一寸先は






















『SELVA』を後にして私はひとつため息を溢した。外に出たと同時に吹き抜けた秋を告げる冷たい夜風に少し身震いをする。


先程のルクスリアの言葉がどうにも気になった。


主様は私が隠し事をしていると知ったら悲しむだろうか。
もし本当の事を全て告げたら、それを受け入れて下さるだろうか。

などと、不意に考えてしまった。


そんな事をしてしまえば私はすぐさまクリオール家から追い出されてしまうだろう。
しかし事実を隠してまで主様の側でお仕えしたいというのは、私の我儘ではないだろうか。


……以前までの己の考えとの違いに、我ながら思わず苦笑する。



首を軽く左右に振り、胸に渦巻く靄を払うように気持ちを切り替える。
明日も早い、姿を戻してそろそろ帰らねば。
店先から立ち止まったままだった足を一歩踏み進める。



しかし、それと同時に








「……、…ガロット?」


不意に聞こえた、なじみ深い声に思わず身体が固まった。

そろりと視線やると、そこには紛れもない主様の姿が。


何故夜間だというのに外に?あぁそういえば夜の任務が入ると先週おっしゃっていらした。灯りは以前リヤンが作っていたブレスレットがまだ魔力が残っていたのかそれを使用していらっしゃるのか。あぁ足下が暗くなく安心致しました主様。


己でも動揺しているのがよくわかる、いや現実逃避しようとしているのが分かる。
こんな事ならば店を出てすぐに姿を戻しておけばよかった。


主様がこちらに近づいてくる、こうなれば腹を括るしかないかと私は顔を上げそのままそちらに向ける。

しかし返ってきた反応は予想していたものとは違っていた。



「……ん?あぁすまない人違いか。夜間は目が利かなくて……しかし似ている。
もしかして君はガロットのお姉さんかな?そういえば以前シャンが言っていたな」



目の前で歩みを止め、女性に身を変えている私を以前口から出まかせにいった『姉』と勘違いしている主様がそう言いながら柔らかに笑んだ。
正体がバレていないことに安心しつつも、その反面でだましているという罪悪感に胸が締め付けられる。


「あ、あの……」
「ふふっ、本当に似ている。その白髪といい赤い眼といい……双子の姉弟なのか?彼は中々自分の事は私に話してくれなくてね」


どうすればいいか判断が出来ずに口ごもってしまう。
それを気にすることもなく、穏やかな笑みを浮かべたままの主様はそのまま視線を下に下降させていく。




「しかし服装も姉弟揃って似ている…、……?]









そして、ある高さまで下りた所でぴたりと視線が止まった。





「その、ネクタイピンは……、…済まない、暗くて…よくみせてくれないか?」






心の臓が一気に冷えた。







「……っ!も、申し訳ありません!私急いでおりますので失礼致します!!」
「なっ……!?」



慌ててネクタイピンを隠すように胸元を押さえながら、主様を振り切るようにして一気に駆け出した。



気付かれてしまっただろうか、『私』がガロットだと。

主様に与えられたのが嬉しくて、普段からずっと身に着け外さないでいたのがこんなところで……!



後ろを振り返る事もせず全力で人気のない路地裏まで走った後、姿を元に戻した私は、乱れた呼吸が落ち着くまでそこに居続けた。








嗚呼。









屋敷に帰るのが、主様にお会いするのが怖い。







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お借りしました!


2015/09/08

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