ハム子ちゃんボツ1


●相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ


「轟って、公星さんのこと好きじゃねーの!?」

 事の発端は上鳴くんの無神経な言葉だった。彼の言葉に当の本人である轟くんは携帯を持ったまま固まり、女子も男子も一時停止、麗日さんが食べていた煎餅が地面に落ちてカツンと音を立てて割れた。

「……お前ほんと、バカだな」
「いや気になるくね!?気になんだろ!な?」
「いや気になってもここでは聞かないでしょ……」

 瀬呂くんと耳郎さんの言葉に皆が我に返って頷く。とはいえ、轟くんは未だ固まったままというか……あれ?これはいつものマイペースな轟くんかな?

「なまえさんがなんだ」
「そもそも話聞いなかったんだね……」
「悪ィ、集中してて」

 集中?と思い彼のスマホの画面をチラリと覗く。マナー違反というか失礼だとは思うけど、先ほどからピコンピコンと通知音がひっきりなしに鳴るものだから、どうしても気になってしまったのだ。
 彼のスマホはLINEのトーク画面を映していた。可愛らしいハムスターのスタンプが並んでいる。峰田くんもそれを見てしまったらしく「おいおいおい!」と大きな声で叫んだ。

「女にうつつを抜かしてんじゃねぇ!!」

 いや、それ君が言う?

「公星さんとLINEしてたのかー?」
「おい、やっぱり好きなんじゃねーの!?どうなのよ轟ィ!」
「……好きだろ、普通に」

 轟くんの言葉に上鳴くんは少し頬を染め、峰田くんはギリギリと悔しそうに歯軋りをしていた。かくいう僕も彼の言葉にどきりとしたし、周りも皆ソワソワとしている。興味なさげなのは冷蔵庫を開いて牛乳をがぶ飲みしているかっちゃんぐらいだ。まあかっちゃんはそういう人だよね……。

「はいはーい!もう告ったの!?」
「やはり、結婚を前提とされているのですか!?」
「ヤオモモ堅い堅い……でも轟んちも堅そうだもんね」
「10歳差かぁ!歳の差ってなんかドキドキだね」

 女子は恋バナが好きみたいで、男子を差し置いてキャッキャと楽しそうに笑っている。男子はというと……なぜか、ショックを受けていた。やはり顔かぁ。イケメンって強いな。個性も強いしな。才能マンだもんな。と、諦めモードだった。10歳差かぁ……法律的に、倫理的に大丈夫なんだろうか。轟くんはまだ結婚できる歳でもないし、そもそも未成年でヒーロー志望の高校生。かたや相手はプロヒーローで大人だ。清く正しければいい、というわけでもないだろう。

「告ったって、なんだ」
「告白のこと!好きとか、愛してるーとか、言ってないの!?」

 芦戸さんの言葉に轟くんが首を傾げる。

「なまえさんにか?」
「そう!そのなまえさんに!」
「なんで告白するんだ」
「えっ好きなんだよね?」
「好きだ」

 彼の言葉に今度は僕たちが首を傾げる番だった。轟くんと僕たち(というか、周りのみんな)で温度差があるせいか、話がうまく噛み合っていない。恋バナモードの周りに比べたら、轟くんは至って平然だった。
 好きなのに告白しないのはおかしい!漢見せろよ!と周りが好き勝手囃し立てる中、突如バタンと大きな音が鳴る。その音に皆口を噤んで音の鳴った方を見ると、かっちゃんがそこに立っていた。どうやら先程の大きな音は、冷蔵庫を閉めた時の音らしい。どれだけ乱暴に閉めたんだ。

「テメェらピーピーうっせんだよ……!」
「でも爆豪も気になるだろぉ!」
「半分野郎の恋愛絡みとかキショいだけだわボケ」

 つーかよぉ、とかっちゃんが不機嫌そうに言う。

「さっきから聞いてりゃ……馬鹿どもが盛り上がってるだけじゃねーか」
「おい馬鹿とはなんだ!」
「そーだそーだ!」
「ハッどうせソイツの好きなんて、ガキのそれと変わんねーわ」
「へ?」
「半分野郎はお子ちゃまだってこった。……俺ァ寝る」

 かっちゃんはそれ以上何かを言うでもなく、エレベーターの方に消えて行った。ドユコト?という上鳴くんの言葉に一同頷くばかりである。わかりにくいなぁ、かっちゃんって。かっちゃんに意味もなく貶された轟くんは、なんなんだあいつとよくわからない顔をしていた。不機嫌と不思議が入り混じったような、そんな表情である。

「ねぇ、轟くん」
「緑谷」
「そのー……公星さんのこと、恋愛的に好きなの……?」
「違う」

 轟くんのその言葉に周りはかっちゃんの言葉を理解したみたいだった。つまりかっちゃんが言いたいことはこうだ。「別に恋愛的に好きとは言ってないだろう」と──本当、かっちゃんは変なところでわかりにくい。

「あー、あれか……つまり、姉さんみたいに見てるってことか」
「いや、なまえさんのことは友達だと思ってる」
「まさかの」
「そういえば前も言ってたわね」

 そうだよね、まさかまさかだよね。皆がっかりした顔を浮かべていて、どれだけ恋バナを求めているんだと少し引き気味で見てしまった。ヒーロー科にいると色恋の類は縁遠いから、そのせいかもしれない。

「俺はやっぱ男女の友情成り立たないと思うけどなー、轟は別か」
「オイラも!!男と女!!それすなわち、」
「何度も言わせねーよ」
「まー轟が恋愛ってちょっと考えれねぇよな」
「轟くん天然だもんねー!」
「……いや、どっちかというと養殖、」
「そういうとこだよ、天然記念物」
「ツッコミ辛ェ」

 轟くんがふと、「お、」と声を上げる。彼のスマホは震えている。どうやら電話みたいで、轟くんはチラリとこちらを見てから、スマホを耳に当てた。

「もしもし。……ああ、今は寮にいる、クラスメイトと一緒だった。いや別に……気にしなくていい、用事があったからかけてきたんだろ」
「……」
「土産?別に、いいよ。いつもみたいに話聞かせてくれ。今はどこに……長野?雄英と近いな」
「……」
「信州そば……ああ、食ったことねぇけど土産は良い……つっても、どうせ買ってくるだろ、なまえさんは」
「……!!」
「そういうところあるよな……は?どうした……泣いてんのか?喧嘩した?ああ、ミルコと。……話ぐらい聞かせてくれ」

 轟くんは僕らをチラリと見て、立ち上がる。部屋に戻るらしく、少し悪そうな顔をしてエレベーターへと向かって行った。

「電話、公星さんだったなー」
「だなぁ」
「……あのさぁ、」

 やっぱり付き合ってね?という上鳴くんの言葉に、珍しく同意した。





さすがにここまで天然じゃないかなと思い、没。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -