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俺の誕生日から、つまりそういうことをしてからなまえさんの様子が少しおかしくなった。また前みたいになんか悩んでんだろうなあって思って聞いてみたら、やっぱりというかなんというか。多分これから先も何回も同じ問題にぶち当たって、その度になまえさんのことを悩ませてしまうんだろう。もし俺があと3年早く生まれてたら、もしなまえさんと同い年だったら…そんなこと、何度考えただろうか。でも俺が好きになったのは間違いなく6歳年上の立派に社会人やってるなまえさんだし、なまえさんが好きになってくれたのは高校生の俺なんだから、この現実を受け入れるしかないんだよな、と無理矢理自分を納得させてきた。なまえさんはたまに割り切れなくなるんだろう。多分俺よりも大人な分、彼女の方がずっとずっと考えることも多くて不安も大きいんだと思う。どうやったらその不安を取り除いであげられるかなんて分かんねーけど、思ったままを口にしたら泣きながら「しあわせ」って言ってくれて、なぜだかこっちが満たされてしまった。

そのあとのなまえさんはなんかもう、やばかった。正直俺もがっつきすぎた自覚はある。でも煽りに煽ってきたなまえさんも悪いと思う。いつになく積極的ななまえさんは恥ずかしそうにしながらも「もっと激しくして」とか、俺の上に乗って「…いれてもいい?」とから言い出すし、「きもちよすぎてしんじゃいそう」って喘ぎ混じりに言われたのはマジで腰にキた。えろすぎる。終わったあともお掃除フェ……いやいや、これは今思い出したらダメなやつ。とにかく、そんな可愛い姿見せられて我慢できるはずもなく。まんまと煽られた俺は本能のままになまえさんを抱き尽くした。そのあと恥ずかしがって布団から出てきてくれないところまで全部可愛かった。

始業式中、校長の話を右から左へと聞き流しつつ先日の情事を思い返しながら前に立つ女子をぼんやりと見て、あー、なまえさん制服着てヤらせてくんねーかな、割と童顔だし似合うだろうなぁ、なんて考えていた。


始業式だけで終わった年始最初の学校。3学期の授業はないから、学校に来るのはあと数回の登校日と前日の練習と卒業式当日だけだ。バイト以外は大した予定のない俺は今日も暇を持て余しているわけだけど、なまえさんは新年会らしい。遅くなるだろうからいつも通り駅まで迎えには行くと思うけど、それまでの時間をどうやって潰そう。タケミっちに声をかけたら「デートだから」と断られた。八戒はさぼり、他のみんなも今日はバイトらしい。仕方ない、家で漫画でも読むか…そう思い鞄を肩に掛けたとき、クラスの女子の会話が聞こえてきた。

「1回ヤったらそのあと会うたび毎回だよね」
「わかるわかる!別にいいんだけどさぁ、結局それかよ!って感じ」

そんなセンシティブな話を教室でするなよ…とは思ったけれど、それよりもその会話の内容の方が今の俺にはグサッとくるものがあって。思わず「なぁ、」と話しかけていた。

放課後には随分早い時間の教室で机の上に菓子を広げて、女子と3人で頭を突き合わせて俺は一体何の話をしているんだろう。

「女の人ってそういうの、やっぱ気にするもん?」
「そりゃ毎回そればっかだとちょっとねぇ」
「てか松野くんって彼女いるんだっけ?」
「あれでしょ?ほら、例のイマジナリー彼女」
「おいこら、ちゃんと実在するわ」
「でも誰も見たことないって言うし」
「写真すら見せないのはさすがに存在疑うわ」
「………相手、年上の人だから」

