吸死×dcネタ


もしロナルドとロリ吸血鬼ちゃんが吸血鬼異世界トリップおじさんの能力でdcの世界に入ったら……という、需要どこにあるの?みたいなネタです。
尻切れトンボ。




 今回のあらすじ。吸血鬼退治人ロナルドとロナルド事務所の居候であるなまえは任務の帰りに気を失い、目が覚めると……知らない街の公園に飛ばされてしまっていた。以上。

「いや、雑すぎるだろ……」
「雑ってなぁに?」
「テキトーってこと」
「ふぅん。ロナルドの人生みたいに?」
「さすがに言って良いことと悪いことがあるからな!」

 そう言って、ロナルドはなまえの頭に軽く拳骨を食らわせる。虚弱体質を極めるもう一人の居候だったならばその衝撃で死んでいただろう。しかし、この幼女は見かけによらず強い。弱体化したといえど千年の時を超える吸血鬼にとって、二十年弱しか生きていない人間の拳骨など高が知れている。なまえはまったく痛がるそぶりを見せることはなく、しかし口では痛い、ひどい、とロナルドの所業を非難する。肝が小さいロナルドは、それを聞いて「わ、悪ィ」と謝罪してしまった。

「ねー、ここ、どこ?」
「さあな。少なくとも、日本だとは思うけど……」

 ロナルドは辺りをぐるりと見渡して電信柱を探す。そして、そこに書いてあった住所を見て頭を傾げた。

「こめ……はな?いや、べいか……?知らねぇ土地だな」
「ロナルドぉ、携帯は?」
「お前が起きる前に試したよ……圏外だったけどな」
「ふぅん。ピンチだ」
「ああ、ピンチだな……」

 ピンチなんて、退治人になってから何回も遭遇したものだった。その度に逆境を乗り越え、状況を打破し、強くなってきた──ロナルドはそう信じて疑わない。自身の著書である『ロナルドウォー戦記』には(多少の脚色はあれど)その時の激戦が多く残されている。今回だっていつもみたいに、なんかああして、どうにかして……しかし、その「なんか」とか「どうにか」が全く思い浮かばなかった。

「なまえ、吸血鬼の気配とかするか?」
「私気配とかわかんない」
「ああ、そうだったな……」

 よくわからない町、よくわからないけど圏外。高等吸血鬼が作り出した結界かと思ったが、その発生源すらわからないときた。ダンピールである半田ならば気配でどこにいるのかわかるものだろうが、真祖である彼女は"見ること"でしか同胞を判別する方法はないのだという。
 完全にお手上げだ、とロナルドは力なくベンチに座り込む。同じく隣に座ったなまえは、そんなロナルドの赤い外套に縋りついた。

「どうした?」
「あつい」
「そういや、日傘持ってなかったな」
「うん……」

 みるみるうちになまえの頬が茹だったかのように赤くなっていく。吸血鬼は日光に弱いというのは基本的な情報である。なまえは元々日光に強い体質であったそうだが、力を失った今は、ドラルクより比較的マシな程度であった。普段の元気をすっかり失った姿を見て、ロナルドは慌ててなまえに自身の帽子を被せる。
 しかし、そんなものは応急処置に過ぎないとわかっている。今すぐ日陰、いや、建物の中に避難するべきだ。とにかくこいつを日の光に当てないようにしなければ。入れそうな店がどこにあるかわからないが、人通りの多い方に向かって歩けばいいだろう。ぐったりとしたなまえの脇に手を差し込むと、ロナルドはなるべく外套の中に隠すように彼女を抱きすくめる。
 そういや、こいつと初めて出会った時もこんな風に抱き上げたな。そう思い返しながら、ロナルドは公園を出て歩き出した。





 ロナルドがなまえを抱えて二十分ほど──時計を見ていないので、正確には三十分ほどかもしれないが──ようやく入れそうな店を見つけることができた。ビルの一階に位置するその店は、大きな窓に「喫茶ポアロ」という名前が記されている。
 ここに着くまで、ラーメン屋や寿司屋などあったが、とりあえずで入るような店ではないだろうと思い入らなかった。特にラーメンなんて、ニンニク入りラーメンが看板メニューだった暁にはこの幼女が怒り狂うに決まっているので即却下だ。
 ロナルドが店に入ると、店員の女性が明るい声で「いらっしゃいませ」と発したが、彼の腕に抱かれているなまえの姿を見るや否やぎょっとした顔となり、慌てて詰め寄ってくる。その女性は世間一般的に見ると可愛い部類に属していたため、今度は女性慣れしていないロナルドがぎょっとする番だった。

