24
帰宅後の深夜、パトロールを終え寝支度をしていると、マシャからサイレンが発せられた。
《ナマエ ナマエ》
「どうしたの、マシャ」
《ゼンインシュウゴウメイレイ ゴニンメノナカマガ キケン キケン》
脳裏によぎるのはあの2人のやり取りだ。何かがあるのだろう。
あの状態のみんとに会わせるのは気が引けるが、背に腹は変えられない。
「ミュウミュウストロベリー、メタモルフォーゼ!」
急いで家を飛び出し、カフェミュウミュウで他の3人と合流して白金が告げた5人目の仲間が居るという教会へ向かう。
深夜ということもあり、街中は暗く、大きな満月だけが教会を照らしていた。
「ここね…」
「なんか不気味な所ですね…」
「この中に5人目の仲間が居るのかしら」
「とにかく行くのだ!」
教会の中に駆け込むと、祭壇に祈りを捧げる女性の後ろ姿が見えた。顔は暗くて見えないが、間違いなくざくろさんだ。
「あ、あれは…」
みんとが目を細め顔を確認しようとするも、突如マシャからサイレンが鳴った。
《キメラアニマ! キメラアニマ!》
「みんな構えて!」
警告と同時にステンドグラスを突き破って侵入してきた無数のカラスが、入り乱れ襲いかかってくる。
そして十字架の上に人影が降り立った。
「なんだキミ達、どうやってココを知ったの?」
「くっ───キッシュ!」
その腕には人間の子供のように大きいカラスのキメラアニマが止まっていた。なにあれ、薄気味わっる…!
「ま、いいや。舞踏会の始まりだ。思いっきり踊っていいよ──────カラス達と一緒にね!!」
キメラアニマが羽を広げるのを皮切りに、カラス達が集中攻撃を始めた。
矢継ぎ早に襲ってくる全身への衝撃に、バランスを崩しその場に尻餅をつく。すると、後ろから誰かの拳に両肩を包まれた。
「フフフフ…楽しすぎてステップも踏めないのかい、名前?」
「っ…離して!」
「アハハハッアハハハハハ!!ようこそみなさん!新しい仲間のお葬式へ!!」
カラス達の攻撃が止み、顔を上げると、カラス達はそれまで傍観していたざくろさんの上空を旋回していた。
「でもお葬式を始めるためには──────まず…死んでもらわなくちゃね」
ざくろさんは、反応しない。
(大丈夫、大丈夫よ…。ざくろさんは強い─────)
手が出せない私は、自分に言い聞かせる様に心臓をドクドクと響かせながら2人を見やる。
「あれ、どうしたの?固まっちゃって。今まで散々暴れてくれたくせに、罠にかかったら言葉も出ないの?……殺れ!」
それまで微動だにしなかったざくろさんはその顔を隠していた帽子を放り投げ、私達と同じ────ミュウミュウである証のペンダントを取り出した。
「────ミュウミュウザクロ メタモルフォーゼ!!」
「……へ?」
その時、発せられた紫の閃光が、一瞬で巨大なキメラアニマ以外全てのカラスを元に戻した。五月蝿い鳴き声や羽音が消え、静寂が訪れる。
その強さに驚く者もいれば感動する者もいた。
私も、圧倒され息を飲んでいた。
「やはり、ざくろお姉さま!」
「くっ…貴様、一瞬にしてキメラカラスを元に戻しただと!?
行け!!キメラカラスグレート!」
ミュウザクロは1人で襲って来るキッシュとキメラカラスグレートをいなしていく。瞬きを忘れそうな光景だ。
ざくろさんは肉体戦向きな遺伝子を持ってるとはいえ、私はミュウミュウだと自覚してからそれなりに鍛えているのにまだまだ敵いそうもない。
羨望とも焦燥とも言いがたい感情が渦巻き、爪が食い込むほど拳を握った。
彼女は強い。
今の私達じゃ敵わないだろう。
それは物理的攻撃力もだが─────覚悟の差、だろうか。
戦いに身を置く中で1番重要なもの。何を背負い、何の為に戦い、その最中に起きてしまう可能性。
それを受け止めているか否か。それがあの3人には欠けている。
私が彼女達をまだ戦友として信じられない一因であるとも言える。
「凄い身のこなし…」
「うん、まるで…」
まるで私には──────仲間などいなくても戦えると告げているようにしか見えなかった。
もしかしたら私もこの世界の記憶を思い出していなければ彼女のような道を進むこともあったのかもしれない、と小さく失笑を漏らした。
「リボーンザクロスピア!」
淡い月光に包まれ十字架の御前でキメラアニマを浄化する姿はいっそ神々しくも思えた。
その傍ら、なんとか着地したキッシュは、フラつきながら腕を押えている。だいぶダメージを食らったようでその姿はなんとも痛々しい。
「く、ぅっ…!!」
憎々しげにミュウザクロを睨むと、いつものように忽然と消えていった。
すっかり静まり、散らばったガラスや木材だけが先程の惨状を物語る聖堂で、ざくろさんと私達は対峙する。
「お姉さま…やっぱりわたくし達の仲間
…」
みんとが無謀にもざくろさんに歩み寄る。止めようと一瞬伸ばしかけた手を引っ込めた。
今のみんとは他人が口を出しても理解できる状態じゃない。かわいそうだけど、現実を知るべきだ。
「…くだらない」
「え?」
「誰ともつるむ気ないの、悪いけど。……必要ないわ、仲間なんて」
3人が驚愕と悲しみの表情を浮かべるなか、名前はピクリとも表情を変えず、ただ真っ直ぐざくろを見ていた。
「そんな…やっと見つけた最後の仲間ですのに!お姉さまぁ!」
みんとは背後から縋るように抱きつくも、ざくろさんに強く拒絶される。
恋は盲目というが、どうやら憧れの感情にも適用されるらしい。
傷付きたくないならやめとけばいいのに、と思いながら止めない私はどこかスクリーンを隔てている感覚なのだろうか。
仲間と戦友は違う。彼女達は私の友人であり仲間カテゴリーには入るが、まだ命を預けて戦うことはできないと────そう感じてしまうのだ。
昨日の白金とのやりとりを思い出し、少し悲しくなった。
「ッやめて!うざいのよ、あなたみたいな子」
「そ、そんな…」
「…」
みんとを振り払ったざくろさんはチラリと私に視線をやり、そして静かに去っていった。
(拒絶)
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