これぐらいならギリ言っても許されるだろう、そう思ってぼそりと小さく放った一言が、女子2人をこんなにヒートアップさせてしまうとは思わなかった。

「うわぁ、なんか生々しいんだけど」
「えっ、年上のお姉さんとヤリまくってるってこと?」
「なにそれやばい!えろい!」
「でけー声でえろいとか言うのやめろよ!」

実際なまえさんはえろいしここ最近ヤリまくってるけども。「えー、松野くんて年上のお姉さんちゃんと満足させられてるの?」と揶揄われて、やっぱりこんな会話に参加するんじゃなかったと思った。

「デートしなよ、外デート」

家にいるからそうなるんでしょ?、と続けられたその言葉にうーん、と考え込む。2人で外に出かけることはあまりない。一緒にスーパーとかは行くけど、デートらしいデートはこれまでほとんどしたことがなかった。知り合いに、というかなまえさんの会社の人に見られて誤魔化しきれなかったときがやべぇからだと思う。はっきりとそう言われたわけじゃないけれど。あと数ヶ月の我慢だけど、俺のせいでなまえさんにそんな我慢をさせていることは申し訳ないといつも思う。

「外なぁ…」
「あんま行かないの?」
「それはほら、イマジナリー彼女だからじゃん?」
「あっ、そういう…」
「おい、実在するっつってんだろ」

いつのまにか定着してしまった、俺には架空の彼女がいるというなんとも不名誉な噂の出所である山岸を今度会ったら絶対ぶん殴ってやる、と心に決めた。

「あんま知り合いに会いたくねーんだよなぁ」
「じゃあ遠出すれば?」
「それいいじゃん。松野くん推薦組でどうせ暇でしょ?」
「相手も年上なら旅行もありだよね」

なんで今まで思いつかなかったんだろう。旅行、ありすぎる。なまえさんと泊まりで温泉とか、うわ、めっちゃ良い。浴衣姿とか絶対カワイイし、絶対えろい…じゃなくて。すぐに思考がそっちの方に傾きかけたのをどうにか理性で引き戻そうとしたけれど、「松野くん、めっちゃニヤけてるよ」と女子に言われてしまったので多分できていなかった。

そうと決まれば早速計画。学校から駅までの途中にある旅行代理店の前に並べられたパンフレットをいくつか持ち帰った。温泉がいいな。なまえさんの浴衣姿見たい。あわよくばそういうプレイも楽しみたい。なんて、もう勝手になまえさんと旅行に行く気満々の俺の期待と妄想はどんどん膨らんでいく。って、これじゃ意味なくねーか?毎回毎回そういうコトにならないための遠出なのに。慌てて脳内の妄想を健全なものに切り替えて、パンフレットから日帰り温泉旅行を探した。


『仕事終わったよ。今から新年会行ってくるね』

19時頃なまえさんから届いたメッセージを見て、そういえば今日は飲み会だと言っていたことを思い出し『駅まで迎えに行ってもいい?』と打ち込んだ。遅くなる日はタクシーで帰るから、と最初は言うくせに結局酔って気分が良くなってふらふらと1人で帰ったりするときがある。この人は俺と知り合ったきっかけを忘れているんだろうか。予想通り『タクシーで帰るから大丈夫だよ』と返信が来た。『それ聞き飽きた。迎えに行くから終わったら連絡して』と返すと、しばらく時間を空けてから『ごめんなさい』と返ってきた。やっぱりこういう年上っぽくないところが好きだなと思う。放っておけなくて、でもつい甘やかしたくなる感じが可愛い。

飲み会が終わったなまえさんから電車の時間が送られてきて、それに合わせて家を出ようとしたとき「こんな時間にどこ行くの」と母親に尋ねられた。いつもなら「タケミっちのとこ」とかテキトーに誤魔化すのに「…彼女のとこ。もうすぐ駅着くらしいから家まで送ってくる」と、初めて正直に言った。

