ch2.密林の白昼夢




ルカとデニスが話し合いを終えた頃、彼らの居るベースキャンプからは遠く離れた渓谷の地で、アルフォンソとアリサは二人組の敵と対峙していた。
敵の一人は明るい茶髪をオールバックにした、いかにも悪人そうな面構えの男だ。その男は、右手に持つ通常サイズより一回りほど大きな短銃の銃口を、まっすぐにアリサに向けて静止していた。一方、その銃を向けられているアリサはといえば、少し不機嫌な表情で茶髪の男を睨みつけてはいるものの、全く怯えた様子は無い。

もう一人の敵は黒髪の、今度は前髪が鼻の頭あたりまで伸びている優男だった。髪の下に見える目元には色濃く隈があり、その疲れたように細められた目でアルフォンソをジトリと威嚇していた。アルフォンソはその視線を怯むことなく受け止めているように表情を崩さないように努めていたが、実際には自分に向けられるその男の薄気味悪い殺気に、僅かに身震いしていた。

「お前ら、何者だ?」

アルフォンソが鋭い声で対峙する二人に問えば、黒髪の男は無表情を貫き、茶髪の人相の悪い方の男は、嘲笑を浮かべて鼻を鳴らした。

「はっ、俺達は帝国の隠密部隊の人間だよ!」

茶髪の男が口にした言葉に一瞬、場にシンとした静けさが流れた。

「……馬鹿か?」

普通、こんな簡単に所属を名乗る人間がいるか? そう考えたアルフォンソの心中を代弁するかのように、アリサが隣でボソリと呟くのが聞こえた。茶髪の男の隣に居た黒髪の男が、疲れたように深く溜め息を吐いてから口を開いた。

「コイツは馬鹿だが、"つく側"を分かってるだけ、貴様らよりはマシだろう。貴様らが帝国に仇なす、あの気味の悪い放浪組織である<RED LUNA>、第一幹部のアルフォンソ=ウリッセ=モンテサントに第三幹部のアリサ=トウドウだということは分かっている。この地は何者も立ち入り禁止になっているはずだが、一体貴様ら、何をしに来た?」
「へえ、素性はバレちまってんだね。帝国に仇なす<RED LUNA>のアタシらが来てる理由なんざ、帝国の人間だっつーなら、アンタらの方がよく分かってんじゃねえの?」
   
アリサが目を細めて不敵な笑みを浮かべると、途端に彼女のビリリとした鋭い殺気が辺りの空気を一気に支配する。ゴクリとアルフォンソの喉が小さく鳴り、アリサと直接に対峙していた二人の体は一斉にビクリと反応した。その様子を見て、アリサが一気に脱力したように溜め息を吐いた。

「帝国の隠密部隊ねえ。アンタらじゃ、アタシらの相手は無理なんじゃねえ?」

アリサが嘲笑を浮かべながらそう言うと、はっとしたように茶髪の男が口を開き、何かを言いたげに口をパクパクさせた後、やがて真っ赤な顔で閉口すると、苛立たしげに舌打ちをしながら、アリサに向けていた銃のトリガーを引こうと指に力を込めた。

「トビアス」

それを見た隣に居た黒髪の男が、たしなめるように相棒を呼んだ。どうやら、茶髪オールバックの短気な男の名前はトビアスというらしかった。その呼びかけに、またしても茶髪の男は苛立たしげに舌打ちした。

「挑発に乗るな、だろ。お前の言いたい事ぐらい分かってる。けど、この裏切り女だけは許せねえな。今すぐ撃ち殺してやる」

トビアスの言葉に、アリサの苛立ちも一気に膨れ上がったのをアルフォンソは気配で感じた。アルフォンソはアリサが昔は帝国にいたという事実を知っているだけに、アリサが苛立つのも無理はないとよく理解していた。無理に彼女をなだめる事は不可能だと悟っているからこそ、アルフォンソは冷静にこの状況をどうしたものかと思案して、一瞬だけ状況から気をそらした。だが、それがいけなかった。

「アタシが裏切り者なんじゃねえよ、アンタら帝国の上層部が、先にアタシを裏切ったんだろうが」

アリサがなけなしの理性をフルに活用して、苛立ちを懸命に抑えながらもトビアスを睨んでいると、トビアスは隣の黒髪の男がおいと制しているのにも構わず、大口を開けてアリサに向かって叫んだ。

「はっ、笑わせんじゃねえよ! 裏切ったもなにも、俺達は使い古した役立たずを捨てただけだろうが!」
「ふざけんな!」

途端に、アリサがカッとなって目にも止まらぬ瞬発力で、トビアスに向かって駆け出した。あっという間だった。それを止める間もなかったアルフォンソはというと、慌てたように後ろから彼女の名前を呼ぶのみだった。





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