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パーティー当日、私達はみんとの家並みの豪邸に足を運んでいた。

会場は煌びやかなシャンデリアや、明らかに高級品だとわかる絨毯やテーブルで埋め尽くされている。

正直、今も昔も庶民で一般家庭育ちの私には居づらいにも程がある……。

少なくとも中学生が来るようなところではないだろう。場違い感がとてつもない。
れたすも恐縮して固まってるようだ。

そんな私達を嘲笑うかのように、みんとはつかつかと貴族の輪の中に入っていき、ごきげんようですわ、と優雅な挨拶をしていた。


「さすがお嬢様だわ…」
「はい…みんとさんのああいうところ、尊敬しちゃいます」

「よぉ、来たな」
「あ、しろが…!」


挨拶回りにでも行っていたのか、遅れて現れた白金は真っ白なタキシードを着ており、まるで本物の王子様みたいで一瞬見惚れてしまった。イケメンは何着てもイケメンだからちょっと悔しい。

れたすもまぁ…!なんて言いながら頬を染めている。


「折角のパーティーなんだ、ちゃんと楽しんでいけよな」

そう言う白金はこちらと目を合わせようとしない。
…ほんと、シビアな話はズカズカ言うくせにこういう時は素直じゃないんだから。

その時マクガイアさんやオーケストラによる演奏が始まり、食事や談笑を楽しんでた人達が一斉に踊り出す。

「うわ、すっごい……本物の舞踏会みたい」
「ホントだってば」
「皆さんもいかがです?」
「え、無理無理!一般庶民はダンスなんて嗜まないし」
「俺が教えてやるよ」

口を挟む間もなく私の手を引く白金に半ば引きずられるように中央にくると、白金は静かに向き直り、手を腰に回してきた。赤坂さんが余計な事言わなければ傍観できたのに…!!

「体、もっと寄せて」
「ちょ、ちょっと近いって…」
「近くなきゃ踊れないだろ」
「それはそうだけど…」

ぐっと腰を引き寄せられ、距離がゼロになる。あまりの近さに心拍数が上がってくる。ええい意識するな!頑張れ自分!!出るな耳!!

「おい名前、力を抜け」

うああああ無理無理無理!!こんな近いのに意識しない方がおかしい…!!
私の努力は虚しくも意味をなくし、言葉や呼吸のひとつひとつがダイレクトに鼓膜に響いてきて、一種の麻薬を服用しているような感覚に陥る。自分がちゃんと踊れているのかすらわからない。
頭がぼうっとしてきてなんだか…────


「…おい」
「え?」


ポンッという音がして、恐る恐る頭と背に手を回した。



…でてました。アレが。

どどどどうしよう!?真ん中だよここ!?

「落ち着け。耳隠しとけよ」
「え……っ!?」

浮遊感に襲われフワッと甘い香りに包まれたと思うと、白金が左手は背中に、右手は尻尾を一緒に抑えるよう膝裏に回し、抱き上げていた。
うわわわわお姫様抱っこじゃん!余計悪化するっての!!


好奇や羨望の視線を浴びながら
白金をチラリと見上げると、いつもの意地悪な顔で笑っていた。
だめ。もうだめ。なんかすごい近いし優しいしなんなの白金…。

精神力が限界まで追い詰められていた私は人混みを抜けるとすぐ、もう1人で大丈夫だから!と、白金の顔を見ずに逃げるようにベランダに駆け込んだ。










「ふぅ…」

外の冷たい空気を大きく吸い込む。ほてった身体を冷ましてくれるようで気持ちいい。
心拍数が落ち着くのと同時に猫耳と尻尾が引っ込んだことを確認して、やっと安心できた。


「おい」
「うぇ!?あっ、し、白金…」
「…ジュース飲むか?」
「あ……ありがとう」


つかの間の休息に完全に油断していたところに本人が現れ、声が裏返ってしまった。今日はどれだけ恥ずかしい目にあうんだ…。
ジュースを受け取って一口飲む。そのとき視界に入ったドレスに、昨日の会話を思い出した。


「そういえばさ…」
「ん?」
「どうして、このドレスを選んだの?」
「……似合うと思ったから。嫌なら着替えていいんだぜ」


ツンとした態度で間髪なく言われた言葉に嘘ではないと知る。どうしても「いちご色」に引っ掛かりを覚えるのは自分だけなの…?

「じゃああの時に………へっ?」
「動くな」

その疑問を口にだそうとすると、急に白金が手を伸ばし、近づいてきた。
何をされるのかと身構えた私にその手は触れ、数回壊れ物を触るかのように優しく撫でた。その手つきは優しく柔らかで、普段の彼の素行とのギャップに心臓を掴まれたような感覚に陥る。ちょ、やっと落ち着いたのに!

ドキドキとなる胸を押さえたまま離れていく手を見つめると、白金と目が合い、そのまま見つめ合う。

そしてそのまま近づき、雰囲気に飲まれ目をギュッと強く瞑った。
鼻先の距離がゼロになる──────その手前で離れていった気配がした。

ハッとして目を開けると、バツの悪そうに目線を逸らした白金が頬を掻いていた。


「前髪、ちょっと乱れてた」
「……へ?」
「…じゃあオレ、いろいろ挨拶とかあるから。
落ち着いたら戻ってこいよ」
「あ…」


返事もろくにできず立ち尽くしたまま、眩しい屋内に消えていく白金の後ろ姿を見送った。


ドキドキとうるさい心臓は暫く鎮まらなく、猫耳が出ていることに気づかないまま彼がいた場所を見つめることしかできなかった。




(ふりまわされる)

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