織姫と彦星/タイラー姉妹、ユーリ

タイラー姉妹の部屋では、ふたりが互いに大仰な袖のワンピースを着せ合っていた。下にはレースで縁取った膨らんだ下着を数枚重ねている。部屋から出ようとする妹に、ベッドに腰掛けたまま姉が声をかけた。
「おい、グレース、さすがにこの格好は…その…。」
「姉さん、これもエンタメデュエルの修行よ。もー! 恥ずかしがってないで行くわよお。レッツゴー!」
「ま、待て、裾が邪魔でうまく歩けないっ、うわ、扉に挟んだ、…グレース! 待てと!」
妹が廊下へ出ると赤のジャケットを来た友人の***がちょうど、彼女たちの部屋の方向へと角を曲がって来るところだった。
「あら、***〜。いいトコロに来たわ。見てこれえ、可愛いでしょう。」
「ふわ、すごく可愛い〜。どうしたのー、ふたりとも。お姫さまみたいだよ〜。」
「でしょう? もっと言って頂戴。姉さんったら恥ずかしがっちゃって、中々、部屋から出ようとしなかったのよ。これね、今夜の七夕のイベントの衣装なの。私たちで織姫様やるのよ。」
「へえ、エキシビジョンマッチの演出?」
「そうよお。んふふ、どーお? ジャパンのロリータブランドで七夕モデルが出てたから二人で色違いにしたの。スタイルが良いと何でも似合っちゃうのよねえ〜!」
「あ、うん…。そうだね…。」
「…スカートが短すぎる! やっぱり私はいやだ!」
「ところで織姫様がふたり? 彦星様は誰がやるの?」
「デニスがやるって聞いたけど。彼、こういうエンタメ系のイベントにはノリノリで参加するじゃない?」
「デニスかあ…。もうひとりは誰なんだろう。」
「あー…、どうして私がこんな事を…。」
「姉さんったら文句が多いわよ。この服は一緒に選んだじゃないの。」
「それはそうだが…こんな、馬鹿みたいだ…。」
姉の方はずっとスカートの裾を握って、わずかにうつむき加減で会話している。彼女らしからぬ様子に***は思わず微笑んだ。
「グロリア、グレースも、ふたりともすっごく可愛いよ。」
「えっ…、ああ、そうか…。」
「ほーら、姉さん、***が褒めてくれたわよお、良かったわねえ。」
「うるさいッ、…着た以上は仕方ない。ちゃんと最期までイベントをやり通す。グレース、ホールへ行くぞ。」
「はいはい。姉さんったら分かりやすいのよねえ。じゃーね、***。また後で。私たちのエンタメデュエル、しっかり見ててねん。」
「うん、ばいばーい。ユーリの部屋寄ってから行くねー。」
「なッ、***、え、ユーリのところ…? あああ…。」
姉は、うきうきと遠ざかっていく***の背中に名残惜しい視線を向けたまま、妹に引きずられていくのだった。

ホールでのエキシビジョンマッチは、盛況だった。狐が化けた織姫と本物の織姫というふたりの織姫、どちらが本物かを彦星が見定めるという趣向だったが、デニスの持ち味のエンタメ演出がホールいっぱいの生徒たちを湧かせた。その中に***とユーリの姿もあった。
「へー…あの姉妹が出ることになってたんだ…。馬子にも衣装ってこういう事なんだねえ。」
「ふたりともとっても可愛いよね。」
「意外に似合っちゃってるし、素直に可愛いって褒めるしかないね。」
「だよねえ。みんな色々着てるし、私も何かコスプレすれば良かったかな。」
「ハロウィンじゃないんだから。」
「それはそーなんだけど。」
エキシビジョンを終えた双子の姉妹が軽く汗を拭いてやってきた。
「ハーイ、私たちのエンタメはどうだった?」
「面白かったよー。グロリアさんもさっきまで嫌そうだったのに、すごかったよ。」
「…お前が見ているのが見えたからな。そうだ、七夕の短冊を吊るすそうだが、もう短冊は渡されたか。」
「あ、書いたよ。『デュエルでみんなを笑顔にできますように』って。」
「まあ、私と同じ。遊矢の言ってたことよね。姉さんは?」
「秘密だ。」
「ふーん…ま、分かっちゃうけどぉ。双子だものー。で、ユーリも書いたの?」
「いいや、まだだけど…そうだね…ボクの願いは自分でさっさと叶える方が良さそうだからな。」
「それ、どういうこと…? わ、なに、ユーリっ、急に何処行くの。」
「二人になれるところ。さ、行こう、織姫様。」
「もうちょっとゆっくり歩いて、ユーリ、…あ、グロリアさん、グレース、またね。」
中庭へ向かうふたりを姉があっけにとられた顔で見ている間、その横では妹が爪を噛んでいた。
「強引な彦星ね。やるじゃない、私たちも負けてられないわよ、姉さん。…姉さん? はぁ、しっかりしてよ。ユーリが***に変なことしないように見張らなきゃ!」





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