Titles


真田とお題

◎矛盾した5題
柳と重なり合う平行線 桑原の一瞬の永遠 幸村と切原のきらめく暗闇 仁王との忘れ去った記憶 最愛の宿敵手塚(大石f/)
 thanks to お題はじめました

◎ありきたりな恋の5題
出会いがしらの木手 千石の人物設定 観月の思い違い(柳&幸村f/) 急転直下な千石(室町f/) 柳生とハッピーエンド
 thanks to お題はじめました

立海でお題

◎過去形で5題
桑原はただそれひとつを信じていた 柳生はずっと続いていく気がしていた 理由はいらないと思っていた すべて知っているつもりでいた コトバにするのを忘れていた
 thanks to お題はじめました







─(何だ、あれは)


 落ち込んでしまった消しゴムを拾おうと覗き込めば、勉強机の下に紐の様な物が落ちているのに気付いた。俺としたことが、普段座っているものだから目に入らなかったのか。

 手に取ってみるとそれは、幾つもの色で結われた洒落た紐─例えば若者がする、腕に付けて願掛けをする様な─だった。だが勿論、俺のではない。


「…………む、」


 誰の物かを考えた時、ふとこれと似た物を思い出した。用途は先程のそれでなく、髪紐だ。




***




 仁王雅治は附属中学を卒業後、俺達とは別れ工業高校に進学していた。親御さんのたっての望みだそうで、テニスは中学で納め以後は勉学に励むという事だった。


─(二年ぶり、になるか)


 ところが、俺の耳が悪いのか知らないが、良い噂はほとんど聞かない。勉強どころか最近は夜遊びも甚だしいらしく、家にも帰らんというのは本当だろうか。

 昔から外見こそ派手だったものの、中学の時とはまるで別人の様だと丸井が言っていた。然りとてかつての仲間と思い、俺は奴に会う事など何も躊躇しなかったのだが。


「久しぶりだな、仁王よ」

「珍しいのぅ──何の用じゃ」
「マー君、誰これ? 睨んでくるし」
「ん、お友達。先行っとれ」


 校門で仁王を待っていた俺の前に現れたのが─正に荒廃の一途と云わんばかりだ─噂通りの奴だったため、やはり某かの覚悟をしておくべきであった、と俺は後悔する事になった。

 隣のけばけばしい女に対しても、なんとも言えない不快感が押し寄せる。そう、端的に表現するならば、胸がムカムカしたのだ。


「何? 用無いなら行くけど」
「用事なら、今出来た」


 いきなり此奴を捕まえて引っ叩きたい衝動を抑え、俺は仁王に向かって努めて冷静に話しかけた。つもりだ。




***




「痛ッ! この、離せ乱暴者!!」
「じっとしてろ馬鹿モンが!」


 ピアス、指輪、髪から生えた偽物の毛。近くの公園まで仁王を歩かせた俺は、奴を公衆便所へ放り込みそれらをほとんど剥ぎ取った。はだけた胸元もきちんと直したいが、ネクタイも持っていない様子。

 親の顔が見たいとはこの事だ。


「はッ、親の回しモンかお前」

「誰がそんな暇な事をするものか」
「じゃ何──あ、スケベ!」
「やかましい!」


 こんな姿になっても、荒んでいるのかふざけているのか判別がつかない。

 俺は此奴が苦手だ、無論それは中学の時からだが。雲を掴むという諺を本来の意味以外で特別に充ててやりたい程に、俺は仁王の一挙一動がほとんど理解出来なかった。


 だが、テニスに関しては時に真面目な姿勢が感じられたし、こんなに軽薄で軟弱な印象も無かったと記憶している。服装の乱れは風紀の乱れ、とは良く言ったものだ。


「全く、首までジャラジャラ──」
「っ! 触んな!!」


 そんな事を考えていた時だ。首元にぶら下がっていた様々な物に触れようとしたら、仁王が突然もの凄い剣幕で俺の手を弾いた。

 ほら見ろ、先程の調子は何処へ行った。いきなり何なのだ。重ねて、お袋じゃあるまいに──と吐き捨てられたが、まぁ確かにお節介が過ぎた気もする。


「ホ、ンマ、何しにきたんじゃ」
「……そうだったな」


 誰かからのプレゼントなのだろうか、払われた首元には、奴の指には大きそうな太い指輪がネックレスになっているのが見えた。そんなに大事な物ならば見せびらかすんじゃない。

 と思っていたら慌ててその首元をさっと隠し─何がしたいんだ、本当に─半分割れた汚い鏡を使って、仁王は髪を直し始めた。ひどく痛んでいる、のは前からか。


「宝物は家に仕舞っておけ」
「うっさい」
「そうだ。これで留めるか、髪」

「はぁ? 何──」




***




 俺の掌に乗ったコレを見た時、奴はあからさまに驚いていた。それ故てっきり、当て通りこれが仁王の物だ、と思ったのだが。


『──いや、俺んじゃないぜよ』


 奴は違うと言った。




 


1 /3 忘れ去った記憶


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