passionem/真月警部

 ***は私、“真月零”の二つ上にあたる。彼女の姉と遊馬の姉が同校とのことで、遊馬と彼女も親しくしている。遊馬の人懐こい性格からすれば、そんな繋がりがなくとも切っ掛けさえあれば誰とでも親しくなるのであろうが。
さらりと肩に流れる髪の間から覗く白い小ぶりな耳たぶ、重い前髪の下にきっと伸びた眉、部分を見れば気の強そうな印象を受ける。それを裏切る、儚いものを見るような目を、私は好きになった。
 今日もパトロールと称し、昼休みに遊馬を連れて彼女の学年のフロアへ続く中庭を通る。本来なら1学年が来る事はない。奇異の目で見られ少々居心地の良くない思いをするが、彼女の姿を目にしたいと胸がはやるのを抑えられない。
「ゆーうーまー!」
「おう!***!」
 背後で遊馬を呼ぶ声が上がる。このあたりまで来ると遊馬を呼ぶ可能性は彼女だけ、それに、あの声を私が聞き間違えるはずもない。振り向けば、陽光の下に愛らしい笑顔が盛夏の向日葵のように咲いていた。
「***、また難しそうな本読んでるなー、今日はなんだ?」
「これ?マザーグースよ。でも、今さっき読み終わったところ。もう何度も読んでるんだけどね。」
「へえっ、***さんもお好きなんですね!僕も好きですよ!」
「本当?周りに好きな人いないから嬉しいな。」
「はい!確か、イギリスの人たちは子どもに絶対に教えるくらい重要なものだとか」
「わー、よく知ってるね。色んな文学で引用されたりするから、知ってると面白いんだー。」
「あの、お済みでしたら、よかれと思ってその本貸して頂けませんか?僕、ちゃんと読んだことはなくって…」
「うん、いいよー!返すのはいつでもいいからね。」
 ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしている遊馬を尻目に***から一冊の文庫本を受け取った。初めて触れた彼女の手のひらは熱かった。それとも熱くなっていたのは私の方だったのだろうか。
 ありがとうございます、と笑顔で礼を言い切り上げる。あまり立ち話を長引かせるのは得策ではない。機会なら何度でもあるのだから徐々に詰めていけばいい。一度の長い接触よりも、数度の短い接触の方が良い印象を確実に積み上げられる。




 傾いた太陽が白い校舎の壁面を緋色に塗りつぶす。塵一つないリノリウムの床に伸びる影は私と遊馬の二つのみ。緩い曲面を描く壁伝いに教室を端から端まで見回った。第一校舎と第二校舎をつなぐガラス張りの通路まで残り30メートル。本日も異常なし、通常ルートの終了、というところで***の姿が目に入った。普段から人通りの少ない場所は、彼女の正面に立つのは同学年で同じ部活動の部員の男だった。そして、私と同様に彼女に行為を寄せている。部員同士で共にいるだけだ、なんの不信もないと言い聞かせつつ、迂闊にも声を掛けようとする遊馬を左手の教室に押し込み、私自身も素早く身を屈め様子を窺う。いかに鈍い遊馬でも、なんだなんだと言いながら彼女の様子を覗き見れば、漸くただならぬ雰囲気が理解出来たらしい。男が口を開く。やめろ、言うなと口から出かかった叫びを抑え壁に背を張り付けた。逡巡ののち、彼女の首がかくんと縦に振られる。ぶつん、と弾けた唇の皮から錆の味が広がった。







