穴があったら入りたい


 突然だが、私は人前が苦手である。人の視線は怖いと感じるし、人がたくさんいるところはうるさくてしょうがない。だから人の少ないところが好きだし、一人が好きだし、本当はヒーロー活動なんて私には向いてない。私のこの性格を父は「なまえはお母さんに似て、ハムスターの性格が色濃く出てるからね」と笑っていたが、正直、個性のせいにはしたくはなかった。単純に私は人嫌いなのだろう。人との関わり方がわからない臆病者なのだ。
 雄英敷地内、ハイツアライアンス1-A寮、共有スペースにて──そんな人嫌いな私、公星なまえは、雄英生徒らを目の前には突っ立っていた。

「よし、全員集合したか」
「なになに?なんですか?」
「その人誰なんすか!?」
「お前らミルコは知っているだろう」
「ケロ……先日のビルボードチャートでNo.5となったミルコよね。ラビットヒーローの」
「ああ。そのミルコは特殊な形でのヒーロー活動をしている。今日はその話と、インターンの紹介をしてもらいにこいつに来てもらった」
「よ、よろしく、おねがいします」

 イレイザーヘッド──雄英教師である相澤さんが私を親指でくいっと指さした。雄英生たちはみな、私をじっと見つめている。その中には先日友人となった焦凍くんの頭もチラリと見えた。
 誰だこの人、何しにきたんだ、何話してくれるんだ、という興味と期待の目。そしてたまに馬鹿にしたような目が混じっていた。視線は怖い、なぜなら、目は心を物語るから。視線に敏感であるがゆえに、私は人の気持ちを少し感じ取り"すぎる"。それはとても、息がしづらい。
 ある男の子が「プロの話を聞けるなんて光栄だなぁ」と呟く。しかし、プロはプロでも自分はプロの部下なだけだ。そんな期待はやめてほしい。今にも逃げ出したい気持ちを抑え込んで、私はひゅっと息を吸った。

「公星、時間は有限。はやく要件まとめて話しなさいね」
「わ、わかってます……は、はじめまして、みっ皆さん……わたしは、公星なまえといいます、っ、ヒーロー名は、」
「ハァ……いい加減、人前で話すのぐらい慣れろ。一対一だと普通に話せるだろ」
「そ、そりゃ、相澤さんは教師ですから、人前に立つのは慣れてるかと思いますけど」
「……ヒーロー名はアムステア。まあ、知らないやつの方が多いだろう、俺みたいなアングラ系だからな」

 違う、アングラ系ではない。個性を知られることがディスアドバンテージとなるからあえてアングラ系ヒーローという立ち位置に収まっている相澤さんと違って、私は弱いから知られていないだけである。しかし生徒たちにそんなことは関係ないらしい。眼鏡をかけた男の子がピンと手を上げて、勢いよく立ち上がった。

「失礼!公星さんとヒーローミルコはどのようなご関係なのでしょうか!」
「こいつはミルコの、マネジャーって言ったところかな」

 先生の言葉にあたりがざわつき、私は思わずその声に胸の辺りをギュッと握りしめた。なんで相澤さんは期待させるようなことを言うんだろう。きっと、私の反応を見て楽しんでいるに違いない。この人は意外と意地悪なところがある……というのは、この数分でよくわかったことだった。

「事務所を持たないあのミルコのサイドキック!お会いできて嬉しいです!」
「さ、サイドキックじゃないですよ……私はただのミルコさんの部下のような、マネージャーの真似事というか……それにしても君、詳しいんだね」
「それをサイドキックというのでは?」
「違う違う、全然違うの。わたしは雑用係」

