おはよう。/キャッシー

 生温かい風が顔を覆った。混濁する無意識から自我を引き上げるに連れて、冷んやりとした湿っぽい空気と暁の光が意識に射し込んだ。遠くからモノレールが滑る音が響く。始発は30分前に動き出した。世間の皆様方、今日も通勤通学お疲れ様です。塵芥となって働く人々がいるから私は生きていられる。自嘲気味に笑いを零すと、目の前のくりくりとした翡翠色が大きくなった。生温い風の原因は彼女の小作りな唇から排出された二酸化炭素含有率の高い空気だった。
 「おはよう。可愛い子猫ちゃん。」
 横髪を緩く引っ張り、顔を寄せるように合図をした。双方、唇を幸せの形に吊り上げて唇をあわせる。仄かなメープルシロップの香りが色を添える。
 「一生こうしていられたら良いのに。」
 「そうね。悲しいかな、そうもいかない。だって私お腹減ったもの。」
 私に黙って朝食を済ませた悪い猫ちゃんには罰よ、と柔らかい背中を抱きしめた。





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