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「あの、すいません!このさんかく、いくらですか~?」

 天鵞絨町にあるビロードウェイ、ここはその通り沿いにある小さな雑貨屋。バイトの私と店主のおばあちゃんの二人でその店に立っていた。演劇の町の名の通り、ここには数多くの劇団が存在しているので、小道具の材料を買いに役者さんであろう人たちがよく来ていた。
 私はいつものようにレジの前に立ってお客さんを待っていると、カランコロンと聞きなれた音を立ててドアが開いた。お客さんが来たのだ。見たことがない人、新しい劇団員さんかな?それともこの辺の人じゃないのかも。あまり不躾にジロジロ見るのも良くないので近くの商品を見るふりをしながらそのお客さんを観察した。すると、お客さんである彼が急にこちらにグルンと首を向け、目があった。

『(え!?ジロジロ見てたのバレてたのかな…!)』

 そして彼は冒頭のセリフを満面の笑みで言うのだった。

「あの、すいません!このさんかく、いくらですか~?」
『さ、さんかく…?』

 そんなもの取り扱っていたっけな…と思いながら、彼に近づいた。彼の手には青を基調として中ではカラフルな色がキラキラと光るガラスでできた小さな置物があった。確かに言われてみれば、置物の底は三角形だった。

『ええっと…そのガラスの置物は一つ300円です』
「ほぉ~~、じゃあこれの色違い、ありますか?」
『そこにないようでしたら今は品切れです…申し訳ございません……』
「売り切れか~~…しょんぼり」

 目の前の彼が小さな男の子のようにあまりにも悲しそうに見えたので、私はなんとか彼の望みを叶えてあげたいと思ってしまった。

『あ、あの…何日かお時間いただければお取り寄せすることができますが…いかがいたしますか?』
「おとりよせ~~?そうすれば色違いさんかく買えるんだよね?するする!」
『ありがとうございます…!それでは注文表をお持ちしますのでこちらへどうぞ』

 さっきの悲しそうな表情とは一変して最初のような明るい笑顔を見せてくれたので、私は満足感からか心をぽかぽかさせながら彼をカウンターに案内した。

『ではこちらにお名前と電話番号と…あとこの太枠の欄にご記入お願いします』
「は~い」

 近くでまじまじと彼を見てみると、水色の髪がサラサラと流れているのがわかる。蜂蜜色のたれ目気味の瞳とちらりと見える八重歯がチャームポイントの、自分とそう年の変わらなそうだと思った。

「これでいいですか~?」
『あっはい!…大丈夫です!』

 彼が紙から顔を上げると再びバチッと目があっってしまった。なんだか彼のことがやけに気になってしまってさっきからよく見てしまう…。

『えっとお名前は………ンン~?』

 難しい漢字で読めない…。まだら…はと……?名前は…さんかく?

「いかるがみすみっていいます~~」
『いかるがみすみさん…!失礼しました!』
「いえいえ~~。んーっと君は…名字さん……あ!」
『えっ!?なんですか…?』

 難しい彼の名前の読み方がわかり忘れないように彼の注文表の名前欄に振り仮名を書いていると、突然彼が大きな声を出した。びっくりして"みすみ"の最後の"み"の字が少しよれてしまった。

「君の名前のとこ、さんかくある~~!」
『え…?三角、ですか?』

 さっきも同じように三角で悩んだ気がする…と思いながら聞くと、彼は私の胸元を指差した。どうやら名札のことを言っているらしい。

「ここここ!わぁ、素敵なさんかく~~!」

 私の名札には私の名字の周りに自己流のデコレーションが書かれている。この名札をもらった時に自分で書いたりシールを貼ったりしたのだ。その中に三角形のシールがあって彼の言う三角はきっとこの三角のことだ。

『…この三角のシールならここにも置いてありますよ』
「ほんとぉ~!?かいます!」

 彼にその場で待つように言って、私はシール売り場からお目当の三角シールを持って来て彼に渡す。すると彼は私が今日見た中で一番嬉しそうな顔を見せた。三角のことでこんなにも一喜一憂するなんてよっぽど三角が好きなんだなぁ…。

『(なんだか本当に小さい子供みたいで可愛い…)』
「あっおねえさん笑ってる~!なんで~~?」
『エッ!いやいやなんでもありませんっ!』

 まさか斑鳩さんが可愛くて笑ってました、なんて本当のことは言えず慌ててごまかす。

『ああああの!数日以内には注文した品物が届くと思うので、届き次第ご記入いただいた先にお電話いたします!』

 これ引き換え用のお客様控えです!と半ば彼に押し付けるように半分に切った注文表を渡した。

「…ん~~電話はいいや」
『なっなんでですか…?』

 ここに来て注文キャンセルか…?と思っていたら、彼は私の予想だにしないことを満面の笑顔付きで言い放った。

「オレ、毎日ここ来るから、電話なくてもだいじょーぶっ!」

 あまりにも彼が当然のことかのように言うので私は思わず数秒呆けてしまった。数秒後に意識が戻るとすぐに彼に問いただす。

『毎日!?毎日買い物に来るんですか…?』
「うんっここ初めて来たけど見たことないさんかくたくさんあるし、何よりおねえさんに毎日でも会いたくなっちゃったし」
『へっ…?わ、わたしに……?』
「あ~~でもそしたら毎日なにか買わなきゃいけないのかな~~~。あの、なんも買わなくても、さんかくとおねえさん見るためだけでも毎日来ていいですか~?」
『ちょちょちょっと待ってください!』

 私が顔を赤らめて頭に疑問符を浮かべている間に、彼はどんどん話を進めていくもんだから、すっかり置いていかれてしまった。別にお店に来たら必ず何かを買わなければいけないと言うわけでもないので、商品の雑貨を見るために来るというのは全然構わないのだけれど、そこに"私"も入って来ると話は別だ。

『な、なんで毎日私を見に来るんですか…?』

 綺麗な顔をした彼にそんなことを言われたら少なからず期待してしまうというのが女心というもの。ドキドキしながら彼に聞いてみる。

「…ン~~~~~、なんでだろーねぇ」
『自分でもわからないんですか…?』
「なんでかわかんないけど、毎日名字さんの顔を見たくなっちゃたからっていうのはだめですか?」
『え、えぇ……と……』

 なんだかあまり甘い雰囲気ではないような…。でも毎日顔が見たいっていうのは、そういう意味ではないのか…?いやでもなんだか斑鳩さんはすごく天然のようだし、そういう意味でもないような……。

「だめなら、残念だけど二日おきくらいに来ます…」
『(それでも結構来てる!)………別に毎日いらしても大丈夫ですよ…』
「!ほんとぉ~~? やったぁ~~~~~~!!」

 綺麗な顔をしたあまりにも純粋な彼を見ているとこっちまで自然と笑顔になってしまう。

『(…なんだか私も毎日彼のことを見たくなってきちゃった)』

 これが恋なのかはわからないし、彼が私のことをどう思っているのかもわからないけれど、これから毎日顔を合わせるのだからきっといつかこの気持ちの名前はわかることだろう。


 私は毎日シフトが入っているわけではない、というのを彼に伝えて、シフトがない日は別の色々な場所で会うようになるのはもう少し後になってから。






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