「…?」

「ッ…。」



幸村はキョトンと見つめてくるその瞳に言葉を失った。

淡いブルーの瞳から目が離せない。

純粋なその瞳は、幸村の姿を映したまま二、三度瞬きをした。



「にゃあっ?」



首を傾げて、不思議そうな顔でそう言った。

その声は思っていたとおり高くて、可愛らしい。

耳を衝かない高さの声に、幸村は思わずドキリとした。

すると、濡れた姿の彼女は跳ねるように起き上がって、あっと息を呑んだ。



「っに、んげんの…から、だ…?」

「ぇ…?」



幸村は彼女の口から出た言葉に目を丸くした。

何を言っているのか理解できなかった。

彼女の声は少し舌っ足らずで、今は目を丸くして自分の顔をペタペタと触っている。

その嬉しそうな表情に胸が高鳴った。

……何故?

咄嗟に、そう自分に問いかける。

答えなんて出る筈がない、そう分かっていても…。

すると、いきなり目の前に彼女の白い指があった。

滑らかな、純白の絹のようなその指は彼女の頬と同じように少し赤みを帯びている。

ビックリして身を引こうとすると、その前に顔に手を添えられた。



「ッ!?」



思わず肩がビクリと跳ねる。

だが、彼女はそんなこと気にしていないようだった。

幸村の顔をペタペタと触り、挙げ句の果てには首の後ろに腕を回した。



「ちょっと、君…!」

「にんげんっ!!」

「…え?」



慌てて離れようとするが、彼女の言葉にポカンとする。

彼女の顔を見てみると、頬を紅潮させ淡いブルーの瞳をキラキラッとさせている。

無邪気なその顔に、再度幸村の胸が高鳴る。

だがそんなのお構いなしというように彼女は腕の力を強めた。

幸村は堪らずベッドに手をつき彼女から離れようとする。



「、やっ!」

「わッ…!!」



だが彼女は嫌、と言ってギュッと幸村の首に抱き着いた。

濡れているまま抱き着かれるものだから、首がひんやりとする。

そして、結果的に離れようとしていたのが、かえってベッドに倒れ込んでしまった。



「ごっ、ごめん…!!」



そう言って上体を起こそうとしたが、…起こせない。

彼女が幸村の首に巻きついたままだからだ。

彼女は幸村の髪にすりっと頬を寄せ、甘えるように目を細めている。

耳を見てみればピクッと小さく動いていて、本当に作り物ではないと感じさせた。

だが…、この体勢は何かとキツい。



「えっ、と…ちょっと離れてくれないかな?」

「にゃっ?」



幸村はできるだけ優しい声を出した。

彼女は首に回した腕の力を緩め、幸村の顔を不思議そうに見つめる。

耳がピクッと動いたかと思えば、目がみるみるうちに丸くなった。

まるで今初めて幸村の顔を見たかのようだ。



「ゆ、き……ゆきむら、せい…いち?」

「ッ!?」



キョトンとした彼女の言葉に、幸村は思わず息を呑んだ。

彼女はふわり、とまるで花のように笑う。

だが、…なぜ俺の名前を知っている?そのことが頭から離れない。

舌っ足らずに呟かれた名前に、幸村は目を見開いていることしかできなかった。





君に出会った。

―それはとても、不思議な出会いだった―

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