驪竜之珠







俺達は、いつから共にいたのだろうか。




 そう考えてしまうほどに、隣にはお前が居る事が当たり前だったというのに。








「…………なんだ、これは……」



自室の机の上に残された、見慣れた文字に今までの日々が全て崩れ去った気がした。













「おや?リントヴルム様、顔色が優れぬようですが」
「……そう見えますか?フフッ、大丈夫です。こうみえて竜人は頑丈なのですよ?お心遣い有難うございます」



それから数日後の会合で、顔見知りの爵位持ちにそう突かれたのを軽くあしらいつつ物思いにふける。そういえば最近寝ていない気がする。

あれから本当にヨーナは一度も帰っては来なかった。あの最後の時間共にいたというメイドのメアリーに聞いた所、ヴァレンティーノ家の者が迎えに来たと言っていた。
 色々と今思えば思い当たる節はある。政界で回るヴァレンティーノ家の噂は様々あったが、どれもこれも今思えばヨーナを連れ戻した意味の裏付けになるだろう。


 つまりヴァレンティーノをヨーナが継ぐのだろうという事だ。




「さて、どうしてやるか……」
「どうかなさいましたか?」



グルル、と喉奥を微かに鳴らしながら、顎先を撫でる。
隣で無駄に話しかけてくる貴族の言葉は適当に聞き流した。







 それから期を窺いつつ暫く日々を過ごしたある日、ヴァレンティーノ家の当主、アーベルが視察の為に遠方に出向くと耳にした。
それを機と見て俺はヴァレンティーノ本家に出向いた。


共に付ける者は必要ない。



ノッカーを叩き、暫くして顔を出した小間使いのメイドであろう者に今までで一番のとびきりであろう笑顔を浮かべながら言葉を継げる。



「突然のご訪問、大変申し訳ございません。私はリントヴルム家当主、ゲシュヴァルトと申します。『次期』ヴァレンティーノ当主様にご挨拶に参りました。お目通りを願えますか?」
「あ、あの……?」
「願えますか?」



 すっ、と縦に細長く伸びた瞳孔でメイドを見下ろす。
到底このような小間使い個人で判断できるものではないだろう。



「その、少々お待ちくださいませ。今確認を……」
「いえ、そのような手間は掛けさせません。貴女もお忙しいでしょう?」
「リントヴルム様!?こ、困りますお待ち下さいませ!!」



 微かに開かれていた扉に足を差し込み、そのまま身体を割り込ませて中へと入る。
 ぴぃぴぃと辺りから囀るような声が聞こえた気がしたがそんなものはどうでもいい。



 鼻を利かせ、歩を進める。途中何かを蹴り飛ばしたような気がしたが、小石にでも当たっただろうか。うめき声など聞こえない。




 そうして暫くして目的の部屋へ到着した。
 盛大に扉を蹴り飛ばし開錠する。奥には求めていた奴がいる。







部屋に置かれている花瓶の中の水が、俺の怒りに共鳴して暴れだす。

歩を進めた後の道では、空気の中に舞う埃に炎が点り次々と消し炭になっていく。

ぴきり、と顔や身体に鱗模様の痣が広がるのが分かった。







「ヴァル……!?」
「勝手に俺の目の前から姿を消すとはいい度胸だ」





喉の奥では灼熱の炎が出所を探すように渦巻いている。





「ヴァル、お前は何をしているのか分かっているのか……!?」
「貴様のアホみたいに置いてある虫の食い物も、服も、部屋も本も、俺の隣も何もかも全て残したままだ。さっさと準備をしろ」
「だから……!」




「迎えに来たぞ、ヨーナ」




貴様が時期に当主になるのならば、この家をどうにでも出来るだろう。
大切にしている妹とやらは一時的に俺の所に養子にでも出させればよい。



来ないならば、このヴァレンティーノ家もろとも、この俺が食らい尽くすのみだ。




「俺は貴様を手放すつもりは微塵もない」





 俺の帰りに付ける共は、隣に置くのはお前だ。










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ヨナタンさん(@tumiki_kikaku)

お借りしました!




2015/10/29


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