遥かなる影/人生のフェリスホイール


 それから1年も経つと、Nは普通の人と遜色ないほど、言葉を流暢に話せるようになっていた。あまり人と会話する機会がないせいか、聞いているこっちが聞き取れないほど早口で喋る癖があったものの、それでも会話ができるとできないとでは大違いだ。わたしよりマーシャの方が好きなのと、表情が少ないのは相変わらずだったが、それでもNは最初に較べればずっと、人間らしくなってきた。


「Nの服、そろそろ小さくなってきたね。男の子だから、すぐにおっきくなるんだなぁ」


「人間は、性別が違うと育ち方もちがうの?」


「そうだよ。男の子は女の子より、背も体重も大きくなるの。まあ人によりけりだけど」


「へぇ…。ポケモンは、性別なんて関係ないのに」


 Nは身も心も成長していくにつれ、様々なことに興味を抱くようになった。兼ねてから好きだった数学はもちろん、家の中にある様々なモノが何なのか、何故そこにあるのか、そんなことにまで興味を抱いては、わたしに「あれは何なのか」と聞いてくることがよくあった。まるで、豊富な知識欲と探求心を持て余しているかのように。


「…この家の外に出られたら、もっと色んなことを知れるのに」


 ゲーチスの命令で、Nはこの別荘の一室に閉じ込められて、外に出ることは許されていなかった。これまでは、ろくに言葉も話せないということもあって、Nを外に出さないことに、わたしも反対はしなかった。けれど、もう普通の人と何ら変わりないNを、いつまでも閉じ込めておくことに、わたしも疑問を抱き始めていた頃だった。


「よし、おねえちゃんにまかせて! 明日、ゲーチスが帰ってきたら、Nを外に出させるよう言っといてあげる!」


「でも…。とうさん、ボクは外に出てはいけないって」


「だいじょうぶ! Nがいろんなものを見て、いろんなものを知ることは、ちっとも悪いことじゃないもん! ゲーチスが反対してきたら、わたしがガツンと言ってやるから!」


「ぐ!」


 わたしがそう言うと、Nは少しだけ嬉しそうに目を細めて、「ありがとう」とはっきり言った。Nの頭の良さを、こんなじめじめした別荘の中で終わらせてしまうのは、宝の持ち腐れでしかない。だからわたしは翌日、5日ぶりに帰ってきたゲーチスに、そのことを話した。


「なりません」


「なんでよ! Nはもうちゃんと話せるし、わたしとマーシャも一緒にいれば大丈夫でしょ!?」


「ポケモンと話せる子供など、周囲がどんな眼で見るとお思いですか? 気味悪がられ、後ろ指を指され、誰かに危害を加えられるのが関の山。ワタクシが必死の思いで探し出した王を、つまらないことで失いたくはない」


「そ、そんな酷い人…」


「いない、と? アナタ、本当にそう言い切れますか?」


 ゲーチスの問いに、わたしは何も返せなかった。わたしの背中の傷が、ゲーチスの言葉を否定できなかった。Nは、ポケモンと話せるが故に気味悪がられ、森に捨てられたのだと、ゲーチスは言っていた。そのような非情な人間はこの世に腐るほどいて、わたしもNもその犠牲になりかけた。


「ワタクシとて、いつまでもN様を外に出さぬつもりではない。N様が王として相応の器となれば、N様ご自身が支配するイッシュの地を、思う存分ご覧になればいい」


「…それっていつ?」


「さぁ。まだ先のこと、とだけ言っておきましょう」


 何だかんだ言ってはいるが結局のところ、ゲーチスはNを外に出す気はないようだった。かと言って、この程度のことで黙っているわたしではない。わたしはゲーチスに黙って、ある1つの企みをした。
 それから1カ月経ったある日の晩、ゲーチスはダークトリニティのうち2人を連れて、またどこかへ出かけて行った。今度は数週間戻らない、と聞かされていたので、計画を実行するには絶好の機械だった。わたしとNの監視のために残ったもう1人のダークトリニティ、Eをどうにか言いくるめて、わたしはNを外へ連れ出した。