 私の言葉に、そばかすの少年は意味がわからないとでも言いたげな顔をした。
 私がミルコさんのサイドキックを名乗らない理由は三つある。まず、私はヒーロー免許こそ持っていれど弱いこと。ハムスターの個性の私はちょっと耳が良くて走るのが早いぐらいで、別に強いというわけではない。いくら鍛えても力は強くならなかったし、体格だって発達しなかった。私の身長は高校生の彼らにすら負けている。というか、今の高校生の発達が良すぎるのだろうか。
 そして次に、実際事務の仕事の方が多いこと。これに関しては、ミルコさんが何もやらないせいだ。ミルコさんは事務処理が大の苦手で嫌いで、結果私が全ての事務作業を行なっている。ホークスにこれを愚痴ったら、「ハム子ちゃん、ヒーロー免許を持ってる事務員ですねー」と笑われた。とても虚しいが間違いない。
 そして最後──これがなによりも大きな理由なのだが、ミルコさん自身が「私にサイドキックはいない!」と宣言したからである。こればかりはほんの少し傷ついた、言わないけど。

「私ね、弱いんです。すごく弱い。多分今の君たちの方が強いんじゃないかなぁ……」
「チッなんだザコかよ」
「バクゴー!!お前プロ相手に、なんて口聞いてんだよ!」

 赤髪の少年が「すみません!こいつ口が悪くて」と頭を下げる。対して「バクゴー」と呼ばれた少年は、全く謝る気がない。本当にヒーロー志望なのかと怪しくなるその態度に、自然と私は顔がにやけていた。なんだこの男の子、既視感がある。ありすぎる。つっけんどんというにはあまりにも配慮がなく、暴力的で横暴な態度は、私の幼馴染によく似ていた。

「ルミちゃんみたい……」
「は?何ニヤついとんだ、気持ち悪ィ」
「だからやめろって!」
「そうだぞ爆豪くん!プロ相手に、それも歳上の方に──」

 眼鏡の男の子は言いかけて、私をじっと見つめる。メガネのブリッジを指で押し上げて、彼は気まずそう「失礼、歳上、ですよね……?」と私に尋ねた。その言葉に迷わず頷けばいいものの、何と言っていいかわからずに押し黙る。すると助け舟を出すかのように、今まで何も言わなかった焦凍くんが口を開いた。

「その人はミルコと同い年だ」
「それは失礼しました!」
「う、うん……いいよ……慣れてる、慣れてるもの……」

 ──つい先ほどのことだ。時間を潰そうと思って、許可を得て校内を歩いていた時のことを思い出す。普通科の先生らしき人が「君何科?1年生?いくら寮制度になったからって、校内は制服でね」と言ってきたのだ。……26歳です。とは言えなかったので「すみませんすぐ戻ります」と返したのだけど、なんと返すのが正解だったのだろう。それならばとコスチュームに着替えた後、誰にも話しかけられることはなかった。しかし、道ゆく人は私のことをヒーロー科の生徒だと思い込んでいたに違いない。
 突然言葉を発した焦凍くんに、周囲はざわめく。ああ、やっぱりクール系で通ってるのかな……と思ったが、どうやら違う意味らしい。

「轟くん、公星さんと知り合いなの……!?」
「友達だ」
「えっ」

 男子も女子も、なんなら相澤先生までもが私と焦凍くんを交互に見つめる。やめて、やめてほしい。震える足を叱咤して踏ん張ったが、冷や汗は止まらない。頭にボールみたいなものがついてる男の子が赤い涙を流しながら「年上女性と!?友達!?ゼッテーそれ意味深な友達だろ!!」と突如叫びだし、私はとうとう情けない声を漏らして、逃げ出した。





「なぜミルコのマネージャーなんてやっているのかしら?」
「そ、それは……ミルコさんの能力って、戦闘に全振りしているのだけど、」
「えぇ。ラビットヒーローミルコといえば、武闘派として有名ですわ」
「戦闘に全振りした結果というか……他のヒーローとの連携したがらないし、救助も得意ではないし、難しいお話から逃げるから」

 あの後、焦凍くんが「大丈夫だ、なまえさん。怖くねぇから」と逃げ出した私を呼びにきてくれた。プロなのに情けないと思いひたすら謝り倒したところ、どうやら説明会という形を変えてくれたらしい。「みんなでお菓子食べながら雑談会をしようよ!」ととある女の子が提案したようで、焦凍くんに連れられて寮に戻るとそこはすっかりお茶会モードであった。
 適度な距離を保ちつつ、しかしプロヒーローとしての活動を聞いてくれる彼らの気遣いに思わず涙が溢れそうになる。それと同時に、自分の弱さが嫌になった。涙と一緒に飲み込んだ茶菓子と紅茶はたいそう美味しかったが、少しだけしょっぱかった。

