…アリス、危ないよ。」



ハリーは静かに声を出したが、目を丸く見開いていた。

私がお礼を言うように微笑めば、ハリーは微かに頬を紅潮させた。

私はハリーのローブの端を掴み寮へ向かっていた。

ハリーはそれを受け入れながら、ちらちらと気にしたように私に視線を寄越していた。

ロンとハーマイオニーからも視線を感じ、私は目を擦った。

すると寮の入り口に着いたようで、パーシーは足を止めた。

ふと瞳を開けてみれば、薄桃色の絹のドレスを着たふくよかな婦人(レディ)の肖像画が壁にかかっていた。



「合言葉は?」

「カプート・ドラコニス。」



ゆったりとした婦人の声に、パーシーははっきりと告げた。

婦人はそれを聞くと微かに微笑み、奥へと手を差し出す。

すると肖像画が扉のように開き、その奥に入り口があった。グリフィンドールの談話室だ。

オレンジ色の温かい光が満ちているその場所に、私達はパーシーに急かされながら入っていった。



「さあ集まって!
ここがグリフィンドールの談話室だ。
男子の寮は階段を上がって左、女子の寮は階段の右。荷物はもう部屋に運び込まれている。」



一通りのパーシーの説明を聞き、私達はそれぞれの寝室へ行くために別れた。

私は今まで先導してくれていたハリーにお礼を言い、女子寮の階段を上っていった。

すると後ろから声がかけられ、ナギニがそちらに顔を向けた。



「アリス!」

「ぁ、ハーマイオニー。」

「まだちゃんと話せてなかったわね。
わたし、あなたと同じ寮で、本当に嬉しいわ!」

「ん、私も嬉しいよ。」



恥ずかしそうに早口で話すハーマイオニーに、私は微笑んだ。

そうすればハーマイオニーは嬉しそうに頬を赤らめる。

ハーマイオニーのふんわりした髪が揺れるのを見ながら、私は部屋へと足を歩ませていた。



「またよかったら…もっと、あなたと話したいわ。」

「うん。ありがとう。」

「あ!わたしの寝室はここみたい。」

「じゃあ…また明日ね、ハーマイオニー。」

「っ、えぇ!
おやすみなさい、アリス。」

「おやすみ。」



ハーマイオニーは嬉しそうな様子で寝室へ入っていった。

私はその後ろ姿を見送り、以前生活していた部屋へ向かう。

場所は変わっていないようで、突き当たりの扉に手をかけた。

私の手が触れると、ガチャンと音が鳴った。

ドアノブを回し、私は部屋に足を踏み入れた。

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