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▼ ーWiedersehenー 3

「よぉ、歌姫様。ご機嫌いかがなもんで?」
「…はぁ……どうも」

ぎこちなくローが答えると相手の男は「フッフッフ」と怪しい笑みを浮かべた。
酷く背が高く、サングラスをかけた金髪のベリーショートヘアの男に、ローは警戒心を露わにした。
それを感じ取ったのか、男は「そんな不機嫌な顔をされちゃ困る」とローに顔を近づけた。

「トラファルガー=ロー……だったな。今夜は空いているか?」
「生憎だが今晩はこの屋敷に泊まる。そういう相手なら他を当たるんだな」

舌打ちと共につっけんどんに返すと何が面白いのか、男は高笑いをした。
それを冷たく一瞥するローに、

「俺が誰か知っててそんな口をきくのか?」
「お前がどこのどいつだかなんて知らねぇ。命令されるのが嫌なタチなんでね」
「そうか――。フッフッフ……。気に入ったぜ、ロー」


馴れ馴れしく名前を呼ぶ男に「気がすんだならあっちに行ってくれ」とローは手で追い払う仕草をした。
こういう奴らを扱う術は哀しいかな、心得ている。
意外にも男はあっさりと身を引き、広間へと足を向ける。
ただ一度、自分の方に振り向いて告げた。

「また会おう。トラファルガー=ロー」

そして男は不気味な笑い声と共に立ち去っていった。

(――なんだ、あのイかれた野郎は……)
(また会おう、とか……)

こちらとしては頭のおかしい輩はごめんこうむりたいのだが。
変な奴に絡まれたせいで不機嫌になりかけているローの耳に、「おーい」とゾロの声がした。
両腕に大量のワインボトルを抱えている。
好物の酒を前に、にやにやするゾロへ「遅いぞ」とローは呟いた。

「ほらよ。どれでも好きなやつ飲めよ」
「あぁ……そうしたいのは山々なんだが……これ、本当に大丈夫か?」
「どういうこった?」
「多分だが……お前これ勝手に取ってきただろ? 主人に怒られるんじゃねぇのか」
「あー……ま、何とかなるんじゃねぇか? ワイン室にまだ無駄に酒があるから、ちょっと位じゃ気づかないだろ」
「ーーそうか。じゃあお前の後ろにいる奴にも聞いてみな」
「はぁ? 俺の後ろって……」

訝しげにゾロが首を向けた先ーー鋭い眼光で己を睨みつける瞳と目が合った。

「お前はまたそうやって勝手に物を盗りおって」
「……っ、鷹の目……!」
「呼び捨てにするんじゃない。ちゃんとマスターと呼べと何度も言ったろう。
 おまけにそれは私の本名ではない」

そう言うと、鷹の目と呼ばれた男――この館の主人であるミホークは、ゾロの頭に強烈な拳を与えた。
ゴンッ! と鈍い音がした。

「いってぇな、おい!」
「こりもせずに何度も何度も……。ちゃんと蔵から持って行くときは私の許可を得ろ」
「そんなこと言って、俺がちゃんと頼んで出してくれたことなんて一度もねぇぞ」
「当然だ。お前のような大酒飲みにホイホイ渡すほど私は愚かではない」

「あ"ぁ"?」と眉間にシワを寄せるゾロを無視して、ミホークはローの方へ顔を向けた。

「今夜は来てくれて感謝する。素晴らしい歌だった」
「こっちの方こそ部屋を用意してくれて助かった」

そうローが言った後に大きなあくびをしたのでミホークは顎でゾロに命令する。

「ほら、早く客人を部屋に案内してさしあげろ」
「はいはい。分かってるっつーの……。おい、ロー。こっちだ。着いてこい」
「えー……、ゾロ屋。お前の道案内ほど不安なものは無いんだが」
「てめぇ! どういう意味だ、ゴラァッ!」

荒ぶるゾロに「客人にそんな言葉使いはないだろう」とミホークが冷静に諭す。

「客人も何もこいつは俺の……幼馴染みてぇなもんだから」
「だが今はこの館に来たゲストだ。公私をわきまえることもできないのか」

見下すような視線を浴びせるミホークだが、ローがまぁまぁとゾロの肩に手を回す。

「こいつの言った通り、俺とゾロ屋は友人だ。変な礼儀なんかいらねぇ」

それと…、とローは続ける。

「できれば今夜はこいつと居させてほしい。積もる話もあるからな」

客人にこう言われてしまったのなら仕方が無く、ミホークは「そちらが良いのなら」とあっさり了承した。
「後でワインを届けさせよう」と言うと小声でゾロが「おっしゃあッ!」とガッツポーズを取った。
お前が飲むものじゃない――とはもうさすがに言い返さなかった。

「私はまだ用事があるので失礼する。大人しくしてるんだぞ。ゾロ」
「ガキ扱いすんな! ……行くぞ、ロー」

ゾロが先頭を切って歩きだしたので、生返事を一つし、ローはその後について行った。


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