18
「桃宮さん、やっぱり来てくれたんだ」
「う、うん……?」
あ…あれ、おかしいぞ…?
白金に急かされカフェミュウミュウを出た後、エイリアンの調査と言っても何をするのかわからず適当に街を散策していると、急にマシャがコッチチガウとかコッチコッチとか言い出し、結局着いたのは西山動物公園だった。
白金はマシャの何を調整したんだ……?もしかして原作補正機能??
「私、昨日断ったのに…」
「一応、待ってたんだ──行こう」
「…………うん」
ホントに青山くんは中身もイケメンだ。キラキラオーラを振り撒きながらの言葉に少し考えて甘える事にした。
普段は皆よりバリバリ働いてるし、今日くらいはウェイトレスの仕事くらい忘れても罰は下らないよね。
「動物達とのふれあいタイムってあっちでやってるみたいだね。今日は特別にライオンの子供に触れるらしいんだ」
「あ、もふもふしたい!」
「ふれあいタイムまで時間があるから…他のアトラクションを見てみようか?」
もふもふ以外は特に見たいものは思いつかなかったので、マップのアトラクションの番号でど、れ、に、し、よ、う、か、な…と指をさし決めると、ホラーハウスに決まった。
丁度今立っているところが入口の目の前だ。
「(げ……)」
「よし、行こうか」
ずんずんと進んでいく青山くんに付いていくも、だんだんと不安になってきた。ホラーは平気だが正直お化け屋敷の類は苦手だったりする。だってこういう所は大抵───
「桃宮さん、見て」
青山くんに促された方には美しい人魚のオブジェがあった。顔を近づけてそれを見つめてると、急に顔が妖怪のようになり、水をこちら目掛けて噴き出してきた。
「ひっ!」
「っはは」
そう、前に言ったとおり、ホラー系は大丈夫だ。しかしびっくり系はてんで駄目なのだ。
そんな私を見て青山くんは笑っていて、穴があったら入りたいってこういう事なのか…としみじみと実感する。
しかも過度に驚くと猫耳が現れてしまうため、細心の注意を払わなくてはならない。何の試練だこれは。
その後暫くはホラー続きで平気だったが、真横からの突然のびっくり装置に油断していた私は飛び退き、青山くんにぶつかってしまった。
「わ、ご、ごめん!」
「大丈夫?ほら」
「へっ?」
青山くんはくつくつと笑いを抑えながら私の手をとると、そのまま自然に繋ぎなおした。
いや、自然すぎて振り払えなかったけど距離感がその…おかしくないか?
それに、これじゃ驚いた時にすぐバレてしまう…。
猫耳が出ていないかサッとバレないようにチェックし、半歩後ろに下がってついて行った。
「やっと出口……………だ?」
幸いにもその後は何もなかったが、出口から外に出ると、園内は騒然としていた。
動物達は暴れだし、人々は皆逃げ惑っている。
──まさか、これは…
《エイリアン ガ イルヨ》
マシャが青山くんに聞こえないよう、耳元で小声で言ってきた。こいついちいち行動が可愛いな、と頭の片隅で思いつつも今はそんな事言ってる場合じゃない。
「桃宮さん逃げよう!」
「…わかった!」
とりあえず上手いこと青山くんを逃がして変身しなきゃ…!
共に出口へ駆けていた私達だが、入場ゲートへ近づくほど人口密度が濃くなり、人混みに圧されて青山くんと繋いだ手が離れた。
──チャンスだ。
青山くんが何度も必死に私を呼んでいる声が聞こえ、罪悪感が芽生えるも、とにかく変身する為に人目の寄らない植木の向こうへと飛び込んだ。
「とにかく現状把握しないと」
園内の状況を具体的に知る為に大木の陰から頭だけ出して園内を見渡していると、背後に嫌な気配を感じた
「ッ、誰!?」
「へへ、また会えたねハニー」
「うげ、あんたは…」
振り返った先にはニヤニヤと笑みを浮かべたキッシュが至近距離で浮いていた。
ドヤ顔腹立つ。
「フフ…あの時はご馳走様、でも今日はもっとお腹いっぱいにさせてもらうよ」
こいつのせいでどれだけ悩んだ事か、とふつふつと湧き上がる怒りで何も言えずにいると、何を勘違いしたのか顎に手をかけて顔を近づけてきた。
「なに固まってんの?あ、そっか、そんなによかったんだボクのキス。なら…も一回しとく?」
「するわけ、ないでしょーがッ!!」
蹴りを入れようとするも、またもや避けられる。空飛べるって厄介な…!
