おうちデート/爆豪勝己(MHA)

勝己くんと隣県の縁結びスポットがある山に行こう、と計画していたのに当日はあいにくの大雨となってしまった。
「明日は絶好の行楽日和でしょう!」と満面の笑みで胸を叩いて予報していたお天気キャスターの顔を思い出すと腹が立つ。
それほど自信たっぷりに予報したくせに、太陽が昇ると同時に態度を急変させるとは何事だ。
代わりに美術館はどうかと探したが、めぼしい美術館は展示替えで、目に入ったのは木食作の仏像展くらいだった。
私は楽しいが勝己くんには退屈だろうということで却下し、私の家に来ないかと提案したのが3時間前のこと。

我が家で二人で過ごすとなったが、一人暮らしの女子大生の家に用意はゲームくらいしかない。
しかもソロゲーしかやらないものだから、選択肢は「ぷよぷよ」シリーズ一択だった。
ゲームはあまりしないと聞いていたのに、勝己くんはなかなか強かった。
ぷよぷよに関しては一家言ある私にハンデなしで挑んだ時は正直鼻で笑ったが、結果イーブンの勝負となった。
私の腕が鈍ったのかな、と呟くと彼は「俺に勝とうなんざ100000000年早ぇ。」と即座に返してきた。
ぷよぷよ初心者のくせに生意気だ。
2時間も勝った負けたを同数繰り返して、一息入れる。
折角の機会なのでハロッズの14番の封を切った。
勝己くんはプレステのコントローラーを放り出して、頭をがしがし掻きだした。
家に上がってからの彼はらしくもなく、どことなくそわそわしている。
前のめりになっていた体を戻し、背後のベッドに軽く寄りかかる。
……と、そこで勝己くんに睨まれていることに気づいた。
いや、本人はおそらく睨んでいるつもりはなく、ただ私を見ていたのだろうが、元来の目つきが悪いのでどうしても険の強いまなざしになってしまう。
紅茶のおかわり?と尋ねると「いらねえ」と短い返事をして、そのまま黙っている。
私の上から下までじろじろと値踏みするように眺めて、漸く二の句を継いだ。

「おう、お前さ。」
「おう、なんだい。」
「……、したくならねえの。」
「は? なにが。具体的に。3行で。」
「………。ヤりたい、したい、触りてえ!」

端的で素直、そういう潔さは好感度大です。しかし――。

「未成年に手を出したのがばれたら私捕まっちゃう。」
「いまだって手ェ出してんだろ。」
「問題は人前で出来ないことだからですよ。ああ、でもお、勝己くんはそういう事がしたいんだぁ? ヒーローの彼女が未成年者淫行の前科持ちで良いのかなあ〜。」
「……てっめコラ犯すぞ。」
「やーん、助けてオールマイト〜。」
「マジで殺んぞ。」

こめかみに青筋を立てて、私の手首を掴む。
人差し指の爪が食い込み、痛みに眉をしかめた。
加減を間違えた、とバツの悪い顔をした勝己くんはすぐさま力を緩めてくれた。
普段からじゃれながら掴まれる事はあるが、いつもは加減してくれていたのだ。
考えるまでもなく当たり前の事だが当たり前すぎて気づかなかった。

しかし、彼は力を緩めただけで手首を離す気はなく、また、この話から解放される見込みも薄い。
居心地の悪い沈黙が続く。
手首の事の負い目があるようで、彼は口をへの字に曲げたまま黙りこくっている。
頑固な彼のことだ。
引くことは無い。
きっと一時間でも二時間でも、いや、その気になれば明朝までこうしているのが目に見えた。
体力勝負の意地の張り合いで私が勝てる見込みは限りなく0に近い。
すでに時計の長針が5つ分時を刻んだ。
彼が気まずい心地でいることは新居の窓ガラス並に透けて見えるが、決して目を反らさない。
なかなかどうして、頑固さが彼の長所でもある。
破壊的に性格が悪いけれど、その性格を支えているのはこの頑固さで、しかもその頑固さが彼をヒーローになるという夢に駆り立てる力の一端である。
長所と短所を表裏一体にするとは、神様も器用に人間をお造りになったものだ。

また時計の長針が目盛り2つ分動いていることに気づき、私から口火を切ることにした。
元より私からきっかけを作らねばこの状況は何も動かないことは分かりきっていた事だ。

「あー……からかったのはアレだったけど、……うん、その、や、なんっと言うか、いやじゃないんだ、よねッ。」

勝己くんの喉がごくり、と上下し、私の手首を掴む手に力が入る。
痛いってば、と言えばすぐに力を緩めた。
でも離す気はさらさら無いのですね。

「……ウチに入れた時点で、まあ、なんとなくそういう雰囲気になるかもなーなんて思ったりしなかった訳じゃない……いやあ、でもさあ言うて勝己くん真面目だし損になる危ない橋は渡らない系だし、ウチでは人目気にしなくて良いからいつもよりも寄り添っていられれば良いかなーと思っただけでこれは下心ってほどのものじゃないんだな。」
「あァ゛? 要はそのつもりだったんだろうが。」
「え、あ、まさか勝己くんががっつり要求してくるとは思ってなかったんだよ! 内申点気にしてタバコ吸わないような人が!」
「……それで。」
「……? おてて放してくれると嬉しいな。」
「ふっざけんな!」
「大声は近所メイワク。お帰りいただくよ。」

またもや彼はむっつりと黙り込んだ。
いやに素直に従うところが不気味だ。
言外の「静かにしろ」という要求に従うだけの利点があるからに相違ない。
さっさとお帰りいただいたら良かった。

膝をにじり寄せ、顔を近づけてくる。
互いの顔がほとんど重なる距離。
人目を避けながら外で口づけしたことは一回二回ではない。
よって、顔が近いという事は照れるまでもないのだが、真上から落ちる蛍光灯の光が勝己くんの顔の陰を濃くして、心なしか大人びて見える。
彼女とセックスしたい、と懸命に願う姿は大人という単語からほど遠いが。

「……オイ、ブス。さっきのは嫌じゃないって意味だよな。」
「ブ……おまえ、彼女にそれはないでしょ……それを抱く気かよ……。あ、まあね、うん。万が一、淫行罪になっちゃったらやだなー、勝己くんの将来的に困るだろうなーと思っただけで……いやじゃない、です。」

言い終わるや否や、彼が唇を押しつけた。
そのまま押し切られて、背にしていたベッドに反るような形で頭を付ける。
手首はそのまま顔の横に押しつけられた。

「うっ、……びっくりするじゃん! つか手首!」
「静かにしろや。近所メイワクでェす。」

根性が3回転半ねじくれ曲がったステキな笑顔が降り注いだ。
一瞬恋人ということも忘れる程に腹が煮えくり反るほどの。
自由な脚で股間を蹴り上げてやろうと思ったが、その後が恐ろしすぎる上、不能になっても私が悲しいので思いとどまった。





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