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「…でるんだって、噂どーりしょっちゅう」
悪夢のようなブラック業務開始から早数時間、着々とオーダーをとっていると、気になる話が耳に飛び込んできた。
それは奥村大付属中学校のプールに霊がでて人を襲うという怪談めいた話だが、どこか聞き覚えがあるような……。ということはアニメであったのだろうか?
「だーからさ、ちょと確かめてきてって言ってるだけじゃん」
「まさかあんた、嫌だって言うつもりなんじゃ」
「そ、そんなことは…」
あー、これは群れをなして行動する種族の女子によくある光景だと、ちらりとその女子学生達の席を覗くと、3人の女子に囲まれて縮こまっている私達の仲間(予定)のれたすがいた。
え、労働初日からビンゴ?
あまりにもテンポよく3人目の仲間と遭遇したことに拍子抜けしてしまうも、ともかく、今の状況を黙って見過ごす訳には行かない。いじめ、ダメ絶対。
確かアニメでは謎のパフェをぶっかけてた事を思い出し、流石に可哀想だと思い給水器でぬるま湯を用意してきた。
ホントはダメだけど仲間ゲッツのためだし、いっちょかましちゃいますか。
「あっ!お客様、申し訳ございません〜!お水が〜!」
白々しく先に謝りながら、お冷を3人目掛けて零す。
「きゃあ!!」
「うわっ!!」
「なにすんのよ!!」
「申し訳ございませ〜ん!!クレーム対応は店長へお願いします〜!店長〜!!」
いじめを妨害するついでに普段むず痒いキザな事ばかり言って精神的ダメージを与えてくる赤坂さんに仕返ししてやろうと、悪意丸出しで忙しいであろう赤坂さんを呼ぶ。
「申し訳ございません、店員が何か粗相を…」
厨房から出てきた赤坂さんは、突然の呼び出しにもかかわらず、スマートな対応だ。さすが大人だ。
「い、いいえ〜、何でもないわ。ちょっとした事よ〜」
赤坂さんを視界に入れた途端、目をハートにさせた3人は赤坂さんのお拭きしますのでこちらへ、という言葉で酔いしれたかのようにスタッフルームに吸い込まれていった。ちょろすぎか。
スタッフルームに入る際、赤坂さんがこちらを見て意味深に微笑んだのはきっと幻覚だと信じたい。
邪魔者3人が居なくなったところで、れたすに話しかける。
「ごめんね、つい体が動いちゃっちゃって」
「いえ…」
「大変でしょ、ああいう子達とつるむの。他の人に助けを求めてもいいのに…」
「多分…なんですけど、皆イライラする事や嫌な事があって、あたしにキツく当たるんだと思うんです。そんな悩みを相談したり、話し合えたりしたら、いつかきっと、仲良くなれるかもって……だから、もうちょっと頑張ってみます」
「…そっか」
そう言ってやわらかく微笑んだ彼女はいい子というか純粋というか…。
「私、桃宮名前よ」
「碧川れたすです」
彼女は、いい子すぎて自分が潰れるタイプだ。
それを少し愚かだと思う私はどうしようもなくひねくれた人間なのだろう。
「…れたす、独りで抱え込まないでね」
「…?」
「ひとりじゃないよ、れたすは」
なんてったって私達仲間(予定)がいるし。
ありきたりな言葉だが、今のれたすに届くだろうか。
最初はきょとんとした表情のれたすだったが、ひとりじゃない、という言葉にハッとしたように私を見つめ返してきた。そして口をぱくぱくと開閉させ何かを発しようとしたが、お邪魔虫によって遮られた。
「ほら、れたす行くぞ!」
「あっ、はい!…それじゃ」
戻ってきたお邪魔虫3人に連れていかれる。
またのご来店お待ちしております、と頭を下げ今日しなくてはならないことを考える。
さて、地味に頑固な彼女みたいなタイプをうまく説得できるだろうか。
「みんと」
「なんですの?」
「今日の夜、奥村大付属中に乗り込むよ」
「あら…楽しみですわね」
純粋に楽しそうなみんとに笑みを浮かべ、業務に戻る。
さて、今は働かねば。
(業務終了後もお仕事)
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みんと空気だねごめんね
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