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#02


 兄の訃報を知らせてくれた男子高校生──黒崎一護くんが、その派手な見た目に反してかなり真面目な生徒であると分かったのは、ここ最近のことである。一緒に来た石田くんはどこからどう見ても優等生然としており(話を聞いてみれば生徒会長を務めているのだと言う)、だからこそ黒崎くんの派手さが目立っていたわけだが、正直私の高校生時代よりずっと真面目な高校生活を送っているとのことで、一瞬でも彼は不良かもしれないと考えてしまった自分を恥じたのだった。一度は下がったのだという成績を再度上げて以来上位をキープしており、特に国語は全国模試でもなかなかの成績を誇っているらしい。なんでも「見た目がこんなんな分、勉強くらいはまともにやってないと教師がうるさい」のだと黒崎くんは呆れた顔で言った。

「空座第一って、地毛申請書とかないの?」
「んなモン、どこの学校もあっても意味ないだろ」
「そっか。世知辛いね」
「俺はもう慣れっこだけどな」
「じゃあ、大学生までの辛抱だ」
「まあな」

 「あ、そこ違うよ」と彼のノートを指さすと、うわ、と驚いたような顔をする。眉間の皺が取れた黒崎くんは十八歳といえど少しあどけなさの残る少年の顔をしていた。数学があまり得意ではないと言っていたが、解き方は理解しているし小さいミスさえ気をつければ点数はすぐ上がるだろう。
 黒崎くんはこうして定期的に我が家に訪れる。家がさほど離れていないと言っていた通り、彼の実家であるクロサキ医院は私の住うアパートから歩いて十五分もかからない距離にあった。「一人暮らしだと何かと大変だろう」と彼のお父様や妹さんたちが食べ物を持っていけとうるさい、ついでに勉強を教えて欲しいのだと彼は言った。私は申し訳ないと思いつつ、食生活が疎かだったこともありそれにあやかっている。
 持ってきてくれる料理は多種多様だったが、それらは全て美味しかった。黒崎家の家庭の味に舌鼓を打っていると、それは全て妹である遊子ちゃんが作っているのだと黒崎くんは笑顔で言った。
 黒崎くんは、妹さんたちのことをとてもよく想っている。お母様がいない分寂しい思いをさせることなく、大事にしたいのだと、守りたいのだと──直接的な言葉ではなかったが、彼はそう言っていた。誰かが大事なものを語るときの瞳はわかりやすい。黒崎くんは特にわかりやすく優しい目をするものだから、私はいつも直視できず、ただ「そっか」とそっけない返事をした。
 大人ながら情けない。しかし、自分には向けられたことないものを羨ましいと思うのは事実だった。

「……石田も来てんのか?最近」
「黒崎くんより頻度は低いけど、たまにね」
「そうか」

 石田くんは「勉強を教えてください」と言って、本当に聞きたいことだけ聞いてすぐに帰ってしまう。持ってきてくれた手土産を一緒に食べようと誘っても、「僕は、女性の家に長居するほど無粋ではないので。黒崎と違って」と言って断られてしまうことがほとんどだった。
 私は二人が仲良しだと勘違いしていたのだが、二人で来たのは最初の一回きりだったため、別にそう仲良しでもないのだと二回目に黒崎くんがきた時に理解した。喧嘩するほど仲が良いとも言えるかもしれないが、彼らの関係性は世間一般の、単なる"学友"というには少し違う気がする。それこそ兄とその仲間たちのような、特別な何かで結ばれていると言った方がしっくりきた。それは私にはないものである。だから──彼らが一人ずつ来てくれることは、私にとって少しだけありがたかった。

「黒崎くんってさ」
「あ?」
「見える人?」
「……何が?」
「なんか、スピリチュアル的な……幽霊、とか」
「っ、な、なんでそれ、」
「見えるんだ」
「や、あー、まあ、少し」

 黒崎くんは焦ったように言う。何で分かった、隠してたのに、と大人びた顔が子供のようにコロコロ変わるのが面白かった。歳なんて、たかだか十歳離れていないくらいなのにね。

「兄も私も見える人でね。私はちょっとだけ、モヤっと。兄ははっきり見えたみたいなんだけど」
「……」
「黒崎くんと兄の接点をずっと考えてたの。歳も近くないのになんで知り合ったのかなって。あの人割と……というかかなり性格悪いし。こんなに優しい黒崎くんと仲良くなれるとは到底思えなくて」
「……なまえさんって意外とズバズバ言うよな」
「そうかな」
「おう」

 自分の兄に、しかも死んだばかりの人の悪口を言うのは流石に良くなかっただろうか。黒崎くんは「ますます井上と仲良くできそうだよな」と言っていたが、その井上さんはずっと話題に上がるだけで、私はまだ会ったことがないことを彼はちゃんとわかっているのだろうか。
 何はともあれ、黒崎くんと兄の接点はまだ詳しくわからないわけだが、兄の特殊能力について話した時に見せた動揺は明らかに何か知っている時の顔だった。"気が合ったから"とかそんな友好的な理由じゃなくて良かったと思う自分がいた。

「黒崎くんっていい人だよね」
「別に。普通だろ」

 いい人であって欲しい──というのが本音だということを彼には言えない。ただ、このぶっきらぼうな優しさが、兄のような悪に染まってしまわないようにと、そう願わずにはいられない。私のように、実の兄を悪く言うような人間にもなってほしくないと思っていることは彼には内緒だ。









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