甘い夢 /メルトリリス(Fate ccc)

十ばかりの少女がいる。
ここは彼女の部屋。
ピンクと白の彩色、丸角の家具。
まるでドールハウスのような、愛らしさを突き詰めた部屋だ。
少女が身に着けるのはたっぷりとギャザーの入ったスカート。
彼女はラグの上にぺたんと座りこんでいた。
青い髪の少女が、幼い少女の傍らに立っている。
彼女たちの前には装飾の少ない木の枠でできた戸棚。
戸棚の前には、黒いカーテンがかかっている。
少女趣味でできた部屋の中でその色だけ違和感がある。
大事なものがその陰に隠されているのだろう。
短い腕を伸ばし、戸棚のカーテンを引く。
青い髪の少女は、幼い彼女の指さす先を見て、不機嫌に引き結んだ口元を緩めた。
顔を戸棚に近づける。
眉の上で切りそろえた前髪が、さら、と流れる。
「***、アナタ、人形が好きなの。」
「うん。これは幼稚園に入ったときからずっと一緒にいるジェニーちゃん。彼女のお友達のティモテ。こっちは海外に行ったときに買ってもらったバービー、それからこっちは最近興味を持つようになったリカちゃん。みんな可愛いでしょう。」
「そうね、素晴らしいわ。素敵よ、***。」
「メルトもお人形好き?」
「大好きよ。人形はこの世界で最も完璧な文化。理想の体の具現。至高の芸術。」
「メルトがそんなに褒めるのはじめて。お人形がいちばん好き?」
「人形が一番良いもの。人間なんて嫌い。」
「私もお人形になりたいな。」
「どうして。」
「メルトのいちばん好きなものになれる。」
「人間が人形になれるのかしら。こんなに不完全なのに、完全なものになんて。」
「メルトはなれる?」
「あら、私がなる必要なんてないわ。だって完璧だもの。」
「メルトは天使だもんね。」
「…またその話? いい加減に飽きたわ。」
「メルトは天使だよ。痛いのも怖いのも、ぜんぶ溶かして甘いあまーい夢にしてくれる。甘いお薬よりもずーっと効果てきめんだよ。」
「…………もう寝なさい。」
青い少女は再び不機嫌な顔に戻る。



「メルト、ごめんね。ばいばい。」
「…。」
「ごめんなさい。私の体の、本体の、キオクリョウイキはもう保たないんだって。お医者さんが言ってたの。いままで、私の記憶をレイシにして、データ世界に私を置いていた。人間の魂は記憶の集まりなんだって。だから記憶を保存しておけば、いい治療が見つかるまで、「私」の魂を残せるんだって。…でも、私の体はもうだめなんだって。脳は弱り切ってる。データになったレイシも、細かくバラバラになっちゃって、もともとの「私」を現実にサイゲンするのはできないんだって。わたしの心が弱いから、レイシがサンイツしたの。…ねえ、どうしてそんな、怖い顔するの。」
「私は認めないわ。」
「…やだよ、メルトは天使だもん。メルトに認めてもらわなくっちゃ、天国に行けない。」
「天使じゃないわ。悪魔よ。」
「どっちでも同じだよ。メルトが連れてってくれるとこならきっといい所だから。メルトがいないなら天国も地獄だよ。」
「………。」
「はやく溶かして。メルトの中に入れて。「私」がなくなっちゃう前に。」
「私のオールドレインは、貴方の人格を統合することじゃない。貴方の成分だけをいただくのよ。」
「メルトの中で見る夢はきっと甘くて深くて、雲の中にいるみたいなんだろうね。…ゆっくりしていたら、私、いなくなっちゃう。メルト。ああ…ありがとう…痛くないから、だいじょうぶ…。だい、す、………。」
「………。あーあ。無様よ。ひとつになるですって。馬鹿じゃないの。私、貴方なんて大嫌い、いつまでも綺麗な人形でいてくれたらよかったのに。ひとつになったってしょうがないのよ。愛でられないじゃない。そんなこともわからないの。」





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