15



「ここが、奥村大付属中…とりあえずはプールですわね」


奥村大付属中に着いた私とみんとはすぐにプールへ直行したものの特に異変はなく、強いていえば、オフシーズンな割に水が濁っていないことだけだった。


「なにもなし、と。とりあえず敷地内を見廻りでもますか」
「そうですわね」



夜の校舎は人気がなく、いかにもな雰囲気を醸し出している。
でもそんなに夜遅くな訳ではないけど…この学校は残業がないのだろうか。いい職場だ。


「名前はこういうの、怖くないんですの?」
「びっくり系ならともかく、ホラー系は平気」
「残念ですわ…」


心底残念そうに溜息をついたみんとに苦笑いを零しながら、いちごは確か苦手だったかな、と本当の主人公を思い浮かべる。
きっとみんとのこの調子だといちごはみんとのおもちゃになってたんだろう。見たかった。






校舎を探索しだしてから暫く経ち、あらかた廻ったのになぜ何も起こらないのか、とみんとと話していたその時──ピチャン──という音が静かな廊下に響いた。


「あれは……水ですわ」


みんとが音源に近付いて正体を確かめる。しかしそれは廊下の真ん中にあり、仮に雨漏りだとしても今日は晴天で、水源はどこにもない。
一体なぜ──と考え込み出した途端、水道の蛇口が一斉に回転し出した。
そして、先ほど水が落ちてきたあたりの天井が崩れ、大量の水が感情を持ったかのように動き、襲ってきた。


「出ましたわね!ミュウミュウミント、メタモルフォーゼ!」


みんとが変身している間に水柱そのままは窓を突き破ってプールの方へと行き、みんとはそれを追って行った。

私はと言うと、先程からこの校舎近くをうろちょろ飛んでいるやつをじっと見据えていた。最初は例の幽霊ってやつかとも考えたけど──。


《ナマエ ナマエ キメラアニマ イル》

「っ、びっくりした…」


存在忘れてた…ごめん。というかあいつずっと居たのに反応遅いよ。


「それに、あれはキメラアニマと言うより…」


───エイリアン


あれはしょっちゅうアニメに出てたエイリアンの1人だ。確か名前は、お菓子みたいな…キッシュ?



「って、とにかく変身しなきゃ!………ミュウミュウストロベリー!メタモルフォーゼ!」



「──へぇ」


こちらの様子をうかがっていたエイリアンは、私の変身を見届けるなり不敵に口角をあげると、高く舞い上がり、そして消えた。


「あっ!逃げた…」


あいつ何しに来たんだ、と思いながらもすぐ下のプールを見下ろすと、相変わらず水柱はうねうねと動いており、みんとは手こずっているようだ。
すぐさま自分も降り立って参戦する。


「名前、遅くてよ!」
「ごめんごめん!」


みんとに謝りつつ、水柱に向き直ってお決まりのポーズをキメる。


「ほいじゃあ本日も…地球の未来に、ご奉仕するにゃん!」
「ほんと、よくやりますわね」
「敵を前にすると体が勝手に動いちゃって」


決めゼリフと決めポーズは、もはやルーティーンになっている。ジト目で見てくるみんとに無意識の行動だとつらつら言葉を並べていると、待ち切れないと言うように水柱が獣の形となって襲いかかってきた。


「ッリボーンミントエコー!!」


攻撃に瞬時に反応したミントの放った矢は水獣を貫き、ただの水となったそれはプールに還っていった。

「やりましたわ!」

みんとにしては珍しく大きな動作でガッツポーズをキメている。
でも……。


「キメラアニマにしては弱すぎる…」


その時、右から碧色の光が輝き出した。 その光は人形をしており、目を凝らすとその人物が明らかになった。


「あれは、昼間の…」
「れたす…」


やはり、怪談話の霊の正体はれたすだった。
するとより一層光が眩さを増し、それが治まると彼女の格好は変わっていた。


「あのコスチューム…まさかあの子が…!?」

「……でも、簡単に仲間になってくれる雰囲気じゃないのは確かね」


「レタスタネット!」


その場にカスタネットのティアンの音が鳴り響く。私にはそれがカウントダウンのように聞こえた。

「リボーン!レタスラッシュ!!」

「きゃあああ!」
「──みんと!」


れたすの放った攻撃でみんとは倒れる。本来ならこの時点でこちらから攻撃をするところだが、相手は人間だからやすやすと傷を負わせることはできない。いやはや、どう鎮めるべきか────。

しかし、れたすは考える時間など与えてくれず、今度は私に向けて武器を構えた。


「次はあなたの番ね………リボーン、レタスラッシュ!!」
「っ!」


今度は自分に放たれたそれを、間一髪のところで避ける。

「──次は逃さないわ」

そう言ってまたも攻撃の体勢に入るれたすに、私は武器を構えた。


「ストロベルベル!」


覚悟を決めてストロベルベルを握ったそのとき、彼女の目から大粒の涙が静かに流れている事に気付く。

ああ、彼女は本当に愚かだ───。



「…泣くくらいならやめればいいのに」

「!」

「怖いんでしょ、自分のこと…。自分の体が自分のものじゃなくなったみたいで──」

「──違う!!」

「違わない、みんな最初はそうだと思う…こんな、誰かをを傷つける事が簡単に出来る力を手に入れちゃって……。私だって怖いよ。でもれたすは優しすぎるから、誰にも相談できずに自分で抱え込んで悩んで─それで今、暴走してるんでしょ」

「っもうたくさん…もうたくさんよ!!──リボーン!」

「おやめなさい!あなたはいつまで拗ねているの!」

「ッ!」

「あなたは一生自分の殻に閉じこもっているつもり!?」


私とみんとに畳み掛けられ、もう攻撃する意志はないのか、静かに手を下ろしたれたすは、箍が外れたようにら涙を流しながらポツリポツリと話し出した。


「…あたし、ただ皆と仲良くなりたかった。なのに、こんな変な体になって…っ!どうせ、あたしなんかに一生友達なんかできないんだ…!!」


「─大丈夫ですわ、辛かったのね。こっちへ…」


みんとはもう彼女を受け入れるつもりらしいが、そうはいかない。
みんとを手で制し、れたすに向き合う。
──ちゃんとけじめはつけねば。


「冗談じゃない、何故そんなに自分のことを卑下するの?──それに…たとえどんな理由があったって人を傷つけていいわけない。だから…このままレタスを許すわけにはいかないよ」



私が静かに告げると、2人の息を飲む音が聞こえた。
れたすは怯えたように目を固く瞑り体を強張らせる。
私は"攻撃"の体勢をとると、れたすににじり寄った。そう、いちごがやっていた通りに。


「お礼にたっぷり」

「名前!!」

「ご奉仕するにゃん!!」
「きゃあああ!」

飛びつくようにれたすを抱きしめると、そのまま道ずれにプールに飛び込み、彼女の体をこちょこちょと擽った。

「やっやめて…っ」

「だーめ、もう二度と友達なんてできないなんて言わせない!」

「……なるほどね」

呆れたような安心したような表情のみんとに目配せして再びれたすを見る。


「だって私達…もうとっくに友達だにゃん」

「ま、そーいうことですわ」


れたすは私たちの言葉を聞いて、嬉々とした感情が溢れ出る、今まで一番の笑顔で頷いた。



「うん…っ!」






(れたすの変身)
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うそ…私のゆめしょ…長すぎ…


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