「だ、大丈夫ですか!?その子!」
「えっ!?え、えーと、」
「顔真っ赤だし、ぐったりしてるし、熱でもあるんじゃ……!」

 彼女のその言葉に、ロナルドは我に帰った。そうだ、なまえ──ここに来るまでに日光のダメージはより蓄積されてしまったらしい。公園にいるときよりもあからさまに体調の悪そうな彼女を見れば、女性店員が動揺するのも無理はない。

「すみません、水とアイスクリームください!致死量ほど!」
「ちし……ええっと、おいくつですか……?」
「……ある分だけ!!」

 ロナルドの必死の形相に女性店員は頷く。ロナルドはなまえを日の当たらない一番奥の席へと座らせる。女性店員の持ってきたお冷をなまえの口に近づけると、なまえはゆっくりとそれを飲み始めた。しかし、やはり栄養のあるものでないと回復はできないらしい。

「あのー……その子、本当に大丈夫ですか?」
「アイスかトマトジュースか牛乳を口にすればなんとか……」
「そ、そうですか……ご注文のお品物すぐお持ちしますので、もう少々お待ちください!」

 その眩しい笑顔に、ロナルドは再び胸が高鳴るのがわかった。そこでようやく彼女の名札を見る──榎本さんか。なまえのことを心配してくれる様子といい、その笑顔といい、きっとこの店の看板娘といったところだろう。ロナルドの周りにはなにかと勝気で風変わりした女性が多い。そのためか、一般的な女性というだけでロナルドの中では好感度が高かった。その上、気遣いもできて可愛いときた。好感度鰻登りもいいところである。
 注文した致死量のアイスクリームも、彼女が持ってきてくれるだろう。そのときになまえを心配してくれた礼を言わないと。ロナルドが感謝の念と少しの下心を抱きつつ待っていると、すぐにその時は訪れた。

「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございま……す……」

 致死量のアイスクリーム。頼んだ通り、カレー皿にこれでもかというほど、しかし綺麗に乗せられたバニラアイスが机の上に鎮座する。しかしロナルドにとって重要だったのは、それを持ってきたのが"榎本さん"ではなかったということだった。
 その男は、吸血鬼にも引けを取らないほど見目麗しい男だった。色素の薄い金髪に焼けた肌がどことなく異国を思わせる。垂れた目元が少しばかり幼さを演出しており、年齢のほどはわからないが、ロナルドと同じくらいに見えなくもない。
 容姿端麗イコール吸血鬼となるわけではない。しかし、ロナルドは咄嗟に隣に座るなまえの方を抱き──その店員を警戒した。容姿以上に、その男からなんとも言えない気配を感じ取ってしまったからである。

「ご注文のお品物でお間違い無いですか?」
「……ええ、はい」
「では、ごゆっくり」

 男はニコリと笑ってその場を立ち去る。その瞬間、ロナルドは背中を汗が伝ったのがわかった。ふぅ、と息を吐き出すと、なまえの肩からゆっくりと手を解く。なまえは変わらずロナルドの肩に頭を預けており、彼の緊張も男の気配も何も感じ取っていなかったらしい。

「なまえ、アイスだぞ。食べれるか?」
「んぅ……」
「しょうがねぇなぁ」

 ロナルドはスプーンでアイスを掬うと、なまえの口元へと運ぶ。小さく牙の除く口もとにそれを運ぶと、水を飲んだ時と同じように喉元がゆっくりと動いた。

「……アイス」
「もっといるか?」
「うん……」

 柔らかく絹糸のような髪を撫でながら、ロナルドは甲斐甲斐しくなまえにアイスを食べさせる。
 こうしていると、なまえはただの女の子だ。今でこそC級吸血鬼ではある彼女が、元S級吸血鬼で国際指名手配をされていたとは到底思えない。祖国ハンガリーで退治人に騙され、襲われ、殺されかけ、名前と力を失った結果が現在のなまえという存在である。見た目だけは可愛らしい女の子であっても、その中身は人の血を啜る吸血鬼であることに変わりはない。しかし──どうにも、情が湧いてしまって仕方がない。
 その山の半分ほど食べたところで、なまえはようやくロナルドからスプーンを奪って自力で食べられるようになった。先ほどまでの様子からは信じられないくらいの食い意地に、ロナルドは少々引き気味で彼女を見る。その姿はただの女の子というには、あまりにも食い意地がはり過ぎていた。