「強いヒーローだからって何でもできるってわけじゃないんやねぇ」

 ──ミルコさんは強い。強いゆえに、自分が全て拳(脚)で解決すればいいと思っている。下手にチームアップを組んだら相手の方がついていけない。救助も、ヒーローの能力としてはきちんとあるが、本人の性格上向いていない。彼女は拳(脚)で解決したいのだ。もちろん、人を助けたいという気持ちはある。彼女の名誉のためにも、ミルコさんは素晴らしいヒーローである、とだけは言いたい。
 しかし一番の問題は、ミルコさんは難しい話が嫌いだった。警察との話は逃げるし、作戦もあまり当てにしない。戦闘に関しては蹴ればわかる、野生の勘があるなんていうけど、情報があるときにもそんなことを言うのはあまりにも愚策だ。拳(脚)で解決できないことは苦手らしい。

「だから私はそのサポートをしてるの。情報渡したり、他のヒーローや警察との橋渡しをしたり。私自身は一応どこの事務所にも所属してないフリーのヒーローなんだけど、ミルコさんのこと色々やってたらこんなことに……」
「……やっぱりサイドキックじゃないんですか?」
「違うのよ、ほんとに」
「じゃあ事務員」
「それはちょっぴり正解」

 やはりNo.5ヒーローであるミルコさんのことは皆気になっているらしく、お菓子を食べながらでも真剣に耳を傾けてくれる。事務所を構えず、日本中を駆け回っていること。どこか一つの場所にとどまるときは、ホテルをとって寝泊りをすること(ちなみにホテルを取るのも私の役目だ)
 私個人としては、未来のヒーローたちのためにもインターンに来てほしい。けれど、彼女は好き勝手跳んでしまうので、スピードと機動力に長けた人でないと無理かもしれないという話は正直にした。それから、インターンといってもミルコさんから直接指導することは何もないということも。見て覚えろってやつをミルコさんは地で行くタイプである。

「じゃあ俺は無理だ、機動力ねぇからな」
「き、切島くん、だっけ。あの、こればかりはミルコさんが特殊っていうか……気を落とさないで」
「……ウッス!あざす!」
「この中で機動力つったら飯田だなー瀬呂もイケんじゃね?」
「しかし、彼女は跳んでしまうのだろう?俺は空は走れないからな……そういえば、公星さんはどうやって着いていっているんですか?」
「私?私はだいたいは走ってますよ、道があればだけど」
「よく走れますね!?」
「いやまあ、割と置いてかれることもあるけどね」
「なんつーか……」
「不憫、ですわね……」
「まあミルコさんなら一人で解決しちゃうから」

 私の力なんていらないと、小さい頃に言われたっけ。そうだ、私の力なんてのは微々たるもので、ミルコさんにとってはないに等しい。それでも、ルミちゃんは私とずっと一緒にいてくれるのだ。

「ほんとはミルコさんなら、なんでも一人でできちゃうの。私が居なくてもね。でもあの人は優しいから……弱い私が、そばにいる理由をくれたの。私が強くあれる場所をくれて、」
「……」
「あっ、いや!学生の子に話すことじゃないね!ごめんなさい」

 私が気にしているのを知っているから、ルミちゃんはずっと何かしらの理由をつけて私と一緒にいた。進学の時も、「お前弱っちいから私と同じ高校行け!それでわたしが鍛えてやる!」なんて、横暴なことを言っていたっけ。私は鍛えたいとも、ヒーローになりたいとも思っていなかったのに、彼女の言う通り同じ道に進んだ。案の定弱い私はヒーロー科の中で最低の成績だったが、ルミちゃんはそんな私を見捨てることはしなかった。3年生の卒業間際ギリギリでヒーロー免許を取った私は事務所に所属したもののついていけず、結局ヒーローミルコの世話になり、今に至る。……なんて話は、きっと生徒たちも興味がないだろうから言わないけど。

