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万里と私

『最近楽しそうだね』
「あ?」
『前までは毎日つまんねーみたいな顔してたのに』

 万里は露骨に嫌そうな顔をして私を見た。勝手に私の部屋に入ってきて、勝手に私のベッドに寝っ転がって、勝手に私の雑誌を読み始めるのはもう慣れっこだから気にしない。

「そうか~~?んな変わってねぇと思うけど」
『そんなことないよ。私の部屋に来る日も減ったし』

 前までは学校帰りには毎日のようにきてたのに。私と万里は通ってる学校が違うから通学路も帰りの時間も違うけど、幼馴染で私のお母さんとも仲のいい万里は私が帰ってくるよりも前に私の部屋でくつろぐような男なのだ。でも最近はその頻度が減った。今日だって確か来るのは三日ぶりだ。すると万里は目を細めてニヤ~~、と憎たらしい笑みを浮かべた。うわ、私その笑顔嫌い腹たつ。

「なんだよ名前~~、寂しいならそう言えよ。これからは毎日来てやっから」
『いや別に寂しくないから~~。あと暑苦しいから肩組まないで~~』

 万里はベッドから起き上がって私の横に腰を下ろしたかと思うと、親しげに私の肩に腕を回した。まあ実際に親しいんだけど、その嬉しそうな顔はムカつく。

『本当にいいから。それより私は万里が楽しそうで嬉しいんだよね』
「なんで」
『最近は放課後に私の家に来て勝手に雑誌とか漫画読んだりゲームするくらいからすることないのかこいつ?って思ってたんだよね。だけど今の劇団に入ってからの方がよっぽど忙しくて充実してるようだし、万里にはそっちのが向いてるよ』
「……お前は俺の母親か」

 万里は私の頭を小突きながら、「てか今ディスった?」とか言って来たのでそれは無視した。万里が勝手にライバル認定してる兵頭くんと同じ劇団でしかも同じ部屋って聞いた時はどうなることかと思ったけど、なんやかんやうまくいってるようで良かった。

『人生スーパーウルトライージーモードの万里が本気で向き合えるようなものができて良かったね』
「…おう。あともしかしてお前それ気に入ってる?」
『人生スーパーウルトライージーモードってやつ?なんか語呂が良くて言いやすいんだよね』

 小さい頃から勉強でもスポーツでも、なんでもそつなくこなせる万里が「俺の人生スーパーウルトライージーモード」なんて言い出したのはいつだっただろう。普通の人が言ったら「なにイキってんだ?」って発言だけど、万里の場合は全く誇張も過大もしてない発言だから納得してしまう。

『そういえば小さい頃、万里が私のこと助けてくれたことあるよね』
「あったか?んなの」
『あったよ。小学4年生くらいの時だったかな?私の隣の席だった男の子が私のペンとか消しゴムとか取って来るから、やめてって言っても聞いてくれなくて…。それを誰にも言えなかったんだけど、なぜか万里にはわかっちゃって、その男の子から取られたペンとかを取り返してくれたんだよ』

 ある日突然あの子に取られたペンとか消しゴムを私に取り返してくれた万里には驚いたなぁ。まるでヒーローみたいだった。本当誰にも言ってなかったのに、なんで万里はわかったんだろ。そんなとこもスーパーウルトライージーモードなのかな。

「………お前のこといつでも見てればそんくらい気づくっての」
『何に気づくの?』
「ッんでもねぇよ!」

 隣にいるのに聞こえないくらいの声で喋るもんだから、万里が何を言ったのかはわからなかった。

『あ、あと中学生の時に私に嫌がらせして来る部活の先輩のことも万里がなんとかしてくれたこともあったなー。その時は知らなかったけど、あとからその先輩が万里のこと好きだったから仲のいい私に嫌がらせしてたって知って驚いた驚いた~~』

 小さい頃からずっと一緒だからなのか、私には特別万里の顔がかっこいいとは思えないけど、どうやら女の子にはおモテになる顔立ちの万里は昔からよく好意を持たれていた。それで幼馴染の私を邪魔に思う女の子もいるらしい。こっちとしては万里から好かれることに対して私がいようがいまいが特に関係ないと思うけど、恋する女の子の心は難しいみたい。

「え、あれ俺がやったって知ってたのか?」
『? うん普通に知ってるけど』
「だ、誰から聞いた…?」
『同じ部活だった友達』

 そう、私に対する嫌がらせはいつの間にか終わっていた。同じ部活の子に聞いたら、私がいない時に万里が部活に乗り込んで来てその先輩に直接何かを言ったらしい(何を言ったかは誰も知らなかった)。先輩が万里が好きだったってこともその時に一緒に教えてもらった。

「あ~~~~…やっぱ全員に口止めしときゃ良かった……」
『なんで口止めするの。むしろ教えてもらわなきゃ万里のおかげって私知らなかったし』
「…だってなんか恥ずかしいだろ」

 万里は昔からちょっとかっこつけの気がある。私からすればそんなことしなくていいのにって思う。本人の知らないところでこっそり動いてなんとかする、でもそれを本人には自分がしたことを言わないヒーローっていうのが万里の中ではかっこいいらしい。んでそれが本人にバレちゃうのが恥ずかしいことのようで、今も口元を手で覆って隠している。でも耳が真っ赤なのがバレバレだ。

『そんなかっこつけなくても十分万里はかっこいいよ』

 万里は特別顔がかっこいいんじゃなくて、全部がかっこいいんだもんね。そんなことしなくても十分かっこいいよ。万里のワンレンヘアーをわしゃわしゃ撫でてやると、顔を真っ赤にした万里がウガー!と叫んで手を払われた。

「んな撫でんな!子供じゃねぇんだからっ!あと髪が乱れるっ!!」

 万里は相変わらず顔を赤らめながら手櫛で髪を整えた。そのワンレンめちゃくちゃふわふわだね、また隙みて触ろ。

『これからもよろしくお願いしますね、私のヒーローさん』
「………別にヒーローじゃないっての」

 とか言いつつもこれからは忙しい稽古の合間を縫って私の家に毎日来てくれるって知ってるよ。万里はそういうヒーローだもんね。


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