「これからどうしようなぁ」
「ふまほふはえはいんはっへ」
「食べてから喋ろうな、行儀悪い」
「ん……スマホ使えないんだっけ」
「おう、圏外。だからまあ、適当に駅探して自力でシンヨコ戻るしか──」
「ねぇねぇ、ロナルド」

 ロナルドの言葉を遮ってなまえは言った。

「吸血鬼がいないの」
「は?」
「いないの。一匹も」
「いや……そりゃ、昼だから」
「でも混血もいないもん」
「……」
「おかしいでしょ」

 吸血鬼がいない?そんな馬鹿なと思い、ロナルドはあたりを見渡す。そして至極小さな声で「……あの人は?」と、店員の男を指差した。先ほどアイスクリームを持ってきた金髪の男だ。しかしなまえは首を横に振るだけだった。

「人間の中じゃ強そうだけどね」
「そうか……」
「うん。フクマといいレベル」
「最強じゃん!!」

 あの、いかにも優しそうな人が?先ほどまでの背中の冷や汗を再び感じて、ロナルドは身震いをした。フクマはオータム書店の敏腕編集者で、南斗編集戦斧拳を修めた男だ。ロナルドにとっては自身の担当者で、最強であり最恐の人間である。そんな彼と同じくらい強いとなれば、ロナルドが恐れてしまうのもしょうがないというものであった。
 なまえはフクマの恐ろしさをよくわかっていない。実際、なまえからしてみればフクマはちょっと強いだけの人である。弱体化しつつもプライドがS級のままのなまえにとって、彼は大した脅威ではなかった。だからなまえはフクマに平気で着いていくし、平気でアイスをねだるのだ。その度にロナルドが肝を冷やしてるとは思いもしないで。
 ロナルドが胸の当たりを抑えていると、なまえは頭をかしげながら「ごちそうさま」と言った。調子はすっかり戻ったようだが、頬は赤いままだ。その顔をロナルドが見つめていると、少しだけなまえの顔に影が落ちた。

「お下げしてもよろしいですか?」

 男──名札を見たところ、安室というらしい──は音もなくそこに立っていた。本当にフクマさんのようだ、と思いながらロナルドは皿を彼に渡す。かろうじて出た「あ、は、はい、お願いします」という言葉は少し震えてしまっていた。

「……ところで、そちらのお客様、体調が悪いんですか?」
「え?」
「顔色があまり良くないようなので」
「ああ……ちょっと日光に当たりすぎたみたいで」
「なるほど。軽度の熱中症ですかね」

 正しくは違うが間違いではないと思い、ロナルドは頷く。安室という男はひとつ笑みをこぼし「ならこれを」と言って新しい皿を置いた。赤色のスープに、角切りにされた野菜や肉団子が浮かんでいる。頼んだ覚えのないものにロナルドは困惑し、彼の顔を見た。

「サービス……というと聞こえはいいですが、夏のメニューを試作中でして、冷製スープを作ってみたんです。よろしければ味の感想をお聞かせいただけませんか」

 もちろんスープの分のお代は結構ですので、と安室は言う。なぜ俺たちに?そう思いつつも、ロナルドは何も言わず頷きスプーンを手にした。トマトベースのスープを掬って口にした瞬間、ロナルドはかっと目を開いた。

「っ、う、うまい……!」
「本当ですか?」
「すげーうまいです!!あの、トマトがすげートマトで……野菜……うまいです!!」
「あはは、ありがとうございます」

 ロナルドがなまえに「お前も食ってみろよ」と言うと、彼女もようやくスプーンを手にした。ニンニクが隠されていないかと、恐る恐るかき混ぜる。ロナルドはそんな彼女の様子を横目で見ながら再びスープを口に運んだ。大丈夫だ、と姿で示すために。
 ロナルドに倣って、スープを一口。しかし何も言う気配はない。そのままなまえは手を動かして、もう一口、もう一口と食べ進める。そんな姿を見て、ロナルドは笑った。

