友人の兄:三ツ谷隆は悩んだ

「見間違いじゃねぇの?」
「それを確かめるために来てるんでしょ」

あれは絶対お兄ちゃんの知り合いだった、と言い張るマナに連れてこられたのは、マナの友達のナマエちゃんがバイトをしている駅前のファミレスだ。



『お兄ちゃんの友達がわたしの友達と付き合ってる!!』
「…はぁ?」

数日前、俺のアトリエに顔を出したマナを駅に送ったすぐあとに電話がかかってきた。忘れ物でもしたのかと思いながら出ると、突然俺の友達とマナの友達が付き合っていると言い出した。いやいや、お前俺との歳の差分かって言ってんのか?

どうせマナの見間違いだろうと思っていたが「あれは絶対お兄ちゃんの友達だった。名前は思い出せないけど何回か見たことある」とマナは言い張る。そう言われて考えてみるも、マナの友人と付き合うような知り合いが全く思い浮かばない。


「お待たせしました。ハンバーグとライスのセットでございます」

しばらくして料理を運んできたのはナマエちゃんだった。このファミレスはアトリエが近いこともあり、打ち合わせなんかでもたまに利用している。マナと来たことも何度かあって、ナマエちゃんとも面識はある。元気で愛想の良い、可愛らしい女の子だ。そんな彼女が自分の知り合いと付き合っているなんて言われてもどうもピンとこなくて、正直マナの言葉はあまり信じていない。

「マナちゃんのお兄さん、こんにちは」
「ナマエちゃん久しぶり」

にっこり笑って軽く頭を下げて挨拶をしたナマエちゃんは接客業に向いていると思う。人好きのする笑顔だ。それからマナと一言二言話したあと「そろそろ仕事戻るね」と手を振ってバックヤードの方へと歩いて行ったナマエちゃんの後ろ姿を見送る。いい子だとは思うけれど、さすがに10歳近く歳下で、更にマナと同い年と言われるとどうも妹にしか見えない。

マナと会ったことのある知り合いとなると元東卍メンバーだろうか。ドラケンはないな。もしそんなことがあったら絶対報告してくるだろうし。パーちんは既婚者だから除外。ぺーやんなんて怖すぎて女子高生が近づけなさそう。タケミっちにはヒナちゃんがいるしナシ。千冬は前に「年上が好み」と言っていた気がする。消去法で行くと1番可能性が高いのは一虎辺りだろうか。女子高生に好かれそうな顔ではある。


向かい合って座り、運ばれてきたハンバーグを頬張るマナを見ながら溜息を吐いた。こいつ飯奢らせるためにテキトーなこと言って呼び出してんじゃねぇだろうな。

「つーかバイト終わりのナマエちゃん待つならアトリエで良かったんじゃねぇの」
「えー、お腹空くじゃん」

ハンバーグをきれいに食べ終え再びメニューを開き、デザートを選びだした。「ナマエに貰ったクーポンあるから、たまにはいいでしょ?」と言って店員を呼び出しパフェを注文したマナにもう一度小さく溜息を吐いた。やっぱり飯奢らせるためじゃねぇか。



「あ、ナマエ出てきた」

ナマエちゃんがバイトを終えたのを確認して会計を済ませ店を出たすぐあと、マナの声に顔を上げて裏口から出てきた人影を目で追う。ナマエちゃんがきょろきょろと辺りを確認してから、ポケットから取り出したスマホを弄っている様子が見えた。それからすぐに一台の車が停まった。

「あの車!運転席にいるのお兄ちゃんの友達でしょ!?」
「ここからじゃよく見えねぇな」

こっち!と運転席が見えて尚且つナマエちゃんからは死角になっている場所へとマナが俺の腕を引っ張る。

そこにいた人物に先程の俺の予想は大きく裏切られた。

「……千冬?」
「だから言ったじゃん!」

運転席に座っていたのは紛れもなく千冬で、いやでもまだ親戚って線も捨てきれないのでは?という俺の考えをさらに裏切るかのように、千冬が助手席に乗り込んだナマエちゃんの頬に手を添えて覆い被さるように…いや、知り合いのキスシーンなんて見たくねぇんだよ。俺は慌てて目を逸らした。隣にいるマナも気不味そうに目を逸らしていた。それから再び車内に目を向けるとナマエちゃんの頭をポンポンと撫でる千冬と嬉しそうに笑うナマエちゃんが見えて、雰囲気が完全に付き合っている2人のそれで。

え?つーか、え?なに?千冬、女子高生と付き合ってんの?しかもマナの友達と?世間狭いな、じゃなくて、

「マジかよ…」
「ほら、お兄ちゃんの知り合いだったでしょ?」

人の恋愛事情に首を突っ込みたくなんてない。しかしこれはどうしたものかと、走り出した車を呆然と見送りながら頭を抱えた。





千冬とナマエちゃんのキスシーンを目撃(正確には見ていないけど)してから何日か経った。平日の昼間なら店もそこまで忙しくはないだろうと思いやってきたのは千冬が経営するペットショップだ。久しぶりに来て初めて気が付いたが、店は駅とマナが通う高校との中間地点にあった。なるほど、つまり千冬は通学途中のナマエちゃんとここで知り合ったわけだ。

「よっ」
「三ツ谷じゃん、珍しいな」
「はいこれ、差し入れ」
「おー、サンキュ」

来る途中で買ってきたコーヒーとドーナツが入った紙袋を一虎に手渡す。店内には今一虎1人しかいないようだった。

「千冬は?」
「今休憩中。昼飯買いに出てった」

それは好都合だと思い、早速本題に入る。

「なぁ一虎」
「なに?」
「ナマエちゃんって知ってる?」

店の前を通るのであればきっと一虎もナマエちゃんのことは知っているだろうと思い聞くと、持っていたボールペンが手から滑り落ちた。あからさまに動揺した一虎に、あ、こいつも2人が付き合ってること知ってんなと思った。

「…知ってる、けど」
「じゃあさナマエちゃんの彼氏…誰か知ってる?」

一虎が拾ったボールペンを再び落とした。いや、動揺しすぎだろ。

「やっぱ知ってんだ」
「まぁ…千冬に直接聞いたわけじゃねぇけど…え、つか何で三ツ谷がナマエちゃんのこと知ってんの?」
「妹の友達」
「マジ?世間狭すぎねぇ?」

それから一虎が2人が付き合っていると知った経緯を聞いて、聞くんじゃなかった…と後悔した。

「いやもう俺はアレを見てから誰かに言いたくて言いたくて仕方なくて!!」
「言えねぇけどな」
「それな!?めちゃくちゃ言いたいけど言えねぇの!」

隠すならもっと徹底的に隠してほしいわ、と言う一虎には全面的に同意する。

「千冬は遊びってわけじゃねぇんだよな?」
「まぁ、ちゃんと隠してるってことはそういうことじゃねーの?全然隠しきれてねーけどな」

「てか千冬のあの甘ったるい顔見たらすぐ分かる。あれはガチ」

以前見た光景を思い出したのか、おぇ…と言いながら話す一虎に苦笑いしつつもホッとした。もちろん千冬に限ってそれはないとは思うけれど、大切な妹の大切な友達が年上の男に遊ばれていたら胸糞悪いなんてもんじゃない。一応それを確認する為に訪れたわけだが、一虎がこう言うんだからきっと大丈夫だろう。

「三ツ谷が話聞いてくれて助かったわ」
「そりゃ良かった」
「てか聞いてくれよ!この前もさ、」
「おいやめろ、聞きたくない」
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