「ヒーローって、理由なく誰かを助けて、危険を顧みず動かないといけなくて、無条件に強くないといけないよね。正義っていうのは、強くないとダメだから」
「……だからオールマイトはNo.1だった」
「そうね。正しい強さってのは、力無い人にはとても頼もしいものだから」

 強くない私がこうして生きていられるのは、強いルミちゃんがいたからだ。これは全然大袈裟なんかじゃない。

「ミルコさんはそれが出来る人。困っている人を損得なしで助けるし、そのためなら自分が怪我をしたって構わない。もちろん技術とか身体的な力はあるけど、ヒーローにとって何が大事なのかをわかっているから、彼女は強い」
「……」
「だからその、ヒーローミルコの元へ来たら、きっとそういうのが学べるよ」
「……」
「……って、思い……マス」

 話終わって、沈黙が続いていることに気づく。誰も口を開かないし、お菓子を食べる音もしない。なんだか居た堪れ無くなって俯いていると、誰かが小さく「かっこいい」と言って、それを皮切りに拍手が起こって、次第に大きくなっていった。

「えっえっ!?なんで拍手!?」
「いやあの、かっこいいなーって思いました!」
「えぇっあ、うん!ミルコさんは強くてカッコいいけど……」
「いやいや、公星さんもかっこいいって思うっス!な!?」
「おう!ここまでヒーローを信用してるってのも、かっこいいよなぁ」
「言葉の重み」
「なんかいろいろ知ってて、理想の大人って感じ!」
「り、理想……大人……!?」
「でもザコネズミだろうが」
「かっちゃん!?」

 理想の大人なんて、そんなことを言われたのは初めてでつい顔が熱くなる。熱を覚ますために頬に手を当てたが、熱が引く気配はない。見た目がこんなだから子供扱いされることの方が多かったし、ミルコのマネージャー……というより金魚の糞扱いする人も多かったからなんだか嬉しかった。そうか、ちゃんと大人に見えてるのか、私。

「サポートしてくれる人がいて、初めてヒーローって成り立つんですね!」

 ──私をヒーローにしたのは、なまえだ。なまえがいたから、私はヒーローやってんだ。
 茶髪の彼女の言葉に、ミルコさんの言葉を思い出す。ずっとわからなかった言葉の意味がようやくわかった気がした。
 それから、みんなの個性の話やプロヒーローとの話とかをしていたら、すでに日は暮れていた。A組の子たちはみんないい子で、一部の子とは連絡先も交換してしまった。プロとしてそれはどうなのかとも思ったが、まあその子たちも「今後プロになる身として、交換したいです!」とのことだったので良しとしよう。それに、もうとっくに焦凍くんと連絡先交換してるのに今更大人として……とか、考えるのが馬鹿らしくなった。

「じゃあ、今じゃなくてもいいから、もし今後インターンとか職場見学したいってことがあれば、ぜひ声をかけてね。イレイザーヘッド経由でも大歓迎」
「最後でやっと話すの慣れたか」
「い、言わないでくださいよ、イレイザーヘッド……」

 揶揄うように言う相澤さんにじっとりとした目線を送る。しかし私の睨みなど別に怖くもないようで、すぐ生徒たちに向き合って「ま、ミルコのとこは勉強になるよ」と言っていた。その言葉、今言うことだろうか。
 帰り支度をしていても、A組の子達はたくさん声をかけてくれた。今日はありがとうございました、なんてわざわざ言ってくれたわけだが、説明会を途中で逃げ出した大人にそんなこと言ってくれるのはきっと彼らぐらいだと思う。涙を飲みながら扉を開けようとしたところで、焦凍くんが駆け寄ってきた。

「なまえさん、お久しぶりです」
「あ、うん……久しぶり、焦凍くん」

 焦凍くんと会うのはあの日以来だった。メッセージでやりとりはそれなりにしていたけど、彼も私も忙しいからすごく盛り上がっていると言うわけではない。焦凍くんは友達らしいやりとりをするのに慣れているわけではないみたいで、たまに「好きな食べ物なんだ」とか「ここのコスチューム会社ってどうなんだ」と思いついた質問を送ってきてくれる。たまに変わったスタンプが送られてくることもあるのだが、どうやらクラスメイトからのプレゼントらしい。たしか上鳴くん、だったかな。

