静かに、ひっそりと


少々雲行きの怪しいある昼下がり。広場の前でいつも通りに楽しく踊り終わったアリアは、寒いにも関わらず見ていてくれた周りの人々に「ありがとうね!」と大きく手を振り感謝の言葉を伝えた。周囲からの拍手の音も、それに応えるように手を振る度にしゃらしゃらと鳴る手首のブレスレットの音も心地良い。
そしてそのまま不安定な空へ、ちらりと視線を移した。

「…なんだかまた雪でも降りそうな天気だね、今日はもう引き上げようかな。」

面白くなさそうに眉間に皺を作りながらそう呟けば暖まっている体を冷やさぬように、持ってきていた厚手の大判ストールを羽織りその場にいる人々に再度手を振りながら広場を後にした。

「…しっかし寒いなぁ!」

くしゅん、と小さなくしゃみを残して。


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「でもまっすぐ宿に帰るのもなんか嫌だしなぁ…なにか面白い事なんて…」

気の向くままに街のメインストリートにやってきたアリアは、きょろきょろと辺りを見回し散策していた。よく通る道だがあまり意識して店を見てない為、もしかしたら思わぬ穴場があるかもしれないとあちこちに目をやるがピンとは来ない。
そういえば以前クレーが言っていた仕立て屋をしている…確か名前をアルルコットと言ったか。その子のお店も確かこの通りにあると聞いたような。せっかくだから何か冬服をオーダーさせて貰おうかな、と思いながらある角を曲がった時ふととある店が目に入った。

真っ白な建物の、鏡の店。

瞬間アリアの脳裏にパーティで出会った彼の姿が思い浮かぶ。そういえば彼もこの辺りに店があると言っていた。

「…トゥーヴェリテ?」

そっと窓の硝子越しに中を覗いてみれば確かにカウンターであろう場所の前で見覚えのあるトゥーヴェリテの姿があった。間違いない、彼の店だ。
せっかく偶然ながらも見つけたのだし挨拶でもして行こうかと思ったが、普通にドアから入るのではつまらない。にしし、といつもの悪戯な笑い声を溢しながらアリアはその場からテレポートした。

この前は驚かす事すら出来なかったけど、今日はあの綺麗な表情を崩してみせるよ!

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音もなく気付かれる事もなくトゥーヴェリテの背後にテレポートしたアリアは、ニヤニヤとしながらどんな悪戯を仕掛けてやろうかと目論んでいた。丁度店内には客の姿もない。
くすぐってみようか、それとも突然大きな声を出してみようか…と思い付く限りの悪戯を考えながらそろりと近付く。

「おや、アリア君かい?」
「ひぇっ!?」

突然名前を呼ばれ驚いたのはアリアの方だった、思わずびくりと体が跳ねる。
なんで?だって音も立ててないし、そもそもトゥーヴェリテはこっちを見てもないのに。そう混乱しながら驚きで動けないアリアに代わり、ゆっくりとトゥーヴェリテが振り向いた。そしてその手元には手鏡が。

「ふふっ、美しい僕を眺めていたらアリア君のその黒髪が見えたからね。急に現れたから驚いたよ。」

相手が気がついた理由が分かり悪戯も大失敗に終わったアリアは、驚いたと言う割にはやはり落ち着いて見えるトゥーヴェリテの顔を見詰めながらため息を溢した。

「はぁ…だから、全然驚いてるようにみえな……くしゅんっ!!」
「おや?あぁ、外は冷えているからね。暖かいお茶でも淹れようか。」

綺麗な微笑みを浮かべながらトゥーヴェリテはお茶の準備をしにいくのであろう、カウンターから離れていった。その美しい後ろ姿を眺めながらアリアは不機嫌そうに唇を尖らせる。
先程の逆に驚かされてしまった故の悔しさと恥ずかしさもあるが、それよりももっと。


「アンタの…もっと、色んな表情を見てみたいんだけどなぁ…」


すん、と寒さで赤くなった鼻を鳴らす。
外ではちらちらと雪が降り始めていた。


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ため息混じりに出た言葉は、それはそれは淡い。

しかし確かにある気持ちのひとかけら。







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みそさん宅、トゥーヴェリテさん(@misokikaku)
お借りしました。

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