13
「私の中にはイリオモテヤマネコ…
みんとの中にはノドジロルリインコ…」
歩鈴の中にはゴールデンライオンタマリンで、れたすの中にはスナメリ、ざくろさんが…
「これってレッドデータアニマル?」
「わっ!」
急に背後から声をかけられ、びっくりして持っていたレッドデータアニマルの書類を落としてしまう。
「ごめんね桃宮さん、驚かせちゃったかな」
ドキドキしながら振り向くと、申し訳なさそうに書類を拾っている青山くんがいた。
そして私が落とした書類を青山くんに拾わせてしまっていることに気付き、急いで自分も書類を拾おうとその場にしゃがむ。
「ありがと、青山く…ん?」
その時ふと目の前のカーブミラーを見ると、猫耳と尻尾が生えた少女がこちらを見ていた。
「えっ」
何度瞬きしてもそれは変わらなくて、猫耳を生やした自分は相も変わらずこっちを見ていた。
ちょっとびっくりしただけのはずなんだけど…!?
突然の事にパニックになればなるほど動悸は激しくなり、ますます猫耳が消えにくくなっている。
落ち着け、落ち着け自分…!!
「どうかした?」
動きを止めた私を不審に思ったのか、青山くんが顔を上げようと手を止めた。
「あ、あの飛んでる鳥!絶滅危惧種のブッポウソウじゃない!?」
もちろんそんなのは飛んでないが、さっき図鑑で見た鳥でなんとか時間を稼ごうと虚空を指差し、完全にこちらを見る手前で青山くんの頭を無理矢理そちらへ向かせる。
「え!どこどこ?」
「ほらあれ!あ、あそこの看板の上!………っ!?」
予想通り青山くんは食い付いたが、ここからどう誤魔化そうかとわたわたしていると、急に後から口を塞がれ、そのまま車に引き摺りこまれた。
「…急に引き摺りこむとかありえないんだけど」
誘拐かと思った、とぼやきながら青山くんに何も言わず去ってしまったことに不貞腐れる。
「なーに言ってんだ、助けてやったんじゃねーかよ」
「確かに、助かったけどさ…」
口ごもっていると、白金は徐々に詰め寄ってきて、私の顔の横に手をつき顎を掴むと白金の方を向かされた。
「街中で興奮してたクセに、感謝しろよな 猫娘」
「〜っしてない!」
その表情はどこか普段と違うようにも見えたが、私は顎クイする意味は!?アメリカ育ちは皆こんなに顔を近づけるのか!?と、混乱に陥っており気にしていられなかった。
そしてすぐ、私たちを乗せた車がカフェミュウミュウに着いたことにはたと気付いて疑問を口にした。
「え、今度はいったい何?」
「おう、今回は簡単だ───脱げ」
「…は、?」
何を言ってるんだ。
私の制服のリボンに指をかけながらそう言った白金の言葉の意味が理解出来ずしばらく固まっていると、衣装のようなものを差し出して、これに着替えろ、と言った。
「あ、なるほどね…。」
言い回しが紛らわしいっての!と内心悪態をつきつつ、カフェミュウミュウの更衣室で手渡されたそれに着替える。
それは案の定ウエイトレスの服だった。
この前結局この話がなかったから働かなくていいんだって期待したのに…!
「というか、サイズぴったりなんですけど…」
怖すぎる…プライバシーなんてあったもんじゃない。
戦慄を覚えながらホールへと出ると、厭にニヤニヤした白金に出迎えられた。
「よぉ、似合ってるな。気に入ったか?」
「別に、これからの労働を考えると頭が痛い…」
「お、察しがいいな」
「そのくらい分かるわよ」
スカートの裾をつまみながらジトッと白金を見上げる。
「じゃ、早速よろしくな」
「えっ!まさか今日から!?」
「当たり前だ、そのためにみんとにも来てもらってんだ」
みんと来てるの!?と、店内を見回すと、窓際の席で既にウエイトレスの格好に着替えたみんとがお茶をしていた。
働かないフラグ建ってるよねこれ。
「ほら、開店するぞ」
「はぁ……。しょうがないか」
こうなったら、前世で長期休暇にバイトで荒稼ぎしてたスキルを発揮してやる!
お客さんが入店して来たのを見て、表情をよそ行きのものに切り替えた。
「いらっしゃいませ!カフェミュウミュウにようこそ!」
(働きだしました)
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