以前の日記に載せていた妄想文の一部です。パラレルとエロ多め。

こぎつね妄想 【2】

2006/03/25


気配に振り返ると、足元にちょこんと座る影が見えました。

「何だお前は…」

訝しげな声を降らせる呂布に、一瞬びくっと身を固くしたそれは、

「きつね、です。恩返しに、きました」

と、告げました。

12歳くらいでしょうか。手足はひょろりと細く、すこしつり気味な目は黒くきらきらと濡れています。
それより何より、ぴんと生えた耳、ふさふさと揺れる尻尾。
呂布は屈み込むと、ぎゅっとその耳をつまみました。
子供はびくっと体を跳ねさせましたが、ぶるぶると震えながらも手足を床に突っ張ってその場に留まろうとします。
つまんだ耳は温かく、どくんどくんと脈も感じました。

「狐?恩返し…?」

人間でない事はわかりましたが、恩を返される覚えがありません。

「今日から、精一杯お世話致します。何でも言いつけてください」

そう言って、ぱたぱたと走ってゆき、狐はほうきを手に掃き掃除を始めました。


冬が来て、北のこの地はすっかり雪に覆われました。
秋の終わりにきた狐はまだ呂布の家に居て、動き回っています。
この狐について解ったことといえば、他の人間には本当の狐にしか見えないということと、とても働き者だということくらいでした。
邪魔にもならず便利なので、呂布は放っておくことにしました。
その存在に違和感もなくなり、冷え込む夜には共に眠ることもありました。
狐の体温は、呂布の凍った心をゆっくりと溶かしてゆくような温かさです。

狐は、ずっとひとりぼっちだったと言いました。
呂布も、ずっとずっと、気が遠くなるほどひとりでした。
いつしか狐は、呂布にとって失いたくない存在になりつつありました。

「狐」
「はい」

ガタガタと強い雪風が吹き付ける夜、足元で丸まる体温を感じながら、呂布は狐に話しかけました。

「お前、名はあるのか」
「…はい」

半分寝ていたようにぼんやりとした声が返ってきました。

「なんという」
「・・・」

返答がないので、眠ってしまったかと諦めた頃、

「りょう、です」
「りょう?」
「遼、はるか…という、意味、の…」

それを聞いたとたん、呂布の目の前に鮮やかな情景が広がりました。
小高い山の上から眺めたような、どこまでも広がる美しい緑、花の赤、稲穂の黄、湖の青。温かな風、花の香り、鳥の声。

はるか遠く、どこまでも続く…

自分のなまえ、忘れてしまうところだった…とちいさな呟きが聞こえハッとすると、いつの間にか美しい情景は消え、暗い室内が戻っていました。

「ではこれからは名で呼ぼう、遼」

目を閉じると、きらきら輝く景色の余韻。
はい、と嬉しそうな声が聞こえて、呂布も温かな気持ちになったのでした


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