「N、お外ではマーシャや、他のポケモンとお話しちゃダメだよ。約束ね!」


「うん」


「きゅうん」


「エル様、1時間以上は目を瞑ることはできません。それ以上お戻りにならない場合は、ゲーチス様に報告せざるを得ませんので…」


「わかってるってば! ほら、Eも一緒にいこ!」


「え…いや、わたしは……」


「いいから、いいから! これでEも共犯者だからね、ふっふっふ!」


「ぐっぐっぐ!」


 乗り気でないEも連れ、わたしはNの手をしっかりと握って、サザナミの別荘を飛び出した。とはいえ、これは別に脱走だなんて大層なものではなくて、単なる子供のお出かけ程度のものだった。そう、その程度のもので終わる、はずだった。



* * *



 その日のサザナミタウンは夜だというのに、不思議と人で賑わっていた。初めて見る海や街並み、わたしたち以外の人々を、Nは興味深そうに見ていて、わたしはそれが微笑ましかった。すると、何かを見つけたNが急にビクッと肩を跳ねさせて、わたしとEの後ろに隠れた。


「どうしたの、N?」


「あ、あれ…。あれって人? それともポケモン?」


「ん? …あぁ、あれはクラウンだよ! れっきとした人!」


 Nの指の先にいたのは、派手な格好と化粧を施して、フワンテによく似た風船を配っているクラウンだった。わたしやEは特に何も思わないが、Nにとってはとても人間とは似ても似つかない未知の生物に見えたのだろう。わたしは笑いながら、怖がるNを連れてそのクラウンのもとに近づいた。


「わたしたちにも風船くださーい」


「は〜い、3つでいいかな?」


「4つ! マーシャの分も!」


「ぐ!」


 クラウンはニコニコと笑いながら、それぞれに色とりどりの風船を渡してくれる。クラウンを怖がっていたNも、少しだけ警戒が解けたようで、おずおずと風船を受け取った。


「キミたちも遊園地に来たの? それだったら、13番道路の方だよ〜」


「遊園地?」


「あれ、知らない? 今日ね、13番道路に移動遊園地が来てるんだよ! ボクがいるのも、そういう理由なんだ〜」


「へぇ〜…! はじめてのお出かけにはもってこいじゃん! N、行こ!」


「うん……!」


 クラウンから話を聞いたわたしたちは、さっそく13番道路の移動遊園地へ向かった。するとそこには、これまで何度も訪れたことのある13番道路とは思えない、夢のような光景が広がっていた。その光景に、わたしよりも先にNが、感嘆の声を上げた。


「わぁ……!」


 煌びやかな電飾で彩られた数々の出店には、色とりどりのお菓子や玩具、ポケモンを模したお面などが並んでいた。小さめながらも立派なメリーゴーランド、回転ブランコ、そして観覧車が、波の音と音楽に合わせてゆったりと動いている。人も、ポケモンも、行きかう者すべてが皆、楽しそうにしていた。Nだけでなく、わたしも、マーシャも、恐らくあの無表情なEさえも、その魔法のような美しさに一抹の感動を覚えていた。


「すごい、すてき……! ここ、ホントにあの13番道路?」


「ぐっぐぅ〜!」


「すごいね、N! ……N?」


 わたしの声など聞こえていないのか、Nは呆けたように目の前の景色を眺めていた。感動のあまり言葉もないのか、それともその感情を言い表す言葉を、まだ覚えていないのか。Nはただ黙って、人とポケモンを乗せてぐるぐると回る観覧車を、じっと見つめていた。