「気に入ったみたいです」
「それはよかった」

 ではごゆっくりどうぞ。そう言って安室は離れていく。なんだ、いい人もいたもんだ。ロナルドはそう思いながら、食べ進めていった。
 それから、ロナルドとなまえが店を出たのは日が暮れた後、喫茶ポアロの閉店時間ギリギリだった。繁盛している店であまり長居はしたくなかったが、なまえのためにロナルドは入り浸ることにした。夏が近いこの季節は日が長くなり、吸血鬼にとっては過ごしにくいのである。
 なまえが食べたアイスの金額は、喫茶店で使うにはとんでもない金額になっていた。いくらロナルドが有名な退治人で『ロナ戦』の印税があるからと言って、別に裕福な方ではない。それに彼は幼少の経験もあり、どちらかと言うと庶民の感覚が抜けきらない。有り体に言えば"ケチくさい"。だから、ロナルドは伝票を見て一瞬、ほんの一瞬、なまえに気づかれないように嫌そうな顔をした──しかしその顔は、レジを担当する安室には気づかれていたらしい。

「……妹さんは、アイスがお好きなんですね」
「え?え、えぇ、まあ」

 なまえはロナルドの妹ではないが、ここで「兄妹じゃないんですよ」などと言えば変な勘ぐりを入れられることは間違いない。というのを、ロナルドはすでに新横浜で何度も経験している。そのため咄嗟に頷いたが、なまえはロナルドの受け答えが気に食わなかったらしい。ぷくりと頬を膨らませ、いかにも機嫌が悪いですと言った態度を取った。

「妹さん、今おいくつなんですか?」
「えー、と、……」
「千歳よ」
「冗談が上手だね」

 なまえの言ったことは真実であったが、子供の言ったことだと思ったらしい。
 安室は続けて、伝票に書かれていた金額を読み上げた。ロナルドはポケットに入れていた財布からぴったりの金額を出すと、安室はそれを数えて「ちょうどお預かりします」と言った。どうやら、ロナルドの知る街とこの街は同じ日本であるらしい。吸血鬼によって日本語が公用語の(たとえばボルンガ共和国みたいな)国に飛ばされたと言うわけではないようで、ロナルドはほっとため息をついた。それを見たなまえが隣で「何ニヤついてるの?気持ち悪い」と言ったのを聞いて、そんなため息もどこかに消えてしまったようだが。

「だから!言っていいことと悪いことがあるからな!?」
「……ごめんなさい」
「うっ、ぉ、おう、……俺も言いすぎたよ、悪かったな」

 なまえが素直に謝ることは滅多にないため、ロナルドは呆気に取られて思わず謝り返してしまった。そんな様子に、安室はくすくすと笑う。

「お兄さんと仲がいいんだね」
「……家族だもの」
「お兄さんのことは好き?」
「好きよ、一番好き。人間の中で一番」

 なまえはそう言うと、ロナルドの手を強く握りしめた。
 ……さっきから、なんだこの人。安室の問いにロナルドは眉を顰める。自分たちを詮索するような、それでいて核心には触れないような質問ばかりしてくる。表面をなぞるような世間話のつもりでも、何処かに綻びがないかと探られている感覚。ロナルドは先ほどまで感じていた気配を再び察知して、なまえの手を握り返した。この手は離してはいけないと本能的に感じたからである。

「じゃあ……ごちそうさまでした」
「またのご来店をお待ちしております」

 小さな手を掴んだまま、ロナルドはその店を後にする。扉が閉まるその瞬間まで、安室の温和そうな笑みから何故か目が離せなかった。





 夜は吸血鬼の時間であるが、同時に退治人にとっても営業時間であった。一般人と比べればロナルドは夜型の人間であったが、不眠で働いているわけではない。
 今日は昼から動いていたせいもあって、ロナルドは早々に眠気を感じていた。しかし、眠ろうにも寝床がない。どこか適当なホテルを探そうにもスマートフォンは使い物にならないし、何より、昼間のあれで所持金はほとんど底を尽きていた。
 なまえは吸血鬼だが、生活習慣は人間によく酷似している。というものの、彼女は新横浜でその吸血鬼生を再スタートさせた。それはひとえにロナルドの尽力あってのもので、だからロナルドの"普通"が今の彼女の"普通"になっている。人間は朝起きて夜に寝るらしい。そんな普通を、なまえは吸血鬼だというのに受け入れている。だから、なまえの方も眠気を感じていて、それはロナルドにも伝わっていた。

