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「都会のミステリー真夜中にモンスターを退治する謎の美少女出没??」

カフェミュウミュウに焦った様子で駆け込んで来たれたすは、そんなオカルトじみた見出しの雑誌を突き出してきた。
いや、ざくろさんじゃんそれ。


「きっと私達の誰かの写真を撮った人がいたんですぅ!あぁ、もし正体がバレたらまたいじめられますぅ!!」


いや、いくらなんでもこれは違うって分かるでしょ


「シルエット的に私達4人の誰かじゃないと思うけど…」

「そうなのだ!名前のお姉ちゃんはちょっと寸胴だし、れたすのお姉ちゃんは写真よりグラマーなのだ!みんとのお姉ちゃんは背が足りないのだー」

「(ず、寸胴…)これは5人目の仲間よ。もしかしてみんとならこれが誰か分かるんじゃない?ねっみんと!」

丁度出勤してきたみんとに振り向きざまに記事の写真を見せる。

「ここ、こ、この方は…!」

驚愕のあまり後ずさりしたみんとは、背後の椅子にぶつかり、手から離れた鞄から藤原ざくろの写真集が出てきた。もちろんプレミアム版。

「あぁ!」
「ア、アイドルの…写真集?」
「そっそれがどうかして?」
「どうしてみんとさんが?」
「ちょ、ちょっと気まぐれで買ってみただけですわ」
「ほらほら見てこの藤原ざくろの写真!この記事の人とスタイルそっくり」

珍しく慌てるみんとにフォローしてあげようと、私がそう言うと光悦とした表情でみんとは語り出した。


「あぁ、なんてことなの…!このまるで大理石のミューズのようなシルエット…これぞまさしくざくろお姉さま!そう、ざくろお姉さまこそ最後の仲間だったのですわぁ!」

「わー、スイッチ入っちゃった」

「ブラックオパールのような髪の毛、神秘に輝くブルーサファイアの瞳、ホワイトプラチナのようなおみ足…お姉さまこそ私達の探していた最高の仲間!地球を救う真の戦士!そうよ…どうして今まで気付かなかったのかしら」


人が変わったかのようにマシンガントークを始めたみんとをみな遠巻きに見ていると、スタッフルームから白金と赤坂さんが出てきた。


「ははっみんともアイドルに憧れたりするってわけだ」
「それは違いますわ!ざくろお姉さまは特別なんですの!」
「みんとさんの憧れの人がミュウミュウ5人目の仲間かもしれないなんて、神様の仕掛けた素敵な偶然かもしれませんねぇ」
「(よく言うよ…)」


いつもの赤坂さんのクサイ台詞に顔を引き攣らせた。赤坂さんの頭の中はどうなっているんだ…?

そんな赤坂さんから目を逸らし不意に白金と目が合うと、ニッコリとした笑顔を向けられた。うわ、なんか嫌な予感がする…。


「丁度いい、皆で確かめて来い」
「え、どうやって」
「オーディションさ」


…………私、白金は結構ぶっとんでると思う。









「オーディションに参加してざくろさんが仲間か確かめるなんて、白金さんも凄いこと考えますね」

「もし決まったら、ざくろお姉さまの妹役ですわよ」

「待って、こういうオーディションって1次は書類審査とかじゃないの?明らかに最終審査の内容だよねこれ。なんで2人とも疑問を抱いてないの?」

オーディション当日、会場に着いた私達はレオタードに着替えてスタンバイした。その会場は広く、さも一流アーティストが使用するようなステージだ。しかも審査はミュージカルの演出家と藤原ざくろ御本人ときた。
彼女を探るには手っ取り早いけどもいきなり最終審査ってむちゃぶりにも程があるでしょ…。みんとは本気で受ける気になってるし。

「オーディション参加者の皆さん!それでは、審査員の先生方の入場です」

司会者の進行と共に、マスコミの焚くフラッシュの中、ミュージカル関係者と思われる審査員が入場してきた。

「そして本日のスペシャルゲスト、このミュージカルの主演でもある藤原ざくろさん!」

先程とは比にならない数のフラッシュが焚かれる中、彼女は表情を変えず静かに審査員席に座った。

「さすが、クールビューティ…」

先日の邂逅を思い出し、どう彼女を引き込むか考える。こんなときの原作の記憶だけれど、生憎今回の事もあまりハッキリと覚えていない。
強くてニューゲームもままならないポンコツだ。



それではオーディションを始めます、という司会者の声で舞台裏へ散った私とれたすは、みんとのオーディションを見守っていた。
が、突如乱入してきた歩鈴によってオーディションは滅茶苦茶となり、怒り狂った演出家を藤原ざくろが自身が模範演技を見せることで鎮める始末だった。


「これが、ザクロお姉さま…」
「凄い…」


皆その美しさに見とれ、感嘆の吐息を洩らしていた。



「ザクロお姉さま!」
「…え、ちょ、みんと!?」



演技が終わった途端、止める間もなくざくろさんに駆け寄ったみんとはざくろさんが眉をひそめている事に気付いていないのか、興奮冷めやらぬ様子で矢継ぎ早に語りかけた。


「私達、仲間を探しに来たんですの!お姉さまのどこかに小さな痣はありませんか?それが…それが私達の仲間の印ですわ!」


その言葉にハッとした様子の藤原ざくろはみんとから顔を背けた。


「…何を言っているの。私はお仕事をスムーズに進めたいだけなの。別に、あなた達の為に取り成した訳じゃないわ」

「え…」

「勘違いしないで」














「それで、オーディションを受けずに帰ってきてしまったのですか」

呆然としていたみんとを引き摺るようにカフェミュウミュウに戻った私達は、早速白金達に今日の事を報告した。
みんとは心ここに在らず、といった様子で窓の外を眺めている。

「みんとさん、かなりショックを受けてらしたから…」
「ま、さすがに今をときめく藤原ざくろはなかったという事か」
「いや、可能性は大きい」

私のその一言に皆の視線が集まる。
というか、白金と赤坂さんは知ってるくせに白々しい。

「みんとが痣の事を告げたとき、彼女は明らかに動揺したわ。きっと、心当たりあるんじゃない?」

そう言ってチラリと白金を盗み見ると、白金と赤坂さんが頷き合っているのが伺えた。




──────どうやら、一悶着起きそうだ





(おおかみと再会)


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