 下半身は下着のみを残し、ショートパンツやタイツは脱がせ、正座同様に折り曲げた脚をそれぞれベルトで固定する。痛みからは逃れられないが伸縮性のある素材だから皮よりはマシなはずだ。些か心苦しいが、***の悲痛な声への期待でぞくぞくと興奮が背筋を上る。ネクタイを緩め胸元をはだける。顔の横に両手を突っ張り、眠っている彼女に覆い被さる。
「***、…***」
 薬が効いているのか、呼んだだけでは起きない。眠り姫を目覚めさせるのは口付けと相場が決まっている。薄く開いた桃色の唇は咲き掛けた春の花の蕾のようだった。そっと唇を合わせ、舌を差し入れる。
「ん、あ…」
 うっすら目を開いた。やはり君は眠り姫だったのだな。くすりと微笑むと彼女は突如青ざめた顔で叫んだ。
「や、なにしてるの!やめて!」
「君に拒否する権利は無い。」
 喚く口を後にし、首筋に口付けを与える。唇で緩く食み、皮膚を舌先でなぞる。***はひくり、と肩を跳ねさせた。恥じらう彼女はまさしく私の理想通りだと改めて感じ入る。
「痛い、なにこれ…。脚の!取ってよ!」
「駄目だ。これはお仕置きなんだ。」
「何言ってるの…、ひいっ」
 薄いサテン地に覆われた下半身の丘に触れ、肉の谷間へと中指を滑らす。閉じようとする両腿の間に陣取り、膝を割り開く。滑らかな手触りが心地よく、するすると撫で回す。指に力を加え、膣口の位置を探る。折り曲げた指が布越しに肉と肉の間に沈む。恐怖に見開いた目がこちらを射る。身をよじり、自由の効かない腿をばたつかせて暴れる。彼女の今感じている恐怖は振るわれるかもしれない暴力か、理解出来ない現状へのものか。涙をうっすら湛え、それを零すまいと下唇を噛み耐える悔しげな表情。腰にぞくり、と痺れが走った。輝かんばかりの自信に満ちた彼女が、圧倒的不利に立たされたなら、どのような表情をするのだろう。何度も想像して一人慰めた。今、それは現実となって眼前に提示されている。
「怯える顔も、可愛い。」
「ふざけ、ないで、んうっ!…、なんなの、真月くんおかしい、よ!」
「ふざけている顔に見えるのか。大人しくしたまえ、痛いぞ。」
「あ、い゛ッ?!いまの、わざと…、離してよ、いや、や゛ァ!」
 いま私が狂気に満ちた表情をしている事を、頬肉が攣りあがる感覚で理解した。ひくひくと目蓋が細動する。笑みが止まらない。
 唇を覆うように深く口付けをした。熱くぬかるんだ口内を舌でじっくりと舐めまわす。

「君という女は、…まだ私に逆らうのか?」
「やだ、やめ、…うぐッ、あ゛、いや、だあっ!」
「ああ、こちらの方がよかったかな」
 下着の下に中指を潜り込ませ、膣口を指先で塞ぐ。じゅ、と粘着質な液体が溢れて指を覆う。
「ひ…!……う、んんっ、」
 ***は顔を思い切り背けて涙をぽろりと零す。首筋に玉の汗が光る。胸の奥がずきずきと痛んだ。しかし、心の別の所ではそれも愛おしいと感じていた。



「死ね」「クソガキ」「殺す」「許さない」「恨んでやる」「地獄へ堕ちろ」「屑」「虫ケラ」「離して」「痛い」「助けて」「初めてだったのに」



 罵詈雑言が耳に心地良い。もっと聞かせてくれと囁き、首筋の汗を舐め上げる。ほんのりと桃の香りが鼻を擽った。大粒の涙を零し、髪を振り乱し泣き叫ぶ***を押さえつけながらの挿入は容易い事ではなかった。なにより***の体がこの行為に慣れていないために内部が固くて、入りかかった所を何度も押し返されてしまった。その度に宛がい直し、挿入する。半端な抜き差しを繰り返し、漸く***に私を埋めると食い千切られるのではないかと思うほどの強烈な収縮が起こった。腰を押し込むように奥へ突き進むと、ぎぢぎぢと厭な音を立てて***の体が裂けていく。すまない、本当に、悪いと思っている。君の綺麗な肢体を壊してしまうのは心苦しい。だが、抑えられない。支配の快感が罪悪感に勝ってしまう、それに、君が眉根を寄せて悶え苦しむ顔があまりに美しいんだ。

「…犯罪者。」
 事を終えて、ぐったりと肢体を投げ出した彼女が最初に発した言葉がそれだった。口を開くのもおっくうだと言うように、唇を殆ど動かさずに吐き捨てた。澱んだ瞳を濡らし、ゆるゆると身を起こすとくぐもった声で唸った。太ももには渇きかけた血と精液がこびりついている。ぱりぱりと剥落するそれらがシーツの赤黒い斑点に重なる。
 仮にも警部を名乗る私が犯罪者呼ばわりされるとは、なんとも滑稽だ。だが、私を堕落させたのは君自身なんだ。自分の犯した罪に無自覚でいるならそれでいい。どちらにせよ、たっぷりと償いはして貰う。





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