「あんたのせいでどれだけ無駄な時間を過ごしたと思ってんのよ!」
「へへ、相変わらずお転婆なんだから」
笑いながらその手で何かを生じさせる。
あのクラゲのような形のものは──
「いくよ。君の力、試させてもらう………いけ!!パラサイトエイリアン!!」
放たれたそれ──パラパラはライオンの子供へと憑き、みるみる巨大化したライオンの子供はキメラアニマになってしまった。
こいつ…もふもふになんてことを…!!
「くっ……!」
変身しようとペンダントを取り出すも、キメラアニマの攻撃を避けるのに手一杯でなかなかできない。むしろ生身の体で避けれている事を褒めてほしいくらいだ。
「はは、すごいすごい!変身せずにこれだけ耐えられるなんて!」
「わーい、高いのだー」
「なっ!?え………は!?」
その時聞こえた声の方を向くと、象のようなキメラアニマに絡め取られた歩鈴がいた。
えええなんであの子ここにいるの!?まだ登場の予兆なかったよね!?
「他人の心配してる場合?」
「きゃ…!?」
よそ見をしている隙にキッシュの攻撃をくらい、バランスを崩したところで、キメラアニマの前足に身体を抑え込まれ地面にねじ伏せられた。
「なんだよこの程度なの?ガッカリだな」
ぐっと荒く顎を掴まれ無理矢理上体を上げさせられる。ガッカリなのはあんたの行動……ちょ、まって、この体勢呼吸がしづら…!!
「せっかく可愛いおもちゃを見つけたと思ったのになあ…
ボクはどーでもいいんだけど、でも君を生かしておくとあとで怒られちゃうからさ」
段々とキッシュから笑みが消え、その手には剣のような物が握られていた。
「さっさと──死んでくれる?」
──やば…!
覚悟を決めて目を強く瞑ったとき、今はもう聞き慣れた透き通る声が聞こえた。
「リボーン!ミントエコー!!」
「…なーんだ、まだ仲間がいたんだ」
キッシュが見ている方を向くと、ミュウミントとミュウレタスが駆けつけて来てくれていた。
「みんと…!それにれたすも!」
「仕事サボって何してますの名前」
「うっ……み、みんとにだけは言われたくないわ!でもどうしてここがわかったの?」
「あなた、穴の開くほどここの入園券を見てたじゃない」
「白金さんに見てくるように言われたんです」
「え、白金が…?」
ということはやっぱり、青山くんと遊びに行けるように仕向けてくれたのは態とだったのだろうか。
彼のわかりづらい気遣いに場違いながら胸がときめく。ときめ…?ときめいてなんかないから!
「─っていけない、今はコイツと歩鈴をどうにかしないと………ミュウミュウストロベリー、メタモルフォーゼ!」
変身して二人の間に立った私はキッシュを睨み、指を突き付けた。
「キッシュだかキスだか知らないけど、よくも私の穏やかな日常をぶち壊したうえ、もふもふ達をキメラアニマにしてくれたわね!お礼にたっぷり…ご奉仕するにゃん!」
「へぇ…他のおもちゃも結構可愛いね」
決め台詞が終わるのを待ってましたと言うように、キメラアニマは攻撃をしながら追い駆けてくる。攻撃をし返す隙などなく、これじゃあ一人の時と変わらない。
「逃げてるだけじゃ埒が明かないわ……三本に分かれよう!追いかけられた人が引き付けてるうちに攻撃して!もう1人はあの象のキメラアニマを!!」
「で、でも……」
れたすが不安なのか抗議の声を挙げるも、みんとはそれを遮ってカウントした。
「3、2、1!!」
私が左へ、みんとが右へ、れたすはそのまま真っ直ぐに分かれ、ハズレくじを引いたのは───私だった。
「ッみんと、れたす!攻撃を!」
皆追いかけられていない事に気付いていないのかそのまま走ったままだったが、いち早くれたすが反応した。
「リボーンレタスラッシュ!!」
「リボーンミントエコー!!」
「ストロベルベル!」
こちらのキメラアニマにはれたす、あちらの象のキメラアニマにはみんとが攻撃を仕掛けた。みんとが落ちてきた歩鈴をキャッチするのを横目に、キメラアニマの動きが止まってる隙に武器を召喚した。
「危ないのだっ!!」
「!」
