小説 | ナノ


▼ ーWiedersehenー 2

ゾロとローが互いに出会ったのは二人が国の訓練場にいたときだった。
国の軍役として13歳以上の男子は武術の学ぶ義務がある。
二人とて例外ではなかった。
武術には様々な種類――銃や弓、格闘技など――己に合ったものを選択するのだが、偶然にも二人は剣術を選択していた。
同じ場所で同じ訓練をしていたら自然と顔と名前を覚えるものである。

「あの時からお前の名前は有名だったぜ……三刀流のおかしな剣士ってな」
「おいおい。おかしな、は余計だろ。それにお前だって死の外科医とか言われてたじゃねぇか」
「それは俺がちょこっと医学を学んでたからだ。――まぁ、今は歌を生業としてるがな」

それを聞くとゾロは「フンッ」と鼻で笑い、「お前が歌姫だとかカオスなもんだ」と外壁に寄り掛かった。
あの後、昔話でもしようということになり静かな庭の方へ二人は移った。
外は暗かったが、月明かりのお陰で互いの顔は見える。
歌って熱くなったのかローは黙ってネクタイを緩めてボタンを外した。
白い大理石のような首筋が露出される。
それを見てゾロは思わず生唾を飲み込んだ。
ヤバいと咄嗟に違う方向に顔を向け、徐々に高くなる鼓動を理性で押さえつける。

昔からローは魅力的だった。
白い肌に濡れるように黒い髪、華奢な身体と整った顔つきは、嫌でも目立ってしまう。
それに加えてローの天性の艶めかしさは誰をも虜にさせるだろう。
事実、訓練所時代には数多の同期や先輩、後輩、etc……がローに告白し、無残に振られていく姿をゾロは何度も目にしてきた。
何で男が男に告白してんだと当時のゾロはそいつらに呆れていた。
そんなある日のこと。
練習を終えた夜、疲れている筈なのに何故か寝付けなくてゾロは夜風を浴びようと窓を開けると、すぐ外側にローが立っていた。
不思議に思い尋ねると、また誰かに迫られたので追い払ってきたと返ってきた。
ポツリとローが呟く。

「あいつらは俺とシたいんだとよ」
「したいって――そういう意味で?」
「あー、そうだ。気持ち悪いったらありゃしねぇ。挙句、一度でいいからって言う馬鹿もいる。俺の気持ちを全然分かっちゃくれない」

よほど屈辱だったのか「チッ」とローは忌々しく舌打ちをした。
こいつも案外大変なのかとその時の自分がそう思ったのを覚えている。
でも月明かりに照らされたローは、妙に色っぽくて、ゾクリと肌寒くなるような雰囲気を纏っていた。
こういう奴だから狙われるんだな――と妙に納得してしまった自分がいた。

そして現在。
ローのそれは全く色褪せていなかった。
むしろ増長したと言っていい。
一言でまとめるならあれだ。

――――エロい。

(――って何考えてんだ、俺! 落ち着け落ち着け……!)
(これは――あれだ、月明かりの所為だ)

昔から月光は人を惑わすという。
ローがそういう風に見えてしまうのもきっとそのせいだ。
ごちゃごちゃと乱れる思考に無理やり理屈をつけて「オシっ!」と一人で結論づけるゾロの姿をローは半目で見つめていた。

「……おい、ロロノア屋。お前大丈夫か?」
「あ、あぁ。なんでもない。気にすんな」
「何なら診てやろうか? 最も馬鹿は治せねぇけど」
「てめぇ、今サラッと馬鹿っつったな!」
「あー、悪りぃ。つい本音が出ちまった」

そう言ってローはくしゃりと笑い出した。先程までのクールな表情とは一転、気さくで柔らかい雰囲気だ。
久しぶりにその笑顔を見たせいか、ゾロの鼓動はより上昇していく。
まともにこいつの顔を見てはいけないと本能が警鐘を鳴らしている。

「……ん? ロロノア屋、お前もしかして本当に病気か? 顔が赤いんだが……」
「さ、酒を飲み過ぎたんだ。問題ねぇ。
 ……ッちょっとあれだ。ワイン持ってきてやるよ。お前も歌って喉渇いたろ」

そそくさとゾロはそう言い残し、ワインセラーへと歩き出した。
何でローに会ってこんなに動揺しているのだろう。
訓練所時代の時は何度もなかったのに。
こんな風になったのは初めてである。

(――妙に意識していけねぇ)

冷えたワインでも飲めばこの熱を下げてくれるだろう。
そう思いながらゾロはワインセラーのある地下室へと降りて行った。

取り残されたローはクスリと微笑し、ゾロが寄り掛かっていた壁へと身を移した。
そして悪戯に薔薇の花を手折ろうとした時――黒い影がローの前に立った。


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