「観覧車、乗りたいの?」


「カンランシャ……。あのキカイは、カンランシャっていうの?」


「そう、観覧車っていうの。じゃあ、みんなで乗ろ! マーシャ、E、こっち!」


「いえ、わたしは……」


「ぐぅーぅ!」


 尻込みするEを、マーシャがぐいぐいと頭突きして押し、わたしたちは観覧車へ向かう。わたしたちの前に何人かの人が並んでいたが、あまり大きくない観覧車だからか、すぐに順番が回ってきた。けれど、3人で乗り込もうとしたわたしを、係員の人が止めた。


「ごめんね、キミたち! この観覧車、2人乗りなんだ。3人も乗ったらゴンドラ落っこちちゃう」


「えーっ! 子どもでもダメなの? わたしめっちゃ軽いよ?」


「子供だからこそ、なんかあったらダメだからね。2人ずつ乗ってくれるかな?」


「わたしは結構です。お2人でお乗りください」


「E、いいの? ごめんね、気をつかわせちゃって」


 Eに申し訳ないと思いながらも、そわそわするNを観覧車に乗せてやって、わたしとマーシャも乗り込んだ。扉が閉まると、ぐらりとぐらつきながら、ゴンドラが回りだす。徐々に上へ登っていくゴンドラの中で、浮遊感に少しだけ怯えるマーシャを抱いたわたしは、向かいに座るNを笑って見ていた。


「…美しい円運動。まるでボクも、数式の一部になったみたい」


 普段は表情少ないNが、楽しそうに目を細め、穏やかに笑っていた。ゴンドラから見える景色が綺麗とか、そういったことではないNなりの感動が、彼の心に深く刻まれたようだった。Nのそんな顔が見れたことが嬉しくて、わたしはゲーチスの言いつけを破ってよかったと、心から思った。
 やはりあまり大きくない観覧車だからか、Nにとっての至高の時間はあっという間に終わって、すぐに下へ到達してしまった。その場から動きたくなさそうなNの手を引いて、わたしとマーシャはゴンドラを降りた。するとNは地上に降り立つなり、すぐに力なくその場にへたり込んでしまった。


「N! どうしたの、だいじょうぶ!?」


「うん…。ごめん、感動しちゃって…」


「あははっ、感動のあまり腰抜けちゃった? すこし休もっか、立てる?」


 感極まって動けなくなってしまったNを連れて、人の群れから少し離れたところにある休憩用のスペースまで来ると、空いている木製ベンチにNを座らせた。わたしたちの他に人は誰もおらず、出店で売られている食事や飲み物の残骸が、辺りに散らばっていた。マーシャがくんくんと匂いを嗅ぎはじめたので、わたしは「それゴミだから、食べちゃダメ!」とマーシャを止めた。


「何か飲むもの買ってくるから、Nはここにいてね」


「ぐぅーぅ」


「マーシャが『おなかすいた』って言ってる」


「えぇっ、出る前にごはん食べたでしょ!? もー、くいしんぼさんめ! じゃあマーシャのおやつと一緒に、わたしの分も買っちゃおうっと」


「…エル様、エル様だけでは持ちきれないでしょう。わたしもお供します」


「ありがと、E! それじゃあN、すぐ戻ってくるから、ここで待っててね! マーシャ、Nをお願い!」


「ぐ!」


「『いってらっしゃい』だって。…いってらっしゃい」


 そう笑うNとマーシャを、あの場所に1人と1匹だけにしてきたことを、わたしは今でも後悔している。



* * *



「N、マーシャ、お待た……」


 カラフルな容器に入った飲み物やお菓子を両手に抱え、わたしとEが急ぎ足で戻った先に、Nもマーシャもいなかった。どこか近くで遊んでいるのではと思って、すぐに辺りを探してみたけれど、Nとマーシャの姿はおろか、いた痕跡すら見当たらない。顔色がサァーッと青くなっていくのが、自分でわかった。


「ど、どうしよう…! Nとマーシャに何かあったら…!」


「エル様、落ち着いてください。…わたしはあちらを探してきます。エル様は、向こうを探していただけますか」


「う、うん…! E、お願い…!」


 すっかり平静さを失っていたわたしは、Eの言う通り13番道路のサザナミ側を探し出した。草むらの中はもちろん、木の上や岩陰までくまなく探して、通りがかった人たちにも声をかけ、ジグザグマを連れた子供を見なかったかどうかを聞いた。すると、遊園地から帰る途中だったらしい1組の男女が、わたしの顔色を更に青くさせるようなことを教えてくれた。


