センパイと一緒!/クラゲ先輩

 磨き上げられたボンネットに一点の曇りもない。運転席に乗り込み、キーを差し込む。慣れとは恐ろしいもので、バリアンに転生して以来、車には数年乗っていなかったというのに体はしっかりと革ハンドルの心地よさを覚えていた。空間を自在に移動出来るのは、それなりに便利だったがこの不便さを楽しむのが人間の醍醐味であると、人間としての肉体を再び手に入れた今になって思う。まったく、世のなかの餓鬼どもは何かにつけちゃあ便利便利と言いやがるが、不便の美学ってもんを先輩として教えてやらなくちゃならない。ミラーの角度を調整し、アクセルを踏み込む。ぼっ、ぼっ、とおんぼろエンジンが四輪を回して走り出す。最高にいい気分だ。思わず例の、トチ狂った走り屋野郎の歌を口ずさむ。些かオールドファッションすぎるが今も昔もこれ以上にハイウェイに似合う歌はありえねえ。

「あーいむ、あ、はーいうぇいすたあー!」
「ほおー、よく知ってるじゃねえかあ。」
「はいっ、蝉丸さんたちとカラオケで練習しましたー!」
「いいねえ、先輩の好みを知っておくのも後輩としての努め…、ああ゛ん?!おいっ、テメエ何時からそこに居たァ?!」
「はっはっはー、先輩が車乗るのに合わせて朝5時から待ち伏せしていましたー!ああ、先輩、前見て前、ぶつかるうう!」
「ひいッ! あ、あ、あっぶねえー…、また事故ったら洒落にならねえってんだよォ…。オイ、テメエ降りろ!捨ててくぞォ?!」
「えええ〜、そんなあ、可愛い後輩をこんなところに置いていくなんてひどいですよ〜。」
「お前を後輩と認めた覚えはないんだよなァ〜?」
「さっき先輩の好みを知るのも後輩の努めって言ってくださいましたよー。」
「言葉のアヤだ、あー、小うるさいのを連れてきちまったァ…。」
「よかれと思ってカーナビしますよ〜、地図見せてくださあい!」



「おい、ここはァ、一体ィ、何処なんだァ〜…?」
「いやー、迷った迷った! 私方向音痴なんです!」
「…それっておかしくないかなァ〜?」
「あっ、先輩いいノリしてますね!わたし暗黒使徒が好…いだだだだっ、うあめ、やめてくださいいい〜。」
「そこの絶壁から突き落として海のクラゲ大先輩の餌にしてもいいんだがァ〜〜?」
「それだけはご勘弁を! できることなら先輩のえさになりた…あたたっ、冗談ですってば!」
「たっく、帰るぞォ…。」
「はーい! 今度は道間違えませんから!」





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