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(※幼女夢主)
「お誕生日おめでとう、ブチャラティ!」
お昼はみんなでお祝いをしたから、夜こそは私たちだけでお祝いしよう、ということになった。
お昼は楽しかったなぁ。いつものお店で、いっぱいピッツァを頼んで、ブチャラティの好きなカラスミソースのスパゲティーと、ケーキもいっぱい頼んだ。四の倍数を頼んだらいつもみたいにミスタが怖がったから、五の倍数で頼んだの。そうしたら、ジョルノが「これじゃあ多すぎますよ」と言って笑って、フーゴも呆れ顔で笑っていた。亀の中にいるポルナレフさんは、人間のご飯が食べられないことを少し嘆いていた。
そうそう、今回はトリッシュも来てくれた。今の彼女は歌手で有名人だというのに、お忍びで来てくれたらしい。誘ったのは私だけど、すごく嬉しくて思わず抱きついたら、彼女は私を受け止めて抱きしめ返してくれた。一緒に旅をしていた時よりもずっと頼もしかったわ。
久しぶりに会ったトリッシュは相変わらず綺麗で、私と年も近いっていうのに私なんかよりずっと大人びていた。それに最近ますます、美しさに磨きがかかったと思う。……やっぱり、日本人って童顔に見られるのかな。私はまだまだ子供だけど、周りからは実際の年齢よりずっと下に思われているみたいだし。本当は、トリッシュみたいな大人の女性になりたいんだけど。
「これ、ブチャラティに。私からの、プレゼントです」
昼のことを思い出しながら、私はブチャラティへの誕生日プレゼントを机に置いた。ずっとブチャラティがつけていた髪飾りは私がいただいてしまったから、代わりのものを用意したのだ。黄金色に輝くそれは、とても美しい。あなたの魂のようだと思う。
ケーキにたてられたろうそくの火が、黄金色に映って照り返す様が綺麗だった。
子供の私からしたら少しだけ高かったけど、仕事を頑張って買ってよかった。ブチャラティ、喜んでくれるかな。ドキドキと胸を高鳴らせて、一人ソファーに座って俯く。
「……ブチャラティからしたらあんまり高価なものじゃないし、私、センスもないけど」
「……」
「受け取ってくれたら、嬉しい、です」
「……」
返事はなかった。
◆ ブチャラティが亡くなったのは、2年前の春のことだ。あの黄金のような体験は、日数にしたらすごく短かったのに、今でも私たちの心の中できらりと光っている。
ボスを倒して事が落ち着いて、私はたくさん泣いた。お父さんとお母さんが亡くなった時も悲しかったけど、アバッキオやナランチャ、それからブチャラティが亡くなったことも、同じくらいすごく悲しかった。人生であれほど泣いた日はないだろう。
両親が亡くなったあと、私の親代わりをしてくれていたのはブチャラティだった。でも私は彼に、両親に向けるものとはまた違う気持ちを抱いていたのだと思う。ブチャラティのことが好きだった。付き合いたい、恋人になりたいって、ずっと思っていた。でも彼はどこまで行っても私の保護者でしかなかった。私の気持ちなんて気付いていたというのに、ずっと。
私が子供だから、十歳下だから、いけなかったのだろうか。もう少し大人だったら、ブチャラティは私のことを見てくれたのかな。
「……たぶん、違うよね」
机に顔を伏せ、両腕で覆い隠す。
ブチャラティは言っていた。お前は、この世界で生きるべきではない。お前は普通の世界で普通に生きるべきだ、と。
私は自分にそんな資格のある人間だとは思えなかったし、それ以上に彼こそ幸せになるべきだと思った。だから言ったのだ。ブチャラティこそ幸せになってくださいね、と。私の言葉にブチャラティは小さく笑っていた。気まずそうに、私の言葉を跳ね除けるように。
「俺はそんな大層な人間じゃあないさ。それに、ギャングとして生きると覚悟を決めた、幸せに生きるために生きちゃあいない」
ねぇブチャラティ。
「でもお前は違う。なし崩し的にギャングになったお前なら……まだ戻れるさ。いや、俺が戻してみせる」
本当は私、ギャングなんて嫌いだったし、普通の世界に戻りたかった。学校に行って、友達と遊んで、拳銃も麻薬も殺人とも縁がない、あなたの言う何も知らないままの幸せな子供でいたかった。
「約束だ、なまえ」
でも、あなたはずっとこの世界で生きてきたんでしょう。生きながらに死んで、それでも腐らずに優しいままで──そんなあなたがそばにいてくれるならって思って、私はあなたと同じ世界で生きていくって決めた。
私は今年、十二歳になった。あなたが殺人を犯したと言っていた年だ。あなたが、ギャングになると決めた年齢と同じになった。私ももしかしたら、ブチャラティと同じで二十で死ぬかもしれない。それかもっと早くか……明日にでも、死んでしまうかもしれない。ギャングなんてそんな世界だ。
それでも私はあなたのいない世界を歩いていきたいと思ったから。だから来年も、あなたのいない誕生日パーティーを開かなきゃ──ジョルノやミスタたちと一緒に。
「誕生日おめでとう、ブチャラティ」
あなたのいない世界で私だけ歳をとっていくのはすごく苦しいけど……でも、もし今のあなたに言うとしたら。二十二歳の誕生日おめでとう、大好きだよって、あの時と同じように伝えたい。
ろうそくの火に息を吹きかけて消す。ゆらりと煌くその輝きは、まるであの日々のようだった。