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05

「あっ、でも明日も学校あるよね?もう遅いし今度にした方がいいかな?」

慌てて腕時計を確認するともう22時を回っていた。この前あんな風に怒っておいて、わたしのせいで千冬くんを遅刻させるわけにはいかない。そう思って言うと「いや、こんなの気になって絶対寝れねぇから」と千冬くんが苦笑いしながらわたしの手を確かめるように握った。

「遅くなってもいいから、今話聞かせて」


こんな時間に高校生を連れ回すわけにもいかず、結局わたしの部屋で話すことにした。付き合う前の男性を夜遅くに部屋に入れるのもどうかとは思ったけれど。少し緊張した面持ちの千冬くんを部屋の中に招き入れる。

「狭い部屋ですが、どうぞ」
「…お邪魔します」
「適当に座っててね。お茶でいい?」
「あ、はい」

部屋に入ると急に借りてきた猫のように大人しくなった千冬くんが可愛くて、キッチンでお茶の準備をしながらこっそり笑った。さっき不審者から助けてくれたときはあんなに頼もしくてかっこよかったのに、こういうところはやっぱり年下の可愛い男の子なんだよなぁ。でもそのギャップが良いと思ってしまったわたしは多分もう後戻りできないところまで来てしまっている。

リビングにあるローテーブルに氷と麦茶の入ったグラスを置いて、向かい合って座った。

「2度も助けてもらって、本当にありがとう」
「いや、間に合って本当に良かったっす」

まずは前回と同じくお礼を言って、深く頭を下げた。千冬くんが来てくれなかったらわたしはあの後犯されるなりしたあと、最悪殺されていただろう。彼はもはやわたしの命の恩人である。拝むような勢いで頭を下げたわたしに、千冬くんは「大袈裟っすよ」とちょっと笑った。それから本題に入る前に、ひとつ深呼吸をする。急に心臓がどくどくと大きく鳴り出した。あー…やばい、めちゃくちゃ緊張する。

「…あのね、わたし千冬くんのこと好き、なんだと思う」
「本当に…?」
「うん」

はぁ、と深く息を吐いた千冬くんが、ローテーブルの向こうからわたしの隣へと移動してきた。膝と膝がくっ付きそうな距離に更に心臓がうるさくなる。

「…ぎゅってしていい?」
「ん、いいよ」

恐る恐る言う千冬くんがたまらなく可愛くて、わたしから腕を広げた。ぎゅっと抱きしめられた瞬間、胸の奥が満たされていくのを感じる。わたしも応えるように背中に腕を回して、ぎゅうっと力を込めた。触れ合った身体から聞こえてくる心臓の音がとんでもなく速くて、彼に気付かれないように小さく笑った。

「なまえさん、俺と付き合ってよ」
「わたしも…千冬くんの彼女になりたい、です」

腕の力を少し緩めて、こつんと額を合わせた千冬くんがわたしの頬に手を添えた。目を閉じると触れるだけの優しい口付けを落とされた。高校生のくせに、やけにスマートなキスにほんの少しもやっとしてしまったことは彼には内緒だ。

「はぁ…17歳か…」
「まだそれ言う?」
「そりゃ言うよー」

千冬くんの胸にぽすんと身体を預けて小さく溢した言葉にムッとした声で返された。これからも絶対この年齢差に悩まされることは分かりきっている。というかこっちはこの1週間何度「未成年 交際 合意の上」と検索したと思っているんだ。

「でもさ、なまえさんもう俺から離れられないでしょ?」
「それは…そう、かも…」

そう返すと一度ぎゅうっと力を込めて抱きしめられた。少し苦しかったけど、何度も力を込めて確かめるように抱きしめる千冬くんからの気持ちがどうしようもなく苦しくて、その苦しささえ愛おしかった。


「付き合うにあたって、ルール決めよう」
「ルール?」

彼はまだ高校生で、大人であるわたしが守るべき存在だ。こんなことを言うと絶対嫌がるのは分かっているのでもちろん口には出さないけれど。たとえお互い好き合っているとしても、人として、社会人として、これはわたしなりのけじめだった。

「千冬くんが高校を卒業するまで、この関係は誰にも言わないこと」
「は?」
「それまでお泊まりはダメ、言うまでもないけどえっちもしない」
「はあ!?」
「守れないなら付き合わない」
「…本気で言ってます?」
「冗談で言ってるように見える?」

この約束が守れないならこの話は無かったことにする。そう言うと千冬くんは明らかに納得いかないといった顔をしていた。

「お願い、分かって」

両手をぎゅっと包み込むようにして握ってそう言うと、千冬くんは少し考えてから渋々と「分かった」と頷いた。

「付き合ってる人がいることは言ってもいい?」
「それぐらいなら…」

そう言うと、小さく笑った千冬くんがぐっと顔を近付けてきた。するりと頬に手を添えられて、じっと目を見つめられる。やばい、と思うのに逸らせなかった時点で多分わたしの負けだった。

「ちなみにキスは?」
「……だ「やだ」
「んン…っ」

少し悩んでからだめ、と言おうとした言葉を遮るようにして千冬くんがわたしの後頭部を引き寄せ、強引に唇を重ねてきた。薄く開いた唇の隙間から舌を捩じ込まれて、逃げようとする舌を絡めとられる。いつのまにかわたしの腰を抱き寄せて何度もしつこく舌を吸われているとすっかりそんな気分になってくる。多分もうはしたなく下着も濡れている。

到底高校生とは思えないようなとんでもないキスのあと、ちゅっと可愛い音を鳴らして唇が離れて、大きく息を吸い込んだ。突然の深い口付けにクラクラしていると満足そうに笑った千冬くんが「ねぇ、キスもダメ?」とあざとく上目遣いで聞いてきた。これ、だめと言える女子がこの世界にいるんだろうか。

「……キスは…1日3回まで」
「その言葉絶対後悔させてやる」

既に後悔しそうになっているわたしはだめな大人だと思う。

「高校卒業したら覚悟しといてくださいよ」

悪戯っぽく笑った千冬くんに胸がきゅんとなって、たまらず彼の胸に飛びついた。

「とりあえず、今日はあと1回?」
「えっ、ま、待って…!」
「だーめ」
「んっ、」

こうしてわたしたちのお付き合いがはじまった。
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