「もうあの公園で寝るもん……」
「いやそれはだめだろ」
「なんで?」
「なんでってそりゃあ、危ないから」

 ロナルド一人だったら野宿していただろうが、なまえがいるとなれば自ずとその案は却下された。なまえは見た目こそ小学生くらいの女の子で、それも美人だ。目鼻立ちがはっきりとしていて、髪の毛も肌も透明感に溢れている。ほっそりとした手足の先端まで作られたかのような美しさがある。彼女がただの可愛い女の子であったなら、すぐに良からぬ輩に拐われていたに違いない。
 しかしなまえは吸血鬼だ。そこらの人間なんて敵わないほどに強い。それでもロナルドはいつだってなまえを女の子扱いした。

「そうね、ロナルドは弱いもの」
「はぁ!?いや、そうじゃなくて……!!」

 そんな風に甘いから──吸血鬼なんかに付け入られるのよ。なまえは内心そう思ったが、言わなかった。代わりに、なまえの言い分に文句を言うロナルドの腕を抱いてぴたりとくっつく。

「だから私が守ってあげるね」
「……おう、任せ──」

 その瞬間、なんとも言えない空気を感じとった。高等吸血鬼にもよく似た感覚──なまえを背中に隠し、懐に入れていた拳銃に手をかけ、眼前まで迫っていた"それ"に突きつけた。

「この距離で避けるなんて、なかなかですね」
「……誰だ、テメェ」

 拳と拳銃が交わる。暗がりの中、それもキャップに隠された相手の顔を伺うことはできなかったが、唯ならぬ相手だということはわかった。身長は同じくらい、声からして男。吸血鬼と呼ぶにはあまりに"人らしい"が、ただの暴漢と呼ぶにはあまりにも人間離れした立ち居振る舞いだ。
 ロナルドが引き金に力を込めたところで、隣にいたはずのなまえが動き出した。

「っ、ぐっ……!!」
「ロナルドに手ェ出さないでよ!」

 なまえの脚が相手の腕へと叩きつけられる。細く白い足から繰り出されたとは思えない打撃に、相手も怯んだらしい。突き出していた拳をおろし、様子を見るように肩を回していた。
 しかしなまえの猛攻は止まる事を知らない。喉元への突き、足払い、空中で一回転したのちの踵落とし──その全てを相手は受け切ったが、相当なダメージが蓄積されたのだろう。男はロナルドから距離をとり、ハァ、とため息をついた。

「ただの子供……にしては強すぎますね」
「あなたこそ。ただの人にしては強いのね」
「鍛えてますので」
「ふぅん。ただのカフェ店員が鍛える必要あるの?」
「そこまでわかっているとは」
「バレバレよ、隠す気ないでしょ。それに私、目がいいの」

 なまえの言葉に、ロナルドはおい、まさか、と呟く。ただのカフェ店員、となまえは言った。今日この町に降り立ち、唯一出会ったカフェ店員の男性といえば──一人しかいない。

「安室さん……」
「ええ、お久しぶりですね。ロナルドさん?」
「なんで、あんたが」
「……まあちょっとした野暮用ですよ」

 君たちに教えるつもりはない──そう言って、安室は再びこちらへ迫ってくる。人間の相手となれば拳銃なんて構えていられない。ガンホルダーに拳銃を戻し、見よう見まねでボクシングの型を取る。安室の拳が顔面に入りそうになったところを腕で受け切ったものの、骨に響き渡るような痛みにロナルドは思わず声を上げた。

「なぜ拳銃をしまったんです?」
「人相手に使うもんじゃねぇからな!」
「そうですか。しかし日本では"銃砲刀剣類所持等取締法"というものがあるんですよ。つまり、持ってるだけで罪になる」
「っ、許可はもらっている!」
「そうですね。というよりむしろ、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。……でもそれは所持の許可に限る」
「え、そうなの!?」
「その口ぶり、やはり使用してるんですね」





この後「俺たち実は異世界トリップ?みたいな?しちゃったっぽいんです。吸血鬼の力で……」って明かすんだけど、安室さんにわかってもらえない。
安室さんは風見が突如消えた事件を調査しており、その直後に現場に現れたのがこの二人だったことから付け狙っていた…みたいな。
もしかして二人のトリップと風見が消えたことは関係あるんじゃないか、と推理した安室さんは二人と一時協定を結び、寝床を提供することに。
一番書きたかったのは夕飯時に「セロリの漬物です」ってウキウキで食卓へ出す安室さんと、奇声発して逃げるロナちゃんだったのですが、力尽きました。

 




 
 



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