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目の前にそびえる入場ゲート。
もし私が桃宮いちごに成り代わっているとしたら、たしかあのゲートをくぐったら物語が動き出すはずだ。
白金と赤坂さんの目に留まり────そしてμプロジェクトが始まる。
正直ストーリーは細かいところまで憶えてないから先の不安はないわけじゃないけど…やるっきゃない。
正直、転生だけでもぶっとんでるのにお話の世界でしたなんて信じられないし、完全に受け入れられたかと言われたら、否だ。
しかし、ミュウミュウにならないという逃げ道はない。
というか逃げたら地球が終わる。
「桃宮さん、あのゲートがどうかしたの?」
これからのことを思案してるうちに険しい顔をしていたのか、青山くんが不思議そうなでこちらを覗き込んでいた。
「え?いや…、あれ何かなって思って」
そう誤魔化しながら、さっきまで眺めていた猫の像を指さす。
「この展覧会のシンボルかな、面白いね」
シンボルなんて可愛らしい物じゃないけどね。
猫を穴があくほど見つめながら私は思わずため息をついた。
そんな会話をしてるうちに私達が入場する番が回ってきて、ゲートに一歩一歩近付いていく。
それに比例して鼓動がだんだん速まってくるのがわかった。
爪先がゲート下を過ぎて、
そして─全身がくぐり抜けた。
「…はぁ」
すごく緊張した割りには呆気なかったが、安堵の息を漏らす。
心拍数とかもデータとられていたりしたら異常値を叩き出してそうだ。
「大丈夫?桃宮さん。体調悪そうだけど…」
「ぜんっぜん!ちょっとの空調が効き過ぎてるだけ」
「そう?それにしても意外だったな──
桃宮さんがこのレッドデータアニマルズ展に誘ってくれるなんて」
青山の言葉に名前は歩みを止め、丁度目の前にあるイリオモテヤマネコのパネルを見つめた。
「…まあね」
つまりは図らずとも原作に沿っていたのだろうか。
という事はこの先私達が乗り越えなくてはならない────辛い試練も避けられないのだろうか。
「…これからは、私達が地球を守らなきゃいけないしね」
こうなってしまった以上、地球の事も大事な友人───青山くんの事も、絶対に守ってみせる。
そう決意を新たにして彼に精一杯の笑顔を向けた。
「そうだね、……桃宮さんとこれてよかった」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた青山くんは、照れくさいのか少し頬を赤らめていて、かわいいかよって、つかの間の平和を噛み締めた。
(彼はやっぱり王子様)
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