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鯉登と私

▽学パロです






 音くんの家は裕福な家庭で、おうちがとても広かった。隣の我が家の一軒家が小さく見えるくらい大きくて、中も部屋がたくさんあって高そうなものも置いてあった。

『音くんこれなあに?』
「父が買った花瓶だ、綺麗だろう」
『ふぅん…』

 音くんがまるで自分のことを語るかのように自慢げに言った。

『音くんのお父さんはすごいねぇ』
「む……もちろん父はすごいが、きっと俺も将来は父のような…いや父よりも立派な人になってやる」

 音くんは普段からそのように夢を語っていた。

「だからお前は俺の隣で、俺が立派な人になるのを見守っててくれ!」
『? どういうこと?』
「父が言っていたのだ、母とは今の俺と名前ように幼い頃からずっと共に育ったと。だから父のようになるには、きっといつも側に幼馴染がいなければならないのだと思う。名前、父に対する母のようにずっと俺のそばにいろ」
『へー、よくわかんないけどいいよー』

 小さい頃の私は本当にアホというか、何も考えていなかったと思う。いやそれは多分音くん…鯉登も一緒だと思う。あいつはあのセリフをマジで言っていた鯉登もアホだと思う。なんだよずっと側にいろって、告白かよ。

「なあ名前ちゃん」
『なぁに杉元』
「鯉登の奴がよぉ、鶴見先生と話すな!とか言って無駄にキレてくるからなんとかしてくれよー。あいつ柔道部にまで乗り込んでくるんだぜー?剣道部のくせによぉ」

 鯉登のアホは成長してもアホだった。いや頭自体はいいのだが、根本的に何かが抜けているのだ。鯉登は有名な進学校に行くと私はおろか、中学の先生ですらそう思っていたのが、何をトチ狂ったのか奴は地元の普通の公立校に進学したのだ。しかも偶然にも私と同じ進路に。その理由が「憧れの先生がいるから」というものだった時は少し納得したが、その敬愛の異常さにドン引きしたのは記憶に新しい。そしてそんないい意味でも悪い意味でも目立つ鯉登の幼馴染と知られたことが運の尽き、奴が何かをするたびに私にクレームが来るのだ。

『だから、私に言われてもどうにもできないって。私はあいつの親じゃないんだから』
「だって幼馴染だろ?」
『幼馴染だけど今はもうそんなに関わりないし…クラスも違うから話すこともないし』
「でもあいつ、なんかあるとすぐ名前ちゃんに報告しに来るじゃん」
『…なんでか知らないけど、何でもかんでもすぐ私の報告しに来るんだよね…鯉登』
「こんな話してると来そうだよなー」
『ちょっとやめてよ…』

 嫌な予感がした。こういう時に来る男なのだ、鯉登という男は。

「おいッ!名前ッ!!!」

 ほら来た。

「そ、そんなッ…なぜ杉元と顔を近づけて話しているんだッ!!お、おおおお俺というものがありながら…ッ!」

 鯉登は色黒の肌をした頬でもわかるほどに顔を赤く染めている。別に杉元と顔近くないよ、普通にお互いに自分の席について杉元が後ろ振り返ってるだけだよ。というか俺というものがありながらってなんだ、許嫁かよ。

「ッ離れろォ!」

 杉元の肩を掴み、ぐいと私から引き離す鯉登。杉元は抵抗する気がないのか、その手を振り払うことはない。

『んで、鯉登は何しに来たの』
「用がなければ来てはならんのか!?」
『ダメってことないけど…』
「音くんは名前ちゃんに会いたかっただけなんだよなー、ねー音くん?」
『ちょっと杉元…』
「キエェェッ!」

 あ、鯉登の猿叫だ。結構久しぶりに聞いた気がする。どこか叫ぶ要素があったか?音くんって呼ばれてムカついたの?

「…杉元ォ……貴様今日という今日は許さんぞ…名前と同じクラスになるだけでは飽き足らず、前後の席になりさらにち、ちゃん付け…ッ!名前にちゃん付けなど…!ゆ、許さん……ッ!」

 鯉登の沸点がわからない。杉元も何コイツ?みたいな目で見て来るけど、私にもよくわからない。鯉登と十年以上なんやかんや一緒にいるけど、私が鯉登のことを理解することができたことはないと思う。だって明らかに育った環境違うから価値観とか違うし、なんやかんか鯉登はお坊ちゃんだからね。

「名前とは生まれた頃から一緒なのだ、高校で出会ったばかりのお前が今更割って入ろうなどと…ッ 俺と名前は将来を誓い合った仲だぞッ!」

 やっぱり鯉登のことはわからない。杉元もそーなのぉ?みたいな目でこっち見ないで、私には誓い合った記憶ないから。

『…ねぇ鯉登……将来を誓い合ったって…』
「幼い頃に言っただろう、「ずっと俺のそばにいろ」と。名前もそれに同意したではないか」

 あー、やっぱそれかぁ…。鯉登はそれからずっと私のことが好きで、ずっと結婚する気でいたの?なんなのこの子、だからいちいち私の教室に来たり今もこうして杉元に怒ってるの?

『……本当に可愛いね、音くん』
「ッッッ!?い、今…音くんって……」
『懐かしいでしょ、音くん』
「キ、キエッ…!」


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