「来るなら言ってくれ」
「ごめんね。突然相澤さ、……イレイザーヘッドに呼ばれたから」
「学校案内とかしたかった」
「学校案内?」
「前言ってただろ、学校で何してるんだって。実際校内見せた方がわかるんじゃねえかって思って」

 まさか、テンパった私の脳直な発言を覚えていてくれたなんて。しかも気を遣ってくれたなんて。彼の健気さに思わず胸を打たれて、口元を押さえる。決めた、次来る時は絶対に彼に連絡しよう、そうしよう。というか、焦凍くんに会って学校案内してもらうためにここに来るしかない。純粋な少年の気遣いを無碍にしないためには、もうこうするほかないのだ。

「それに、なまえさんに会えるってわかってんならもうちょっと何か準備した」
「なにか?」
「ああ。茶菓子とかいるだろ、人もてなす時は」
「別に気にしなくていいのに」
「ポテチとコーラがマストらしいからな」
「……それ誰に聞いたの?」
「上鳴と切島」

 焦凍くんの口からポテチなんて単語が出てくるとは思わなかったが、なるほど、またも友達の入れ知恵か。今までも結構厳しくトレーニングとかしていたみたいだし、焦凍くんがポテチを食べる姿なんて想像できない。少し面白く思えてくすくすと笑っていると、焦凍くんが怪訝な顔で私の顔を覗き込んだ。

「嫌いだったか?」
「ううん、好きだけど……」

 私の言葉に焦凍くんは分かりづらくもほっとした顔を浮かべる。その顔に安堵しようとしたところで、またも刺さるような視線を感じて、私の身体は跳ね上がった。視線の先にはあのぶどう頭の彼がゆらゆらと立っている。

「なあ……やっぱりよぉ、轟……友達とか言ってもっとやべー関係なんじゃねぇのか……?」
「は?」
「空気感がかんっっぜんに友達のそれじゃねーんだよ!!そもそも男女の友情とかマボロシ!!まやかし!!男と女、それすなわち「なまえ!!」に決まって、ぇ……?」

 ぶどう頭の少年の言葉を遮るように寮の扉が開かれる。慌ただしく入ってきたのは──我らがラビットヒーロー・ミルコだった。そしてなぜかコスチュームではなく、私服である。周りの生徒たちが「なんでここに!?」と叫び、教師であるイレイザーヘッドまでもが驚いていたが、私が一番聞きたかった。

「ルミちゃん!?なんで!?」
「仕事終わったからソッコーでここ来た!飯食いに行くぞ!」
「それならメールしてくれればよかったじゃない!ああもう!今からお店の予約なんて……!」
「なまえん家でいいだろ」
「家で食べるって言っても、買い物行かなきゃいけないじゃない!いつでも食材がそろってるってわけじゃないのよ!?」
「ってお、お前アレじゃん、エンデヴァーの息子!なまえやっぱりこいつと結婚すんの?」
「しないよ!?なに言ってるのルミちゃん!ごめんね焦凍くん、この人すぐ冗談言うから……」

 と、後ろを振り向いてはっとした。ぽかんとした顔の生徒たちとイレイザーヘッドが目に入る。イレイザーヘッドに関しては、なぜか少しだけニヤついている。仕事モードが完全に外れてしまって、ほぼ素の私を生徒たちに晒してしまったことに気付く。ルミちゃんに気を許しているからってのもあるけど、なんとも恥ずかしい。子供達の前で、大声を上げるなんて。何も言わないより弁解した方がいいと思ったが、今は彼らの顔を見ることなんてできなかった。少し俯いて、弱々しい声で私は言う。

「き、聞かなかったことに、してね……」

 あたりは変わらずシーンとしていたが、ぶどう頭の男の子が「年上女性の恥じらい、アリだな」と呟いたのを、私は聞かなかったことにした。後生なので忘れてください……。


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