23.5
「お疲れ様でした、稜」
(げっ、赤坂さんだ…!)
みんなが帰ったあと、白金に用があって残って話をしようとした。……が、私が苦手としている赤坂さんが来たためつい隠れてしまった。
どうしてもあの全身が痒くなるようなキザな発言が受け付けない。
赤坂さんが白金にコーヒーを差し出し、小声で話し始める。
盗み聞きはいけないと思いつつも、隠れているため逃げ場はないし、纏う雰囲気は普段私達に見せるそれとは違う2人の会話が気になって、ちゃっかり聞き耳を立てた。
「─────あなた、さっきわざと五つ目の遺伝子の注意点を彼女達に言いませんでしたね」
「あいつらは…特に桃宮名前は仲間を探していく過程でどんどん能力を進化させているような気がする。もしかしたら経験を積む度に能力をレベルアップすることが出来るのかもしれない。
────────これはそれを確かめるいい機会だ」
「稜…あなたはやはり、少しイジワルな人です─────」
(……へぇ、そうなんだ)
私は2人とも意地悪な人だと思うが、まあそれは置いておこう。
つまり白金は、RPGの序盤でよくやるレベル上げ作業をしているんだろう。
私もレベルと装備はできるだけ高くしてから挑む派だ。ちょっとカチンと来るがまあ今後の戦いのためなら仕方ない。
暫くして赤坂さんが退室したのを見計らい、物陰から出た。
「…ねえ、ざくろさんの注意点って、気になるのだけど」
白金はここに居るはずのない突然の声に一瞬動きを止め、何も無かったかのようにゆっくり振り返った。
「まだ帰ってなかったのか、名前」
「なんでわざわざ私に仲間を探させるのか、気になってたから残ってたんだけど────なるほどね」
「…いきなりどうした」
「私にイリオモテヤマネコのDNAを打ち込んだは展覧会のゲートを潜った時に適合が出たから。なら、他の子達も各DNAと適合するか何らかの形で確認済みのはず────つまり、白金と赤坂さんは知り合う前から私達5人の事を調査済みなんでしょ?」
いったん言葉を止めて表情を伺うが、相変わらず何考えてるのかわからない表情のままだ。ほーんと、食えないんだから。
「───それなら全員、私の時みたいに直接2人が接触すればいいのにわっざわざ私が一から探し出すなんて、随分と手間のかかる方法を選んでいるからきっと何かあると思ったの」
「……さあな」
「まあ、結果的に私達にプラスになるならちゃーんと頑張らせて貰いますよ」
「…時々お前が年相応に見えなくなるな」
一瞬ギクリとしたが平静を装う。
「子供なりに色々考えてるの」
「子供なりに、か」
「けど───」
「なんだ?」
「私をリーダーにしたこと、きっと後悔するわ。私はみんなを突き動かせるようなタイプじゃないから…」
私は自嘲的にならないよう、口角をあげなげつつも彼から目をそらした。
(私は、本物のリーダーとは似ても似つかない…)
最近思うのだ、これでいいのだろうかと。
私は5人目の仲間を不本意ながら一足先に見つけていたのに、それを告げもせず、アニメでは仲間になるのは今じゃないからって傍観したまま…。
結局私は恐れているのだ。ただでさえ曖昧なこのミュウミュウの世界が完全に私の知らない世界になってしまう事が。
沈黙に耐えかねて顔を上げると、白金は───殊勝な笑みを浮かべていた。
「名前…お前はお前が思っている以上にリーダーにぴったりだぜ。分かりにくいがな」
「え…」
「知らないと思ってたか?深夜に1人で見廻りしてるだろ」
「なんでそれ…」
「誰かが変身するとこっちでエネルギーを感知するんだよ……お前はあいつらの中で誰よりも正義感や責任感が強い。
どうせお前のことだから見廻りも他のメンバーの負担を減らそうと思ってやっているんだろう?」
「…」
「だがな、1人で全部抱え込むな。俺達は仲間なんだ。
みんなに、─────俺に頼ればいい」
私が夜に見廻りをしているのは彼女達になるべく戦って欲しくないから。
けどそれは、友人としてでもあり、ミュウミュウとしてまだ命を懸ける覚悟のないまま無闇に戦って欲しくないからでもある。
きっと白金はそれを知らない。けど、私が何かしら秘密を抱えていることは知っている筈だ。
それでもぶっきらぼうだけど優しい言葉をかけてくれる。
私も、いつか、いつか全てを打ち明けられるだろうか────。
「─────なんて、ちとクサかったか?」
「……そうだね。鳥肌が立ちそうなくらいにはクサいかも」
(分かりにくいのはどっちよ、ばか)
表情を見せないよう、踵を返し部屋の扉まで戻ったところで足を止め、前を向いたまま口を開いた。
「白金…」
「なんだ」
「………ありがと」
今日はいい夢を見られそうだ。
(不器用な)
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