昔っから迅悠一という奴は何かと気に食わなかった。隣に住んでいたそいつは、自分より年上のくせにピーピーよく泣いていつも私が励ます羽目になっていた。全く、どっちが年上か分かりゃしない。でも、いつの間にか迅は人前で全く泣かなくなって、ヘラヘラした笑みを貼り付けるようになった。しかもなんか強くなってるし、いっちょ前に人守ろうとするし。いや別にそれはいいんだけど、私の前に立つんじゃない。あんなに泣き虫だったくせに。

 ああ、そういや私が最後にアイツの泣き顔見たのっていつだっけ?










「あー...目覚めわっる... 」

 ジリリリリと目覚まし時計が鳴り響いている。チョップして止めると、体を腹筋で起こした。レイジさんと筋トレをし始めて、自分でも少しずつ筋肉がついてきたと感じる。

 久しぶりに昔の夢を見た。それも私と迅がまだ隣に住むただの幼馴染でお互いの家族も生きていた頃の。なーんで朝っぱらから迅を夢で見ないといけないのか。昨日からかわれたせいだ。恨む。後でぼんち揚げ奪ってやる。そう固く決意して、朝食を作るためにリビングに出た。今日の朝食当番は私である。


★ ● ★ ● ★



 夢のせいで既にやる気は削がれていたけど、作らない訳にはいかないので適当にパン焼いてちゃちゃっとスクランブルエッグを作り、あとお皿に野菜も盛り付けて皆を呼んだ。今日の朝は、私と迅とレイジさん、陽太郎(と雷神丸)にボス、そしてクローニンさんが一緒だけど、クローニンさんは一度部屋に籠ると中々出てきてくれない。それも今、クローニンさんは私専用のトリガーを作ろうとしているらしい。私は別に弧月のままでもいいし、感覚変わるの嫌だからそのままでいいって言ったんだけどな。まあでも、とりまるのガイストとかレイジさんのフルアームズは羨ましくもあるのでなんだかんだ楽しみである。それにわざわざ本部まで点検に行かなくて良くなるし。クローニンさんの分は後で部屋に持っていくとしよう。

 レイジさんは、大体朝早くにランニングして部屋で筋トレしていることが多いので、呼べばすぐ来てくれるが、問題は残りのメンツだ。迅は寝起きが悪いし、陽太郎とボスは寝坊常習犯である。もちろん呼んでもすぐ来るはずがなく、仕方なくレイジさんと手分けして起こしに行くことにする。じゃんけんでどちらに行くか決めたが、私は迅の担当になってしまった。最悪だ。

「おーい、迅。起きろー」
「...あと10分」

 迅の部屋に入ってみれば、案の定迅は布団を被って寝ていた。部屋の大半をぼんち揚げのダンボールが占める迅の部屋は、生活スペースが明らかに狭い。いつもぼんち揚げを食べているが、迅が太る気配は一向にないので腹立たしいばかりである。

 とりあえず迅から布団を引っ剥がした。「ああっ」と迅から悲鳴が上がる。

「おれ昨日遅かったからまだ寝たいんだけど」
「知らないわよそんなの。早く起きて、朝ご飯冷めるでしょうが」

 しぶしぶといった様子で迅は体を起こした。髪は寝癖で跳ねまくっている。

「私、もう出るから。ササッと着替えて早く降りてね」
「分かってるって」

 部屋を出る時に、ダンボールからぼんち揚げをひと袋取るのも忘れない。迅のものとはいえ、くすむには良心が痛むが、迅だって昨日の点検日のこと伝えてくれなかったからおあいこだ、おあいこ。大体こんなに大量にあって賞味期限までに食べ切れるのかも危うい。一日ひと袋で消費しても、果たしてこの山が消えるのか甚だ疑問である。

 時々、私には迅がぼんち揚げ協会の回し者に見えて仕方がない。まあぼんち揚げ協会が実際にあるのかどうかは知らんけど。



イエスタデイ・アフター




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