ハム子ちゃん後日談とか


1.「口に戸は立てられない」後日談

「なんか最近焦凍くんの距離が近いんだけど……」
「記憶ないんだ……」
「え?緑谷くん、なにか知ってるの?」
「え?あ、いや、知りません、知りません!」




2.「猫の手も借りたい」後日談

 焦凍くんは猫になった時の記憶はないようだった。

「なまえさん、悪かった」
「なんで謝るの?」
「……その、怖かっただろ。猫」
「まあいろいろ怖かったけど……焦凍くんは可愛いかったから、大丈夫!」
「かわいい?」
「うん」
「俺が?」
「あっ、猫の焦凍くんが!猫が!焦凍くんは普段かっこいいから!ね?」
「……ありがとう」
「(満更でもない顔してるなぁ)」




3.時に遇えば鼠も虎になる

「ハム子が戻んねぇ」

 No.5ヒーローのミルコが俺たちの教室にやってきたのは、つい先程のことだった。相澤先生もが驚いているあたり、なんの約束もしてなかったのだろう。なまえさんから「ミルコさんは気まぐれがすぎる」と聞いていたように今回きたのも気まぐれかと思ったのだが、それにしても様子がおかしい……と考えていた矢先のことだった。

「イレイザーヘッド、お前の個性で見てくれ」
「はぁ……」

 ミルコの手には一匹のハムスターがいる。ハム子──つまりなまえさんが、ハムスターになってしまったということで間違い無いだろう。

「自然に治るのを待つしかないんじゃないのか」
「はぁ!?見たのかよ!」
「見たよ。戻らないだろう」

 発動型の個性なんじゃないか、と相澤先生が言うと、ミルコはがっかりしたような仕草をした。そしてキョロキョロと教室を見渡し始める。誰かを探しているようだった。

「あっいたいた!エンデヴァーの息子!」
「……あ?」
「お前にやる!」

 ぽいっなんて軽々しいものじゃない。豪速球を投げるかの如く彼女はそれを投げた。……投げた?何を?その手に握られてたのはなまえさんだ。つまりあの豪速球はなまえさん本人なんじゃないか──と、認識するまでコンマ1秒。俺はできる限り両手で皿を作るようにして、なまえさんを受け止めた。

「っ、おい!!危ねぇだろ!!」
「うし、ナイスキャッチ!」
「……っなにが!」
「私今からちょっくら広島に跳ぶから、ハム子のこと任せた!」

 じゃーな!と言ってミルコは駆け出していった。ハムスターになったもなまえさんを置き去りにして。




4.仲良きことは美しきかな

「かっわい〜!」
「ふわふわで愛らしいですわね…!」
「それにしてもプロからのご指名とはな」
「轟やるぅ!」
「……別に、そんなんじゃねぇだろ」

 ハムスターのなまえさんは女子に人気で、今は俺の手元から離れている。寮の共同スペースだというのに、ほぼ女子と男子に分かれていた。
 ミルコが俺にこの人を託したのは、単純に友人だからだろう。なまえさんは友人が少ないと本人が言っていたし、預けるなら雄英内の方が安全だというのも納得がいく。ただ、幼馴染を放置していくミルコには納得できなかった。

「公星さんと轟くんって、そんなに仲良かったっけ?」
「まあ、友達だ」
「友達ィ!?おいおい、オイラは知ってるからな!!割と頻繁に二人で出かけてんだろォ!?」
「そんなことみんなもう知ってるだろ」
「うんうん」
「周知の事実」
「友達なら出かけるのも普通だろ」
「だーかーらー!男女!二人きり!お出かけ!それすなわちデートだろ!?過ちがないわけねーんだよ!!」

 わけわかんねぇ。

「峰田はともかく……轟って男女の友情成り立つ派なん?」
「どういうことだ?」
「恋愛に発展しちゃう可能性がなきにしもあらずだろ?」
「そういうもんなのか」
「そういうもん!!クラスメイトはともかくさ、学校外の女友達となるとときめいたりしねぇの?キュンときたりしねぇの!?」

 峰田もだが、上鳴や瀬呂の言いたいこともよくわからなかった。なまえさんにときめく──そもそもときめくとか、キュンとするってのがなんだって話なのだ。胸が高鳴るってことなんだろうが、あいにく、俺にそんな経験がないからよくわからなかった。

「可愛いなーって思うこと!ねぇの!?」
「かわいい……?」
「クラスの秀才がこんな悩んでるの初めて見たぞ」
「あんまり追い詰めるのはやめようぜ?な?」
「でも切島も気にならね?」
「いやそれは……気になるけどよぉ」

 かわいい、かわいいか。なまえさんの可愛いところ──と考えて、一つだけピンときたことがある。

「飯食ってる時は好きだ」
「……」
「なまえさん、飯食うのが好きだから嬉しそうに食べるんだ。あと口が小せぇ割によく食べるし、頬が膨れてんのとかよく見かける」
「……」
「前に一回ひまわりの種を渡したら、すげぇ喜んで食っててな……夢中になって食べるもんだから、面白くて」
「……」
「よく俺にも飯作ってくれるし、なまえさんとの飯は美味しいし楽しいんだ」
「……」
「……って、黙り込んでどうした?」

 この場にいる全員が俺を見ている。ハムスターのなまえさんはというと、クラスメイトから与えられた野菜をポリポリと食べている。呑気だ。頬が膨らんでいる姿は、人間の時とあまり変わりないと思った。人差し指で頭を撫でると、一瞬嫌そうな顔をしたが気持ちよさそうに目を細めていた。多分、飯の邪魔されるのが嫌だったんだろうな。悪ィ。と言っても今は伝わらないと思うけど。

(二人の世界!)
(もう付き合えよ……!)
(無自覚天然記念物)
(これでお互い友達って思ってるのすごいなぁ……)



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