友達

 帰り道の途中、日向と影山の2人と別れた凛々は、自宅兼整体院へ向かっていた。練習にフルで参加していないにも関わらず、腹が減って仕方がない。動く量と食べる量が割に合っていない状況ではあるが、容赦なく腹が減るのが悲しいところである。


(あぁ〜…。でもまた体重増えちゃう…。筋肉はともかく、余分な肉は減らさねば…!)


 そんなことを思いながら薄暗い夜道を歩いていると、自宅近くにあるコンビニが見えてくる。もうすぐで家に着くと足を速めた、その時だった。


「どう落とし前つけてくれんだ、あ゛ぁ?」
「っつーか君、けっこう可愛いじゃん。身体でお詫びしてもらおっか?」
「ギャハハハ、お前ロリコンかよ!!」


 聞いただけで不快な声がしたので、コンビニの入り口付近に目を向ける。そこには、チビ(160cm後半くらい)かつ短足、更にはセンスのない服装に髪型をした、如何にもな不良3人と、その不良に囲まれている背の小さい女の子の顔が見えた。女の子は青ざめた顔に涙目で3人に向かって頭を下げている。どうやら絡まれているようだ。


「すっ、すみませんでした…」
「ごめんで済んだら警察はいらねぇんだよ!」
「めっちゃ怯えてんじゃん、カワイソー」


 コンビニの中にいる気弱そうな店員がちらちらと様子をうかがっているが、何かをする気配はない。凛々は警察を呼ぼうかと携帯電話を取り出したが、今呼んだとしてもすぐには来れないだろうという考えに至る。そうなったら、取る選択肢は一つ。



* * *



(うわああああああ、どうしようううううう!!! 高校生になったばっかりなのに、私ここで命落とすかも…!!!)


 私、谷地仁花は恐怖していた。夕飯のクリームシチューを作るのに牛乳が足りないことに気付き、母も不在で買いに行くのは自分しかいないので近くのコンビニまで買い物に来たのはいいものの、牛乳を買って早く家に帰ろうとコンビニを出た瞬間、如何にもな不良とぶつかってしまったのだ。
 不良は即座に賠償を要求してくるし、中にいる店員は助けてくれそうもないし、自分にはここを切り抜けるだけの知恵はないし、もはやできることは震えながら許しを請うことしかない。ああ、どうしよう。このままじゃ、ものすごい額の慰謝料払わされることになって、高校辞めて働きに出ても払いきれなくて、挙句の果てには臓器売買…


「もしもーし、聞こえてんのー?」
「き、聞こえてますぅぅぅっ!!! 1デシベルの音も逃さずっ!!!」
「で、でしべる? っていうかさっさと誠意見せてくんないかなー? お兄さんらいつまでも優しくないよー?」


 せ、誠意!? 土下座か、いやフライング土下座か。ああでも私運動音痴でフライング土下座できない!!


「ほ、ほんとうにすみませんでした―――」
「よいしょっ」


 ふと、私の目の前に立っている金髪の人の背後から声がした。それと同時に、金髪の人の股から足が生えた。いや、生えたっていうか…、股間を蹴り上げられた。


「おぐっ…」


 金髪の人がその場に倒れ込んだ。い、痛そうだ…。いや、私はその痛みを体感したことはないし、これから先も体感することはないんだけど…。私の両隣を陣取っていた2人が金髪の人に駆け寄る。


「だ、大丈夫か!!」
「あ、泡吹いてるぞ!! 生きてるか!?」


 ぽかんとしながら倒れている金髪の人を見ていると、急に誰かに手を掴まれた。えっ?と思う暇もなく、ギュンッと手を引っ張られて物凄い速さで引きずられた。


(え、ええええええええええええええええ!?)


 慌てて足を動かして、何とか走ってる体を保つ。私の手を握っている手から腕へたどって、私を引っ張っている人の頭を見る。黒いポニーテールが、ゆらゆらと揺れていた。パニックになりつつも、私は何故かそのポニーテールを結ぶ白とグレーのストライプのシュシュを見つめていた。


(あ。シュシュ、かわいい…)


 某アイドルの歌を思い出しながら、ポニーテールさんに引きずられること数分。私の肺と足が限界になってきたあたりで、ポニーテールさんが足を止めた。私はその場にへたり込んで、地面を見つめながら肩で息をする。し、死ぬかと思った…。


「ごめん、大丈夫だった?」


 息切れもしていない様子で、ポニーテールさんが喋った。私は死にそうになりながらも顔を上げる。ポニーテールさんのご尊顔を拝することになったのだ。


(び、美少女…!!!)


 ポニーテールさんはキリッとした美少女で、睫毛は長く鼻は高く、おまけにスタイルも良くて文句の付けどころのない美人だった。おまけになんか良い匂いがする。香水とかじゃない、花の香りと制汗剤か何かのシトラスみたいな香りがした。ポニーテールさんは私に手を差し伸べてくれて、その手に助けられてようやく立ち上がれた。こんな美人だから手も柔らかいんだろうな、と思っていたが、案外硬い手をしているのが意外だった。


「は、はい…。あの、ありがとうございましたっ」
「いや、何て言うか、わたしも無理矢理引きずるような真似しちゃって…。いっぱいいっぱいでごめんね」


 そう言ってポニーテールさんはにっこり笑った。わ、笑った顔もまた美人だ…!可愛いし綺麗だし、か、かっこいい…!
 その笑顔につい見惚れていたら、ポニーテールさんが着ている服に気付いた。私がつい最近から通い始めている、見慣れた烏野高校の制服だ。


「かっ、烏野の方ですかっ!!」
「え? あ、はい、うん。1年2組の小谷凛々です」
「わ、私、1年5組の谷地仁花と申しますっ!!」
「あ、同い年か! よろしくね、わたしのことは凛々って呼んでくれると嬉しい!」
「じゃあ、私のことはどうぞ好きに呼んでください!」
「はは、なんで敬語なの。タメ口でいいじゃん、同い年だし」


 凛々ちゃんはそう言ってまた笑った。うぅ、笑顔が眩しい…! まさに神話の世界の美少女…!


「もう遅いし、家まで送るよ。って、ここまで連れてきたのわたしだけど…」
「だ、だいじょうぶ! そんなに遠くないし、1人でも帰れるよ」
「でもさっきのに見つかったら危ないし」
「それは凛々ちゃんも同じじゃないかな…。いや、むしろ凛々ちゃんの方が危ないんじゃ…」
「…それもそうだ」


 なんせあの金髪の人の急所を思いっきり蹴り上げてしまったのだ。見つかったらそれはとても恐ろしいことに…うぅ、想像するんじゃなかった!


「ま、大丈夫っしょ! いざとなったら走って逃げるし!」
「で、でも…!」
「はいはい、もう暗いしさっさと帰りましょー」


 そう言って凛々ちゃんは、私の腕を引いてぐんぐん歩いていく。それに引きずられるようにして、私は足を進めた。強引な押し切り方が、何か気恥ずかしい。


「あの、凛々ちゃん。私の家、逆方向…」
「…あはは、谷地ちゃん早く言ってよー!」


 凛々ちゃんはくるっと振り返り、恥ずかしそうに笑った。これが、後に大親友となる女の子との出会いだった。


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