「そういえばついさっき、あっちの沖で、見たことのないポケモンに乗って泳いでる子を見かけたよ」


「見たことのないポケモン!? それって茶色くてフサフサしてる、めちゃくちゃ可愛いポケモン!?」


「そうそう、茶色いポケモン。『なみのり』で海を泳いでて、その上に緑色の髪の男の子が乗ってたなぁ」


「すいすい泳いでて、『気持ちよさそうだね』ってダーリンと話してたのよね〜」


「気持ちよさそうなワケあるかッ、バカップル!! あの子、濡れるの大キライなのにッ!!」


 せっかく知らせてくれた2人に八つ当たり気味にそう叫んで、わたしは走り出した。マーシャは濡れるのが嫌いで、泥んこ塗れになっていたのを洗おうとした時すら、嫌がって逃げていたのだ。いくら『なみのり』が使えるからといえ、何の必要もないのに泳ぐはずがない。何かの理由があって、海に落ちたとしか考えられない。
 わたしは急いで、13番道路の東側に広がる海を一望できる崖の上へ向かって、海原を見下ろした。暗くてよく見えなかったが、ばしゃばしゃと波しぶきを上げて泳ぐ影が見えて、わたしは目を凝らした。


「マーシャ、N!」


 あの2人の言葉通り、Nがマーシャの背にしがみついて、海を泳いでいた。しかし、様子がおかしい。その泳ぎは、まるで『何かから逃げている』ような、そんな泳ぎだった。そして、マーシャが何から逃げているのか、次の瞬間にわたしは理解した。



「ギャオオオオオオオッ!!!!!」



 地を揺らすような、咆哮。その鳴き声は、紛れもなく凶暴ポケモン、ギャラドスのものであった。こんなところにギャラドスが生息しているなどという話、聞いたことが無い。それが意味することを考えるよりも先に、わたしは崖の上から海に向かって、飛び込んだ。


「マーシャ、N、逃げてッ!!」


 わたしの声に、マーシャが反応した。わたしが着水するとともに、凄まじい水しぶきと音が上がって、ギャラドスの注意を引くことができた。マーシャはその隙に凄まじい速さで、Nを乗せたまま岸辺の方へと泳いでいく。それに気付いて追おうとしたギャラドスに、わたしは必死の思いで呼びかけた。


「ギャラドス、こっちを見ろッ!!」


 自分で思っていた以上に、低くて大きな声が出た。ギャラドスは驚いたようにこっちを見ると、唸りながらわたしの方へ泳いでくる。けれど、わたしは少しも怖くなかった。自身の身の危険すら、感じなかった。ただ、一周回って冷え切った眼で、ギャラドスを睨んだ。


「そう、そのまま、わたしだけ見ろ」


「ギャッ……!?」


「あの子たちに、手ぇ出すな」


 ギャラドスは怯えたような眼で、わたしを見ていた。人からもポケモンからも、そんな眼を向けられたことは、一度だってなかった。内心そのことに戸惑いつつも、ギャラドスから目を逸らさずに睨み続けていると、突如としてギャラドスに向かって、光り輝く何かが突進していった。


「ギャアアウッ……!?」


「え…? シビルドン…?」


 たまらずに海の中へ沈んでいくギャラドスの上空に、ふよふよと浮遊しながら漂う、シビルドンがいた。先ほどギャラドスに突進していったのは、『ワイルドボルト』で電撃を身に纏ったシビルドンだったのだ。シビルドンはわたしを見るなり、尻尾を振りながらわたしに近寄ってきて、その短い手でわたしを掴んで、そのまま浜辺へと連れて行ってくれた。


