「うわぁー、やっぱ深見さん強いっすわ」
「米屋も強くなったねぇ」

 ランク戦のブースから結果を見直す。今回も私の勝ちになったけど、前より取られてしまったし結構危ない場面も増えた。

 三輪が去ってから結局二人で昼食を食べて、学校のことやらなんやかんや駄弁っていたら、いつの間にか点検時間が過ぎていた。開発室までトリガーを取りに行って、それからランク戦をしたのである。米屋は前はスコーピオンを使っていたけれど、最近エンジニアの人と協力して槍型の弧月を開発したらしい。オプションもついていて割と厄介だった。いきなり首取られそうになったし。

「凛花さーん!こんにちはー!」
「おー...、緑川か」
「駿でいいですよ!」

 米屋と話し込んでいたら、どうやら先程の対戦を見ていたらしい緑川が話しかけてきた。緑川は、所謂天才というやつで、入隊早々B 級に昇格して、今は確かA級の草壁隊に勧誘されていると噂を聞いた。A級でも隊員の勧誘は自由だけれども、その分ランク戦で隙ができてしまうとあまり勧誘する隊はない。それでも誘われているあたり、緑川の実力は相当のものだろう。

「ねぇねぇ、凛花さん、迅さんは?!」
「今日は知らないわよ、朝もいなかったし」
「えー、そっかあ」

 そして、無類の迅好きである。私としてはあんなやつのどこがそんなに好きなのかさっぱり分からないけれど、どうやら緑川は迅にトリオン兵に追われていたところを助けてもらったようで、それからずっと迅を崇拝しているようだ。

「凛花さんいるなら迅さんもいると思ったんだけどなー」
「ちょっと待ってセットにしないで」
「だっていつも一緒にいるじゃん」

 その言葉にぐうの音も出ない。確かに、本部に来る時は何かと迅と一緒になることが多いけれども。セットにされるのは不本意である。

「それより凛花さん、久しぶりにランク戦しようよー!」
「えー、私もう米屋とやったから疲れたんだけど...」
「そんなこと言わずにさぁー!」

 ランク戦ランク戦、と駄々をこねる緑川だが、ちょっと周りからの視線が気になるからやめて欲しい。横の米屋をちらっと見ても、「せっかくだし見学します」と止める気もないのか素知らぬ顔だ。...米屋、今度覚えとけよ。

「あーもー!分かった分かった!10本勝負ならやるよ!」
「わーい!やったー!」

 早く行こうと袖を捕まれ、ブースに押し込められる。「頑張ってくださいねー」と手を振る米屋は笑顔だ。くそう、少しくらい先輩を助ける姿勢があってもいいんじゃないのか。


 一通り対戦のルール設定を行うと、あのなんとも言えない浮遊感のあと仮装空間に転送された。10本勝負、場所設定は一本ごとのランダム設定で、どうやら今回は市街地のようだ。

「それじゃあ、お願いします!」

 先手必勝とばかり、グラスホッパーを踏み飛びがかかってきた緑川を視界に捉え、私も弧月を抜刀した。ああ、もうこうなったらやけくそだ。


★ ● ★ ● ★



「お、凛花。どうしたどうした」
「迅...アンタね...」

 こちらを愉快そうに見下ろす迅を睨む。ごめんごめんと謝りながら、迅は向かいのソファに座った。私も体を起こしてソファに座り直した。

 ここは玉狛支部のリビング。今日の夕食当番は桐絵だから、リビングにはカレーの香りが漂っている。迅に呼ばれるまでリビングのソファで寝ていた。というのも、今日、緑川との対戦が終わった後も結局帰れず対戦しっぱなしだったからだ。緑川との対戦は勝った。一本は取られてしまったものの、あとは意地で全部とった。米屋に「大人気ねぇー」と言われたがこちらとしても意地とプライドというものがある。あと米屋はもっと先輩を敬え。しかし、緑川と対戦したことで注目を集めてしまった。米屋が言っていた通り私が本部でレアキャラ扱いされているのは本当のことのようで。次々にランク戦しようと囲まれてしまったのだ。しかもその中に、なんとあの風間さんがいたのだ。風間さんはA級部隊を率いる隊長で私も彼のお兄さんにはお世話になっていたし、尊敬する人物でもあるのだが、あの風間さんだ。ランク戦はあまりしない人だからつい受け入れてしまった。

 風間さんとの対戦が終わっても、今度はいつの間にかラウンジに来ていた太刀川がランク戦しようとうるさいので仕方なくやってみれば、今度は進学校組が学校が終わって本部に来ていて、荒船達ともやる羽目になった。連戦、連戦、連戦である。いくらトリオン体で疲れないとは言え、流石に連戦はきつい。おかげでポイントはどっさり溜まったけど。

「今日点検日だって聞いてなかったんだけど」
「うん、言ってなかったからね」

 どうしてだと迅を睨みつける。が、迅は笑って一言「その方が面白そうだったから」

...しばき倒したろうかコイツ。

「ふざけんな おいふざけんな ふざけんな」
「ハハハ、五・七・五」
「笑うんじゃない。ちょっと後で訓練室入ろ。ぶった切ってあげるよ」
「悪いけど、実力派エリートにはこの後用事があるんでね」

 そう言うと、迅はソファから立ち上がってリビングから出て行った。でも、これから夕食なのに。

「凛花〜、カレーつぐの手伝ってー!」
「はーい」

 桐絵の声に返事をして、私もソファから立ち上がる。なーにが実力派エリートだ。大事な連絡もしないくせに、しかも暗躍なんてカッコつけちゃって。

 なんだか今日は迅の掌の上で踊らされた気がして釈然としない。ああくそ、せっかく今日から春休みなのに。



掌で踊るコイン




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