楽しさに溺れて


しゃらり、しゃらり。
美しく鳴り響く硝子の音。

先程一緒に踊ったトゥーヴェリテが作製してくれた美しい琥珀色の珠が連なる硝子のブレスレット。
綺麗なそれを室内の明かりに照らしてはその輝きに頬を緩めた。


「ホントにタダで貰っちゃって申し訳ないなー…にしし、でも綺麗」


何度もそれを繰り返しては子供のようにはしゃいだ。今日初めて出会った人だったが温厚そうで紳士的、それにダンスも上手とアリアは大変彼を気に入っていた。普段仕事をしている時に現れるような下品な男達とは大違いで。
街のメインストリートの辺りに店を持っていると聞いたから今度こっそりと悪戯しに行こうと密かに目論む。そしていつか彼の涼やかな表情を崩してやるんだと笑う。
そのままふんふんとご機嫌に鼻歌を零しながらアリアは喉を潤すドリンクを取りにテーブルの方へと歩みを進める。するとそこには見知った顔の二人が。


「おやおや?ルゥルゥにファインじゃないか!見ない組み合わせだねぇ」

「む」

「あー!アリアだ!」


ルゥルゥとファインの二人が一緒に食事をしていた。意外な組み合わせに一瞬目を丸くするがここは人が大勢いるパーティの場、何かしらあり意気投合したのだろうと微笑む。ぽんぽんっと二人の頭を軽く叩き挨拶をしながらアリアはシャンパンを手に取る。


「中々うまいぞ、この肉とか」

「うーん…私はお腹空いてないしパス、二人で私の分までしっかり食べといて」

「あはは、勿論!」


モグモグと美味しそうに食事を続ける二人を眺めながらグラスに口をつけようとした瞬間、アリアの耳に次の曲が聞こえた。その響くメロディにピクリと反応を示せばそのまま二人に別れを伝えぬまま軽やかにまたダンスホールへと戻っていく。


歩みを止めぬまま、礼儀作法なんて知らないと悪戯に笑いながらくいとグラスを傾ける。なんていったって今響いてる音楽は優雅なだけではない、アリアの大好きな熱い激しさを持つリズム。


踊らずにはいられない!


空になったグラスを近くのウェイターに押し付けてアリアはダンスホールに飛び出した。
先程のトゥーヴェリテと踊ったダンスとは違う、自分自身の踊り。強く床を蹴り手を高らかに上げひらりと柔らかな布を宙に遊ばせる。


この曲と己の身体の動きが重なり、一体となる瞬間がアリアは大好きだ。どんな場所でも、どんな時でも。
幼い頃から民謡であれなんであれ音があればくるくると回って踊っていた。そこに何も音がなければ自ら歌って踊り出した。それを見て微笑んでくれる家族や皆が大好きで、またそんな自分も大好きで。とても楽しくて。

曲は、音楽は、歌は人々の最大の娯楽であり癒しと思っている。それはアリア自身がそう感じているから。
生憎と楽器を扱う才能は無かったが、それでもこの踊りを見て自分と同じように他の誰かも音楽に心揺さぶられ、そして癒されればと。踊りで音楽に更に鮮やかに色を付け、見て、聞いた者に何かを残せればと。


何よりも退屈に人生を過ごさずに、今この瞬間を音楽と共に楽しく熱く生きたい。それがアリアの踊る意味。



そして最後、曲が終わると同時にアリアはくるりと優雅に、ゆっくりとその場で回った。周囲の人々がどんな表情をしているか、どんな風に感じていてくれたかを見るために。昔からの癖である。



薄らと流れる汗も、少し乱れた息も心地よく、アリアは満面の笑みを浮かべながら一礼をした。



しゃらり。

硝子の音が、心地良い。






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ウィンターパーティ中のお話。


こうみさん宅、ファインさん(@910sousaku)
豆腐屋さん宅、ルゥルゥさん(@the_toufu)

お名前のみ
みそさん宅、トゥーヴェリテさん(@misokikaku)
お借りしました。

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