「あ、ありがとう…」


「御苦労でした。戻りなさい、シビルドン」


 わたしを浜辺に上げるなり、シビルドンはボールの中に戻され、姿を消した。シビルドンを戻した男の声に驚いたわたしは、恐る恐る声の方へ振り返る。この場にいるはずのないゲーチスが、ぐったりとしたNを左腕に抱え、わたしを見下ろしていた。


「ッ、ゲー…」


「大馬鹿ですか、アナタはッ!!!」


 はじめて、ゲーチスが声を荒げるところを聞いた。ゲーチスは怒りの形相で、空いた右手でわたしの頭を思いっきり殴って、そして抱き寄せた。わたしの濡れた髪が、ゲーチスの服を濡らしたが、ゲーチスは構いはしなかった。


「ギャラドスに正面から立ち向かうなど、愚かにも程がある! 命があることの方が不思議なくらいです!」


「…ごめん、なさい」


「きゅうん……」


 水浸しになったマーシャが、震える鳴き声を洩らして、わたしの足元に擦り寄った。ゲーチスの腕の中のNは、ぐったりとした様子だったが、それでもちゃんと息をしていた。わたしも、マーシャも、Nも、ちゃんと生きている。
 けれど、もしマーシャが『なみのり』を使えなかったら、あのギャラドスが構わずにわたしを攻撃してきたら、そもそもわたしがNたちを見つけることができなかったら…。ほんの少しのズレで、誰かの命が無くなっていたかもしれない。


「…ごめんなさい。勝手にNを連れだしたりして、Nを危険な目に遭わせて……」


「そのことは、もうよろしい。けれど、もうアナタにN様を任せておくわけにはいきません。わかっていますね」


「うん…」


「…N様の御身が第一なのは当然のこと。ですが、エル…」


 ゲーチスはそう言うと、手袋を嵌めた右手でわたしの手を掴み、強く引いた。


「ワタクシが拾ったその命、このようなところで捨てられては、困るのですよ」


「……」


「アナタが無事で、よかった」


 ゲーチスに手を引かれるまま、わたしはとぼとぼと歩き始めた。わたしの前を行くゲーチスにも、わたしの後ろをついてくるマーシャにも、わたしの眼に浮かぶ涙を気取られないよう、気を払いながら。

 ゲーチスから聞いた話では、NとマーシャはわたしとEがいなくなった後、いつも通り会話をしているところを遊園地にいたゴロツキたちに見られ、そいつらから逃げている最中に崖から脚を踏み外し、海に落ちてしまったらしい。あのギャラドスは、そんなNとマーシャを更に痛めつけるために、ゴロツキどもが繰り出したポケモンだという。
 そいつらはどうしたのかとわたしが問うと、ゲーチスは「子供は知らなくてもよいことです」と、そうとだけ答えた。ゲーチスがあの場にいたのは、「嫌な予感がして引き返した」からだと、そういうことらしい。
 帰ったNは熱を出して寝込んでしまったが、わたしはその看病をすることさえ許されなかった。Nをあんな危険な目に遭わせてしまったのだから当然だ、そう思ったわたしは、大人しくゲーチスの言う通りにした。

 しばらくして、ゲーチスが2人の女の子を連れてきた。ヘレナとバーベナという名前の2人は、またもやゲーチスがどこかから拾ってきた孤児らしくて、わたしと同い年くらいの子供とは思えないほど、暗い眼をしていた。その日から、わたしの代わりに2人がNの面倒を見ることになり、わたしはまたゲーチスに連れられて、あちこちを放浪する日々に戻った。
 Nはまだ精神的に不安定で、ヘレナとバーベナに対しても怯えている、とダークトリニティから聞いたので、マーシャに頼んでNの傍にいてもらった。よく慣れている人かポケモンがいた方が、Nも安心できるだろうと考えたのだ。だからそれからしばらく、わたしはマーシャと離れ離れだった。
 わたしにとって大きな転換点となる『あの出来事』が起きたのは、そんな時だった。



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