グリフィンドールの長テーブルまで行く最中、ふとスリザリンのテーブルに視線を移した。
その先にはドラコがいて、ドラコは信じれなさそうな表情を私に向けていた。
ドラコは私がナギニを連れてるからスリザリンであると確信していたのだろう。
それは他の寮の皆もそうだった。もちろん、私もだ。
私はそっとナギニに手をやった。
『アリス、嬉しいのかい?』
『…ん。すごく。』
ナギニは私の手に顔を寄せ、黄金のあの瞳でじっと見上げてきた。
私は綻ぶその顔をそのままに、ナギニの言葉に頷く。
夢のようだった。けれど同時に、縛り付けられる束縛感を感じていた。
ハリーと同じ寮に入ったからには、それなりに目を光らせておかなければならない。
グリフィンドールの長テーブルでこちらを緑に輝く瞳でじっと見ているハリーと目があった。
ハリーは笑顔を綻ばせながら私が長テーブルにつくのを待っている。
小さく息を吐き、私は長テーブルに向かって駆け出した。
「アリス、一緒の寮になれて嬉しいよ。」
長テーブルにつくと、ハリーが嬉しそうに笑いかけてきた。
グリフィンドールに決まり、ハリーの中の緊張は解けたのだろう。固い表情はすっかりなおっていた。
近くにいるロンとハーマイオニーも、私を迎え入れるようににこにこしていた。
私がハリーに誘われその隣に腰を下ろそうとした時、そっくりの顔が二つずいと寄ってきた。
「お嬢さん。」
「グリフィンドールに、」
「ようこそ!」
「ひゃ…っ!」
甘い声がかけられたと思ったらいきなり後ろから抱き締められ、私は思わず息を呑んだ。
ナギニも驚いたように顔を上げ、シャーと威嚇の声を出す。
二つのそっくりの顔は悪戯な笑みをうかべていて、その顔には点々とそばかすが散っている。そしてその髪は燃えるような赤毛だった。
前に座っているロンはぎょっと目を見開き、咎めるような声を上げた。
「フレッド!ジョージ!」
「おやおやロニー坊や、そんな大きな声を出してどうしたんだい。」
「アリスから離れろよ!」
「なんだって?よく聞こえないなぁ。」
「…ぁ、の…っ。」
挟まれた状態で会話され、私は戸惑いに目を泳がせた。
このそっくりの顔をした双子は、フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーで間違いないだろう。
悪戯好きな二人。その行為は、悪戯仕掛け人の再来を思わせるほど。
そんな彼らに抱き締められ、私は緊張に胸を跳ねさせた。
ドクンドクンとうるさいほどに脈を感じる。
戸惑った瞳で仰げば、二人はキラキラ輝くブルーの瞳を細めた。
「おや、失礼。愚弟がとんだご無礼を。」
「俺はフレッド。でこっちがジョージさ。」
「あ、ぅ…よろしく、お願いします。」
小さくそう言うと、私の身体に絡んでいる腕の力がぎゅっと強まった。
双子は私の髪に顔を寄せ、その柔らかさを感じるように頬擦りをする。
私が驚きに身を固めていると、堪らない様子でロンが引き剥がそうと席を立った。
その時ハリーの隣にいる凛と背筋を張った上級生が厳しい声を出した。
その上級生の髪は燃えるような赤毛で、その顔にはそばかすが散らばっている。
双子はその上級生――おそらく、兄のパーシー・ウィーズリー――に視線を移し、からかうような言葉をかけていた。
腕の力が弱まり、私はそれを見計らってするりと抜け出した。
すっかり機嫌が悪くなってしまったナギニに苦笑すると、ハリーが心配そうに声をかけてきた。
そんなハリーに微笑みを向けると、教員のテーブルについたマクゴナガル教授がゴブレットを金のスプーンで叩き、よく響く音を三回鳴らした。
「皆さん、お静かに。」
その声に、双子は急いで席に座った。
パーシーはふんと鼻を鳴らし、教員のテーブルに視線を向ける。
私もそちらに目を向ければ、アルバスが静かに立ち上がった。
両手を広げ、注目している生徒達に微笑みを向ける。
ふと目があったと思うと、アルバスは悪戯にウインクをした。
「では、宴を始めよう。」
高らかにアルバスがそう告げると、テーブルに並べられた金に輝いている皿が一瞬で食べ物に埋め尽くされてしまった。
ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ゆでたポテト、グリルポテト、フレンチフライ、ヨークシャープディング、豆、にんじん、グレービー、ケチャップ。
小さい皿には、ハッカ入りキャンデイー。
誰もそのハッカ入りキャンデイーに手をつけようとしなかったが、豪華な食事に大喜びだった。
ハリーは食べ物が出た瞬間、目を丸く見開いて感嘆の声を上げていた。
ロンはすぐにチキンを両手に掴み、そのままかぶりついた。
ハーマイオニーは空いた皿を持ち、少しずつ取り分けていた。
ずっと汽車に揺られていたしよく歩いたので、もうお腹がぺこぺこなのだろう。
食事の香りにナギニが顔を上げた。
私がチキンを差し出せば、ナギニはごくんと丸呑みしてしまった。
私も皿を取り、とりあえず軽そうなものから皿に乗せていった。
にんじんをかじったちょうどその時、ハリーがパーシーに声をかけた。
「ねぇパーシー。」
「ん?」
「クィレル先生と話してる人は?」
その声につられるように、私は教員のテーブルに顔を向けた。
ターバンを巻いているクィリナス・クィレル。その隣にはねっとりとした黒髪のセブルスがいた。
ハリーはセブルスに不安げな視線を向けながら食べ物を口に運んでいた。
私はそんなハリーに口元を緩め、声を出した。
「セブルス・スネイプ。スリザリンの寮監ですよ。」
「あぁ、その通りだ。アリスはスネイプ先生のことを知ってるのかい?」
「ん…まぁ、少しは…。」
どのような関係かと聞かれれば答えられないが、それくらいならと私は頷いた。
ハリーとパーシーは驚いたように目を見開いた。
するとハリーはまた疑問を抱いたように眉を寄せて口を開いた。
「何の先生?」
「…魔法薬学。でもセブルスは、闇の魔術が得意ですよ。」
「驚いたな、詳しいんだね。スネイプ先生をファーストネームで呼ぶなんて。
…それと、スネイプ先生はクィレルの席をずっと狙ってるんだ。」
ハリーの質問にパーシーが試すような視線を寄越してきたので、私は小さく息を吐いた。
私の言葉に、パーシーは目を見開く。
そして付け足すように声を低めた。
私はその言葉に頷くこともできず、苦笑をこぼした。
ハリーはその言葉を真に受けたようで、緊張した面持ちでごくりと口の中のものを飲み込んだ。
その会話をそこで終わらせたのは、ロンの情けない悲鳴だった。
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