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昨日のキス事故(もはや事件)から一夜明け、今日はずっと上の空だった。

先生に問題を当てられても気付かない、階段を踏み外す、その他諸々ミスばかりで散々な一日だ。もう何度溜息をついたことか…。

私だって至って普通…とは言えないが乙女なのだ。初めてくらい──好きな人が良かった。
肝心の好きな人なんて思い浮かばないけども。


もう忘れよう、と心掛けていても、誰かの口元を見る度思い出してしまう。思春期かっての。


過剰に反応してしまう自分に呆れ半分照れ半分で気落ちしていたらあっという間に放課後になり、校舎は閑散としていた。



「桃宮さん」

「あ、青山くん」


教室で一人項垂れていると、青山くんがドアから顔をひょこっと出した。なるべく唇を見ないように目をそらす。あああもう意識しすぎ…!!


「なんだか、今日は元気がないみたいだけど具合でも悪いの?」

「ぜんぜん、何もないよ」

「そう?じゃあ良かった」


これ…、と言って青山くんはチケットを差し出してきた。受け取って見てみると、動物公園のイベントのチケットらしい。


「明日、西山動物公園で動物達とふれあいタイムがあるんだけど、一緒に行かない?」


初めての青山くんからのお誘い、そしてもふもふ達とのふれあい、これは是非気分転換に行きたい。

つい二つ返事で答えようとしたが、今はウエイトレスのバイトがある。もちろん赤坂さんにでも言えば休む事ぐらいできるだろうが、私抜きで果たして仕事になるのか…いや、無理だろう。
みんとは常時ティータイム、頼みの綱のれたすはかなりのドジっ子だ。
それに今の状態じゃ変に意識をしてしまって失礼な態度をとってしまうかもしれない。


「ごめん、青山くん。私予定があって…」


申し訳なさから、そろりと青山くんを覗き見ると、とても残念そうに眉を寄せていた。


「そう…いいんだ、来れたら来て」


もし青山くんに獣耳が生えていたらしゅん…と垂れ下がっていただろう。ああもうほんとにごめんなさい。




あの後色々な気まずさから逃げるように教室を後にし、今はカフェミュウミュウで掃除をしていた。

掃除用具を片付けようと、スタッフルームのドアを開けると、白金がなにやら英語の雑誌を読んでいた。
さすが帰国子女…私なんて題名すら読めない。

そうだ、一応明日休めるか白金に聞いてみよう。


「白金、明日の午後なんだけ、ど…………」
「キャー!」
「もう、またですのれたす!騒々しくてよ」


白金を呼び止め話を切り出そうとしたところで、後ろでれたすが皿を割り、みんとがお茶を飲みながられたすを咎める声が聞こえた。


「どうした、名前」
「………なんでもない」


こりゃ私が居なくちゃ無理だ…。
早々に諦めた私は白金の怪訝そうな表情に気にしないで、と告げて仕事に戻った。









次の日──青山くんとの約束の日、今日も今日とて私はカフェミュウミュウに出勤していた。

もやもやとした気持ちを抱えながら接客を終え、休憩のティータイムに青山くんに貰ったチケットを眺める。
あと1時間でふれあいタイムの開始時間──昨日の口ぶりからして、青山くんは待ってくれているのかな…。



「名前さん、最近何かあったんですか?」

「…………そんなにわかりやすい?」


口数が少ないことを不思議に思ったのか、れたすとみんとが顔色を伺ってきた。
ポーカーフェイスを保ってるつもりだったんだけど……今朝、母親にも彼氏と何かあった?と聞かれたばかりだ。勿論彼氏なんていないと否定したが。
チケットを机の上に置き、動揺を隠すためコーヒーを一口飲む。


「ええ、それはもう。一昨日から何度も躓いたり溜息ついたり…誰だってわかりましてよ」

「一昨日って…エイリアンと接触した日ね」

「そんな…!エイリアンだなんて、新手ですか?」


あれ、言ってなかったっけ、と口にしてから反省する。ホウレンソウは基本なのにそこまで頭が回らないなんて重症すぎ…。


「計画を邪魔するなとかなんとか言ってたけど…」

「間違いなくそいつらがキメラアニマを放っている張本人だろう……ほらR-2000の調整、終わったぞ」


白金が奥から現れ、ぽん─とテーブルにマシャが置かれる。マシャは羽をパタパタとさせていて、見ているだけで癒されそうだ。
ほんと可愛いなこいつ。


「で、何かされたんですの?」

「え!?……な、なんで」

「名前は敵と遭遇したくらいで落ち込むほど繊細ではありませんわ」

「あー、その…」


さりげなくひどいことを言われたようだが事実なのでスルーする。

チラッとマシャを置いたまま立ち去らない白金の方を見ると、何を考えてるのかわからない顔でこちらをじっと見ている。なんだか白金の前で言うのは抵抗あるぞ…!



「……おい、ぼうっとしている暇があったらエイリアンの調査に行ってこい」
《ナマエ イコ ナマエ イコ》


白金は黙り込んでる私から目を逸らしテーブルの上に視線をやると、沈黙を破り更には助け舟をだしてくれた。
この空気に耐えられないし、ありがたく行かせて貰おう。ありがとう白金…!

「じゃ、いってきまーす!」
「あっ、お待ちなさい………!!」

みんととれたすに捕まらないよう、テーブルの上にあるチケットとマシャをひったくるかのように掴んで更衣室に駆け込み街へ繰り出した。







(もやもや)

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