狂女/ベクター皇子

…お目覚めですか。
ふふふ、おはようございます、皇子。
きょとんとした顔をして、どうしたのですか。
この傷ですか?
まあ、覚えてないのですね。仕方のない方。
でも、ずいぶん酔ってらしたみたいですから無理もありませんね……。
手首の痣は、こうして…皇子が私を押さえつけたから出来たのです。
頬ですか?
たいしたことはないのですが、…すみません、逃げようとした時に寝台の端に顔をぶつけました。血は出ませんでしたよ。お気遣いなく。

はい、どんな風に事に及んだかですね。
説明するのは恥ずかしいですが……。
ええと、いつも通り、寝る前のお酌をしていましたら、抱き寄せられて、……腰をぐっと押さえられて、放していただけなくて……。
変だなと思って、離れようと押し返したのですが、腕力がもう、違うので。
それから、唇が押し当てられて……。
私もお酒が回りつつあって、あまり身動きが取れなくなっていたものですから、あっという間に組み伏せられました。

でも、皇子のご様子がおかしかったので、……なんと言いますか、目が据わってらした。それでちょっと怖くなったので『やめてください』とお願いしました。
何度も。
すると口を塞がれました。
苦しかったです。
呼吸が出来なくて、手を離して頂けたときには少し涙が出ました。

……あ、いたた…、いいえ、すみません。
その、口を塞がれた時に口の中を噛んでしまっていて。
まだ血が滲んでいるみたいです。

それで、話を続けますが……抱かれている間も、皇子は全く正気ではありませんでした。
無礼な物言いをお許しくださるならば……身勝手で、一人でしているようでした。
幼子が人形に無体を働くようにしました。

ええ、はい、その………まだ、痛みます。
こんな事ほとんど無いのですが、いまはお腹の中が、鈍い痛みがあって、鉛のように重くて……。

終わったあとは、やっぱり無言のまま、お休みになられました。
私は少し体を拭いて、今までお側に。

……顔を押さえて如何しました?
ようやく思い出しましたか。
顔が赤いですが、照れてらっしゃる?
まあ、皇子が私に言わせているのですよ。
私に慎みがないような言い方は止してくださいまし。
お酒に飲まれたのが恥ずかしいのですか?
そうですか……私も毎回酒精に囚われた皇子に抱かれると考えたら素直に嬉しいとは言えませんが。
はい、怖かったかと言われれば、そうですね。
皇子が乱暴だった事よりも、呼びかけに一言も言葉を返していただけなかった事の方が恐ろしいと思いました。
言葉が届かない事ほど悲しいことはありませんね。
あんな貴方様は初めて見ました。
我を失う程酔うなんて、どうしたのでしょう。
何か悲しい事でもありましたか?
飲み過ぎはいけませんよ。

……さっきから顔が赤くなったり青くなったり、忙しい方。
私が怒っているかと?
この顔が怒っているように見えますか。
なぜ少し嬉しそうだと?
皇子の好きにされるのが、私の幸福ですから当然です。
どうぞ人形のように扱ってくださいませ。
壊れた人形のように扱われると、胸が、きゅうっと切なくなるのです。
誰よりも強くて弱くて、悟っていながら幼い。
なんて可愛らしい。
何故と問わないでください。す
べては貴方を愛しておりますがゆえ。





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