以前の日記に載せていた妄想文の一部です。パラレルとエロ多め。

こぎつね妄想 【3】

2006/03/30


狐を「遼」と呼ぶたびに、呂布の胸にいつも美しい情景の余韻がよみがえるようになりました。
その中でも最も美しい、一面金色に輝く稲穂の海を遼に語って聞かせると、瞳を輝かせて身を乗り出します。

「見渡す限りの黄金色、どんなだろう…」

この地は岩が多く、あまり稲作や畑作に向いてはいませんでした。
田は岩があまりないところにまばらに点在し、『見渡す限り』にはほど遠いばかりか、村人たちの負担も大きいものでした。
呂布は腕に頭を載せてしばらく天井を見ていましたが、

「…遼」
「はい」
「俺が鬼の子孫だといううわさを、聞いたことがあるか」
「…はい」

遠慮がちな声が返ってきました。

「あれは本当だ」
「……」

淡々と呟かれる言葉に、遼はじっと耳を傾けます。ガタガタと強い春の風が家を鳴らしました。

「先祖に鬼がいるという噂だが、実際は先祖なんて遠いものではない。父が鬼だった。俺はもう100年以上生きていて、俺の曾々孫を名乗っている」

黙ったまま動かない、こんもりと盛り上がった布団を見てから、呂布は目をつぶりました。

「…俺が怖いか、遼?」

祈りにも似た感情が胸を満たします。

こわがるな、おびえるな、おれを、ひていしないでくれ

足元から遼がごそごそと這い出してきました。

「…ないです」

目を開くと、とても近くに顔がありました。

「怖く、ないです」

怯えた様子もなく、呂布の頬にちいさな手のひらを寄せてきます。

「旦那さまは、得体の知れないわたしをそばに置いてくれました。優しくしてくれて、一緒にいてくれました」

覗き込んでくる瞳は、夜空の色。濡れた輝きは、星のひかり。

「鬼でもなんでもいいです。一緒に居たいです。それとも…」
「なんだ?」
「わたしを、食べるつもりで置いているんですか…?」

頬にかかる指先にきゅっと力が入ったのに気付いて、呂布は可笑しくなりました。むくむくと膨らむ、悪戯心。

「だったらどうする?」

ひょいと体を反転させると、小さな遼を上から押さえつけました。

「お前を食うつもりで置いているのだとしたら、どうする?」

かみつくようなそぶりを見せると、遼は一瞬息を詰めて呂布を見上げ、すぐにぎゅうっと目を閉じました。

「それでもいいです。そばに居られるなら…」

小さいけれど、はっきりとした声。
呂布はばくりと遼の耳をかじってみます。びくっと身を強張らせた遼は、まるで痛みがないことにおそるおそる目を開けました。

「お前みたいな細っこいの、腹の足しにもならん」
「わあぁ!」

唇だけではむはむと食べるそぶりをすると、くすぐったいのか逃げようとします。
布団から出ようとする遼を後ろから抱きかかえると、そのまま引き寄せました。

「稲穂の海を、見たいか?」
「…はい」

遼のふわふわの髪と耳の毛並みが、呂布の頬をくすぐります。

「今年、見せてやる」


それには鬼の力がとても役に立つのです。



まだ続くんだから!

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