「えっ、なにあんた彼女いたの?」
「あー、うん、まぁ…」
「こんな時間まで、塾?」
「……飲み会だって。彼女、年上だから」
「へぇ」

ニヤニヤ笑いながら「今度うちに連れてきなよ」と言う母親に「そのうちな」と返した。うちの親は別に相手が社会人でもなんも言わねーと思うけど、なまえさんはそういうの、すげー気にしそう。親に紹介したら、ちょっとはなまえさんの不安も解消されるんだろうか。駅前に置かれた車止めのポールに腰掛けてなまえさんが出てくるのを待つ。改札から出てくる人たちの中に白いコートを着たなまえさんを見つけて駆け寄ると、すぐにこっちに気付いてくれた。

「ごめんね、遅くに。ありがとう」
「おかえりなまえさん」
「そんな心配しなくても、ちゃんとタクシー乗るのに」
「この前もそう言ってたけど、結局一駅歩いたの誰」
「わたしです…」

気まずそうに視線を逸らしたなまえさんの小さな手を取って「俺が会いたかったからいーの」と歩き出せばゆるく握り返されて「ありがとう」、「わたしも千冬くん会いたかった」って、目尻を下げてふわりと笑った。繋いだ手を楽しそうに振り回して歩くなまえさんは上機嫌だ。いつもより酔っている気がする。なまえさん酔ってるときめっちゃ積極的なんだよな。いや、この前は酔ってなくてもやばかったけど。結局そういう方向に思考が進んでしまうのを止めようと、そういえば…と旅行の話を切り出した。

「今度さ、ちょっと遠出しない?」
「遠出?」
「日帰り温泉旅行とか、どうかなって」
「…日帰り、温泉」

すぐに「いいね行きたい、楽しそう」と笑ってくれたけど、なんか今、間があった気がする。それから家に着いてすぐ、なまえさんが「酔った…」と玄関に蹲った。

「え、やばいやつ?」
「やばくはない、けど」
「けど?」
「ねむい」

もう限界、と本当にその場で寝そうになるなまえさんを慌てて抱き上げて部屋の中に運んだ。小さな声で「ごめん」と謝られたけど、酔ってるなまえさんを甘やかすのは嫌いじゃない。ソファかベッドかどちらに下ろすか悩んで結局ベッドに連れて行った。このまま寝てしまうならソファだと身体を痛くしそうだと思ったからであって、決してそういうことをしようと思ったからじゃない。全く期待していないかと言えば、それは嘘になるけれど。

ベッドに下ろしたなまえさんに一度触れるだけのキスをする。抵抗されなかったのをいいことに何度も唇を落として、そのまま舌を入れると苦いアルコールの味がした。酔ってるなまえさんは可愛くて好きだけど、これはちょっと嫌い。あと、飲み会帰りのなまえさんの髪から少しだけ煙草の匂いがするのも。だせーから言わねぇけど。唇を重ね合ったまま、なまえさんのコートを脱がせていくととんとんと胸を叩かれた。

「ん、ちふゆくん…今日はだめ」

だめ、という言葉に今日のクラスメイトの女子との会話が蘇る。やっぱりなまえさんも、毎回そういうことをするのは嫌だったのかも。

「…ごめん、俺がっつきすぎ?」

恐る恐る伺うと「そうじゃなくて…」と少し顔を赤くしたなまえさんが、俺の服をきゅっと握った。

「その…生理、きちゃって」
「え、うん?」
「それで、あの、ほんと恥ずかしいんだけど…」

これ以上したら、わたしが我慢できなくなるからだめ、って…それはさすがにズルすぎるんですけど。つーか、むしろ我慢すんのキツくなるんですけど。

「わたしの方がよっぽどがっついてるよね…はしたなくてごめんなさい」
「いや、全然…めっちゃ嬉しい」
「…ほんとに?」
「ほんとに」

ぎゅっと抱きしめると俺の胸元でよかったぁと小さな声が聞こえた。いや、マジで嬉しい。「やっぱり旅行は泊まりにしない?」と提案すると、わたしもそれがいいなって思ってたとなまえさんがちょっとだけ恥ずかしそうに笑った。
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