朝目覚めると、私の隣に当たり前のように傑がいる。すやすやと規則正しい寝息を立てていて、布団は首元までしっかりと手繰り寄せられていた。その事実が何よりも幸せだった。
隣に傑がいることに対しての幸福もあるけれど、なによりも、ぐっすりと睡眠をとっているという事実が嬉しかったのだ。だって、睡眠を取れるってことは、健康な証拠だ。
心が病んでしまっていたら、睡眠なんてままならない。呪術師は体が資本だから、寝れないなんて時は次の日のポテンシャルに響く。

カーテンに朝日が差し込んで、室内がじんわりと明るくなり、優しい色を部屋に反響させている。
傑の顔も薄明かりの中でぼんやりとわかる。
愛しい気持ちはむくむくと湧き起こり、呼吸をするたびに上下する胸に飛び込みたい衝動に駆られてしまう。
生きていてくれてありがとう、と。そばにいる権利をくれてありがとう、と。
傑より早くに起きた時は傑が生きていることにまず感動して嬉しくなって幸せになる。それから、愛しい傑をぎゅっと抱き締めたい気持ちが高まるが、傑の安眠を邪魔するわけにはいかない。
ぐっと自制して、傑の顔を見つめる。
やっぱり傑はかっこいい。はちゃめちゃに。これで性格も最高で優しくて紳士なのだから、もうたまらないのだ。
私が傑のパートナーだという事実を事実だと受け入れてはいるが、時々それがどうしようもなく不思議で、あり得ないことなんじゃないかと、夢でも見てるんじゃないかと思うけれど、傑の私を映している瞳を見つめると、ああ、安心していいんだな、って、認めていいんだなって思わせてくれる。

今はその安心させてくれる瞳は瞼に隠されてしまっていて、普段はあまり見ることのない気の抜けている無防備な顔をしている。
額にかかった前髪をそっとかきあげてみた。

「そんなに見つめられたら穴が開いてしまうよ」

「起きてたの?」

「起きてたよ」

私が身じろぎをしたときから起きてた、という傑。ということはつまり私が覚醒する前ということだ。だって私は傑を見つめる前に身じろぎはしていないから。まんまと寝たふりをする傑に騙されたということになる。お茶目でかわいいな。

「私の顔に何かついてた?」

「素敵なおでこだなって」

フフッと息を吐くように笑って、夏油は緩やかに瞳を閉じた。
本当に素敵なおでこだ。縫い目がない。正真正銘の傑。本当に大好き。
今は跡形も何もないおでこの跡をなぞってみようかな、と手を伸ばしてやっぱり辞めた。

「てっきりキスしてくれるかと思ったのに」

パチリと瞼を開いた傑が、中途半端に伸ばしかけた私の手を握る。

「キスよりも今は力一杯抱き締めたいな」

私が自分の思っていることを少しずつではあるがきちんと言葉にできるようになったのは、辛抱強く傑が私の話を聞こうとしてくれたからだ。
こんな言葉口に出す場合じゃないな、とか、言わなくてもいいや、と思っていた思いの数々は傑がほとんどすべて拾い上げようとしてくれて、自分自身の思いを傑に伝えようと思わせてくれたから。

夏油は穏やかに差し込む朝日に負けず劣らず、穏やかに微笑んで「もちろん」といって私の首元に腕を回して反対側の肩を抱いた。
私は夏油の胸元に頭を預けて、片手を添える。
本当は相手の顔を見えなくなるぐらいぎゅっと密着したかったのだけど、傑の少しだけ眠そうな顔を見つめていると、この体勢でよかったなと思う。
傑の足はぽかぽかしていて、私に程よい温かさを分け与えてくれる。

「キスはしてくれないの?」

傑の顔を飽きもせず眺めていたら口を尖らせてそんなことを言う。

「目覚めのキスだよ?」

かわいいなぁ、と嬉しくなっていると催促を強請ってきて、つい口角が上がる。
そして、傑からのお願いは断る理由がないので、軽く触れるだけのキスをしてみた。
そして頭を傑の胸元に戻そうとすると肩に添えられていた傑の手が私の後頭部に移動していた。私の手を握っていた片手はいつの間にか腰の方に回されていて、ぎゅっと体が密着する。

「もう一回」

先ほどまでは眠そうにしていた傑はどこにもいなくてぱっちりと目を開けてすっかり目覚めた顔をしていたから、もうこれ以上は目覚めのキスなんて要らないんじゃないか、と思うけど、もう一度キスをしないと傑は私を離してくれそうにない。離してくれなくても支障はないけれど。甘える傑が愛おしくてたまらない。でも、今日も仕事に行かなくちゃいけない。高専のバカみたいに長い階段を、傑と何度も並んで歩いたあの道を今日も歩かなくてはいけない。
私は両腕をすぐるの首に回して息が詰まるぐらいぎゅっと抱きしめた後、傑のお望み通りもう一度キスをした。
かっこよくて優しくて素敵な傑の甘えん坊な一面はきっと私しか知らないかもしれない。そう思うと、わっと体に熱が集まってきて満ち足りた気持ちになる。

「傑大好き」

「私も大好きだよ」

その言葉は何度言っても言い足りなくて、何度聞いてもとんでもなく嬉しくて。その言葉を聞くたびに私の心はぽっと明るく暖かくなる。やっぱり傑は最高だ。
ぎゅっと力を込めて強くくっつき、少し身を離すと今度は傑の顔が近づいてきたから私は瞼を閉じた。


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