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佐一くんと僕


▽現パロです







 佐一くんと僕は幼馴染だ。生まれた時から一緒で、同い年だけど兄弟同然で育った。梅子ちゃんと寅次くんも幼馴染で、四人でおままごとで遊ぶのはしょっちゅうだった。

 佐一くんは昔から優しかった。かけっこが組で一番で、いつも優しかった佐一くんは幼稚園の人気者だった。反対にかけっこが遅くて、何をするにも遅い僕。鈍臭くていつも佐一くんの後ろにいる僕にも佐一くんは優しくて、僕がどんなに遅くても佐一くんはいつも待っててくれた。それは梅子ちゃんも寅次くんも一緒で、僕は三人が大好きだった。

 中学に上がった頃、佐一くんは他校の生徒に喧嘩を売られるようになった。最初は態度が気にくわないとか、そんなどうでもいいことだったと思う。佐一くんから喧嘩を売ることはなかったが、売られた喧嘩を買っていたうちに周りから避けられ、孤立することも多くなっていった。それは彼が喧嘩が強く、喧嘩中には普段の佐一くんとは真逆の恐ろしい一面を見せていたからだと思う。

『…佐一くん』
「………」

 それでも僕は佐一くんから離れることはなかった。佐一くんが僕に暴力的な一面を見せることはなかったし、彼は変わらず優しかった。

『佐一くん帰ろう』
「………おう」

 誰かを殴った佐一くんのその手を取って一緒に帰ることが多くなっていたある日、親の仕事の都合で僕は引っ越すことになった。引越し先は北海道だと言っていた。関東からはかなり遠い。僕は引越しのギリギリまでそのことを佐一くんに言えずにいた。

「…名前、引っ越すんだって」

 多分僕の両親から聞いたのだろう、佐一くんは俺の引越しのことを知っていた。学校からの帰り道、俺が家に入ろうかという時に佐一くんの方から切り出された。

『…うん、そうだよ』
「……そうなのか」
『本当は引越しなんてしたくないんだ…梅子ちゃんや寅次くん…佐一くんのいるここにいたいよ……』

 思わず俯いてしまった俺の頭を、ぎこちなく伸ばした佐一くんの手が不器用に撫でてくれた。恐る恐るといったその手は僕の頭を掠めるか掠めないかというレベルで数度行き来した。

『そんな恐々触らなくても、僕は佐一くんのこと怖くないし怪我もしないよ』

 佐一くんになぜか腹が立った僕は佐一くんの手を取ると、無理やり自分の頭に押し付けた。普段の僕からは想像もできない力が出たと思う。これが火事場の馬鹿力ってやつなのかな。佐一くんのびっくりしている顔が見える。

『佐一くんはいつもかっこよくて優しくて僕の憧れだから…僕が引っ越してもこれからも友達でいてね』
「……当たり前だろ、こんなことで友達やめっかよ」

 そこでようやく佐一くんが笑ってくれた。嬉しくなって僕も笑った。僕たちはずっと友達、それだけで、知り合いの誰もいない北海道でもきっと大丈夫。








 ・ ・ ・

 それから数年、僕は大学生になった。北海道の大学だ。佐一くんや梅子ちゃん、寅次くんたちと過ごした十数年は今でもいい思い出である。すっかり北海道での生活にも慣れて、もともと人見知りで引っ込み思案だったせいで幼馴染の三人しか友達がいなかった僕にも友達ができ、今日の大学の入学式を迎えていた。

「……名前?」

 名前が呼ばれ振り向くと、真っ先に目に入るほどの大きな傷を顔に持つ男性がこちらを見ていた。

「やっぱ名前だよな!?まさかとは思ってたけど、北海道ってクソでかいしそうそう会えねえと思ってた……って俺がわかんねえか、そりゃそうだよな…だいぶ図体でかくなったし顔に傷もあるし……」
『…もしかして佐一くん?』
「!」

 彼の言う通り僕の記憶の中の佐一くんよりだいぶ大きくなっているし、当時はなかった顔を横断するほどの傷のあるが、彼は確かに幼馴染の杉元佐一くんだった。だって、僕に向けるあの優しい目が変わらない。

「ぉー……おーおー!そうだよっ!わかるかっ?」
『そりゃわかるよ、だって幼馴染でずっと友達だもん。佐一くんこそよく僕ってわかったね』
「だってお前全然変わってねーもんっ」

 そうかな?僕もちゃんと佐一くんと同じ数年分育ってると思うけど。

『もしかして佐一くんもこの大学に?』
「ああ、柔道で推薦もらってな。ちなみにこの傷も柔道の練習中にやっちまったやつ」

 佐一くんは顔の傷をポリポリかきながら言った。佐一くんは昔からスポーツが得意だったけど、まさか柔道で推薦をもらえるほどになっていたなんて。

「北海道の大学って聞いた時は名前と同じとこだって思ったけど…同じ北海道って言ってもまさか初日から名前に会うなんて思ってもなかったぜ」
『梅子ちゃんと寅次くんは元気?』
「ああ、元気だぜ。あ、知ってたか?あの二人付き合ってるんだぜ」
『えっいつから?』
「高校卒業する間際だったかな。大学も一緒のとこ行ってるし」

 「名前と同じ大学だったって梅ちゃんたちに言ったら驚くだろうな」と言う佐一くんは、二人のリアクションを想像したのか楽しそうに笑っている。

『また佐一くんと同じ学校に通えるなんて、嬉しいな…』
「名前……ああ、俺もだぜ」

 佐一くんがあのかっこよくて優しい目を僕に向けてくれた。それだけで過去の楽しくてキラキラしてた思い出が駆け巡り、とても懐かしい気持ちになった。

「あ、もう入学式始まるぜ」

 思い出に浸っていた僕に佐一くんが声をかけ、腕を引いた。

『ほんとだ、早く行かなきゃ』

 相変わらず走るのが早い佐一くんに僕も頑張ってついていく。俺をちらりと見て少しペースを遅くしてくれた佐一くんは優しい。

『そうだ、僕の友達も同じ大学なんだ。今度紹介するね』
「………名前友達できたの?」

 佐一くんの足が止まった。佐一くんの中の僕は、友達が作れなくて佐一くんの後ろに隠れる人見知りのままだったようで、僕に友達がいることを伝えると驚いたような顔をした。

『そんな驚く?』
「あっいやっご、ごめん…勝手に名前の友達は俺だけだと思ってた……」

 俺だけ?少なくとも梅子ちゃんや寅次くんも友達だけど…言い間違いかな。

『高校の時にできた友達なんだけどね、ちょっと雰囲気が佐一くんに似てるんだ。きっと仲良くなれると思うよ』
「………ふーん」

 佐一くんはちょっぴり機嫌が悪くなって、あの時の暴力的な。怖いようなオーラを感じた。

「………でも俺がいちばんの友達だよね?幼馴染だし」
『? うんそうだね、梅ちゃん達ともずっと昔から仲良しだもんね』
「…んー、ならまあいっかぁ」

 佐一くんは何かに納得すると、また僕の腕を引いて走り出した。

 きっとこれからも僕たちはずっと友達。


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