以前の日記に載せていた妄想文の一部です。パラレルとエロ多め。

こぎつね妄想 【5】

2006/11/25

「わたしが、その壷の呪いなのです」
「呪い…?壷の?」

訳が分からず繰り返す呂布に、遼は決心したように顔を上げました。

「…蠱(こ)というものを知っていますか?」
「確か、呪術のひとつだな。百匹の動物を壷に閉じ込め共食いさせ、」
「残った最後の一匹を寄り代に、呪いをかけるのです」
「…遼、おまえ」

青い月明かりの下、色を失った遼のくちびるが震えました。

「わたしは蠱のきつねなのです。旦那さまを殺す、呪いなのです」
「だがおれはなんともない」

呪いだというならなにか異変があるはずですが、遼が来てからの一年、呂布にはなんの変化も現れませんでした。病も、大きな怪我も。
むしろ、遼のほうが呪われたように元気を失って―
そこまで考えて、呂布ははた、と気付きました。

「俺にかけるべき呪いをお前が抱えたのか、遼!?」

遼の後ろには大きな月。足元から伸びた真っ黒な影は、そのままちいさな体を飲み込んでしまいそうです。

「旦那さまを殺したくなかった…」

ぼろぼろと、その両目から大粒の涙がこぼれ落ちました。

「初めてこの村にきたとき、ほこらのそばできつねを見ませんでしたか…?」

記憶をたどると、かすかに覚えがありました。
最初の出迎えはきつねか、とおもったような気もします。

「あのほこらに長い間封じられて意識もおぼろになっていたわたしを、旦那さまは見つけてくれたのです。きまぐれだったかもしれないけれど、食べ物もくれました。村のひとたちは旦那さまを呪うためにわたしを持ち出したけれど、わたしには呪うことなんてできなかった。一緒に暮らして、ますますだいすきになった。だから」

次第に、遼のまわりに黒いもやのようなものが現れ始めました。

「遼!」
「こないでください!」

伸ばされた呂布の手を払って、遼は後ろに下がりました。もやはどんどん濃くなってその体を包み込んでいきます。

「その壷をほこらに戻してください!このままだとわたしは呪いに飲み込まれて無差別にいきものを殺す災いになってしまう…!」
「再び封じられたらおまえはどうなるんだ!」
「わたしという意識はなくなるけど」

遼は少しだけ微笑みました。

「村のひとを、旦那さまを殺さずに済みます。旦那さまと一緒に居られてわたしは幸せでした」

呂布は壷を放り投げて遼の腕を掴みました。

「その呪いを俺によこせ、遼!」
「旦那さま!?痛っ…!」
「勝手なことばかり言うな!よこせ、俺を呪え!」
「嫌です!」

暴れる遼を無理矢理に抱きしめて叫びます。

「共に居た日々が幸せだったと言うなら、俺だってそうだ!」
「駄目です!離して…!」
「お前が居たから俺は生に喜びを感じる事ができたんだ、お前を失うのも死も、俺には同じだ!俺を孤独な鬼に戻すな!幸せも知らず、たったひとりで、この世の全てを呪い続けていた鬼に」
「駄目、もう抑えられな…やああああっ!!!」

遼が叫んだ瞬間、
どん!と重いものが呂布に圧し掛かりました。
大滝の下に放り込まれたような、あらゆる方向から押し迫る激しい圧力。とても立ってはいられません。呂布は膝をつきました。自分の影さえ渦を巻き、意識ごとからだを飲み込もうとします。
これほどのものを遼は抱えていたのです。
目の前は赤と黒の洪水になり、耳もごうごうと響く呪いの言葉しか聞こえません。
肌に感じるのは切り裂かれるような痛み、焦げる冷たい熱さ。抱きしめていたはずの遼の感触さえなくなっていました。
それでも

(遼)

(遼、遼!)

その名を思い描くとよみがえるのは、
美しい緑、花の赤、湖の青。温かな風、花の香り、鳥の声。
一面金色に輝く稲穂の海。

はるか遠く、どこまでも続く…


額に激しい熱さを感じ押さえようとした瞬間後ろに強く引っ張られ、そのぞっとする感触にさせるまいと何かにしがみつくと、呂布の体から熱いものが無理矢理に引きずりだされ奪われました。


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