つい目の前の敵に気をとられ後ろから3体目のキメラアニマが襲って来たのに気付かなかった。それにいち早く気付いた歩鈴に突き飛ばされ、当の歩鈴はキメラアニマに踏み潰されそうになっていた。
「──歩鈴っ!!」
もう誰もが駄目だと思ったとき、閃光が瞬いた。
「プリングリングインフェルノ!!」
目が光から開放された時、目の前にあったのはプリンのようなスライムのようなものに閉じ込められたキメラアニマと、黄色いコスチュームを着たミュウプリンだった。
「あの子が四人目の仲間ですの…!?」
「みんな閉じ込めたのだ!」
「ナイス歩鈴!」
五体満足な様子の歩鈴に安堵の息を漏らし、再び意識のベクトルを敵に切り替える。
動かない敵を仕留めることほど容易な事は無い。歩鈴がミュウミュウだったことに驚きを隠せない2人を尻目にストロベルベルを構え、そして技を放った。
「リボーンストロベリーチェック!!」
そしてキメラアニマは私の放った光に包まれ、無事に動物達からエイリアンは離れた。
「やりましたわ」
「やりましたね!」
「やったのだ!!」
3人が喜色を滲ませているが、まだ敵は目の前にいる。私は、キッシュを警戒とキスの恨みの念を込めて睨みあげた。
「ちぇ、やられちゃったか……まあいいや、今日のところは帰るかな。近いうちにまた会いにくるよ、ハニー」
「二度と来んなこの変態!」
ハニー、という言葉にイラッときて罵声を浴びせると、瞬間移動をしたのかその場から跡形も無く消えていた。
「あれがこの前言っていたエイリアンですの?」
「耳とんがってたのだ!」
「あいつがキメラアニマの元凶よ!」
ふんっと怒りに息を荒くしているとれたすが不思議そうな顔をしてくる。なにその顔かわいい。
「ところで名前さん、デートはどうなったんですか?」
「デートというか……って!いけない、はぐれたままだった!みんと、れたす、歩鈴、ありがとねじゃまた後で!!」
最悪のはぐれ方をした事を思い出し、矢継ぎ早にお礼と別れを告げると青山くんを探すべく猛ダッシュで駆け出した。歩鈴の、なんであのお姉ちゃん歩鈴の名前を知ってるのだ?という声は聞こえていなかった。
「──桃宮さん!桃宮さん!!」
暫く園内を駆け回ってると、私の名前を何度も呼んでいる青山くんを見つけた。その姿に今更だが、あんなはぐれ方しなければ良かったと後悔した。
とても青山くんにあわせる顔がないが、いつまでも隠れているわけにはいかないので観念して青山くんに駆け寄った。
「青山くん!」
「…」
「ごめん…その、はぐれて……」
一先ず謝罪をするも、言葉が返ってこない。こんな青山くんは初めてでどうしていいのか分からなかった。
「……今まで何やってたんだ!!」
暫く黙っていた青山くんは突然大声を張り上げて怒鳴った。
普段は温厚な青山くんがあげたとは思えない程の怒声、つまりそれだけ心配をかけさせてしまったんだと知る。
「…ごめんなさい」
本当は全部説明して安心させたい。
──でも、ミュウミュウの事はまだ言えない。
青山くんは本当の事を言えずに黙り込んだ私に痺れを切らしたのか、こちらに背を向けてゲートの方へ歩き出した。
「……もういい、帰ろう」
夕焼けに照らされた道を無言で歩く青山くんの後ろをただついて行く。
やっぱり、嫌われたかな。
青山くんはこの世界で初めてできた友達だ。
同年代から浮いていた私にも隔てなく接してくれた、大切な優しい友達。
そんな彼に嫌われると思うと──なんだかとても胸が、痛い。
「青山くん…」
思わず歩む足を止め青山くんの名を呟いた。
だんだんと瞼が熱くなり、情けない姿を晒しそうになっていると、彼が振り返り、真剣な眼差しで私を見つめる。
そしてふっと優しく笑みを浮かべると私に歩み寄った。
「もういいよ───心配、だったんだ」
いつもの温かい笑顔でまた一緒に行こうね、と言う言葉に一息ついて頷きながら、もう少し、こんな時間が続けばいいと思った。
−−−−−−−−−−−−−
お互いが無意識的に依存しちゃう沼にしたい人生だった
prev*
next
TOP