IDEA | ナノ


▼ 同情するなら金をくれ

「ここに攘夷志士の桂が出入りしていると噂がある。洗いざらい吐いてもらおうか」

 黒い隊服に身を包んだ、黒髪の男はそう言った。目付きは鋭く、それだけで人を殺せそうである。きっと普通の者ならその人相に震え、喋ることさえ容易ではないだろう。だが、それに臆することもなく、女はその端正な口を開いた。

「桂さん?...えっ、あの人って攘夷志士だったんですか?」
「... おい、知らなかったのか?」
「はい。変わったお仕事をしていらっしゃるとは聞いていたんですけど」

 桂を知らない奴が、この江戸にいるのか?男は呆れて声すらも出なかった。ただ、本当に目の前の彼女は知らなかったようで、「まさかあの人が....」と驚いた表情を浮かべている。

 気を取り直して、男は女に再び質問する。

「その、それまで桂はどんな奴だったんだ?」
「はい、桂さんは店のいい金ヅ....ゲフンゲフン、常連さんで、よく蕎麦を注文していました」

 あ、桂さんはいつもあそこの席で食べていました。と女は店の奥にある席を指した。しかし、男は「ここって団子屋だよな...」と疑心暗記に陥っていた。店の暖簾にはちゃんと『団子屋』と書いてあった...はず。

 一方、そんな男の様子に目もくれず、女は桂の特徴についてありありと語っていた。黒の長髪ストレート、時々エリザベスと呼ぶ謎の生物と一緒に来店する、等々。

 こりゃあ、こいつは白だな。と男が感じるのも時間の問題だった。じゃなきゃ、こんなに桂のことをベラベラ話してくれるか、と。

「分かった。次、桂が来店したら捕まえるのに協力してくれ」
「はい、分かりました」

 そして男は謎の脱力感に襲われながら、店から出て、(もちろん最後に暖簾の文字をちゃんと見)、ここは団子屋だと再確認していつもの見廻りに勤めることにしたのだった。



 そして、時は男が去った店内。

「....もう行ったわよ、ヅラ」

 女はもう“誰もいない”はずの団子屋でポツリ、呟いた。

「ヅラじゃない、桂だ!」

 そして、その屋根裏から出てきたのは、先ほどまで話題になっていたヅラこと桂である。

 うるせ、と女はそう舌打ちをした。先ほどまで男に取っていた丁寧な態度が嘘のようである。

「別に、アンタがヅラだろうが桂だろうかなんてどうでもいいの。大事なのはアンタが攘夷志士で、今さっきまで真選組に追われていたことが大事なの」
「どうでもいいとはひどいではないか、名前殿。俺には桂という立派な名前があってだな....」
「ハイハイ、ヅラ。立派な名前ですね」
「ヅラじゃない、桂だァ!オイ、今の絶対わざとだっただろ!」
「ハイハイ、ヅラ。そんなに自分の名前が好きか。何度でも呼んであげるわよ、ヅラ。感謝することね、こんなに優しい店主のおかげで、真選組から隠れられて。」
「誰が優しいか、鬼の間違いでは....アッイエ、名前殿メッチャやさしい〜」

 ヅラ、いや桂は彼女のことを鬼と言いかけ....その眼光に負け慌て言い直した。しかし、棒読み感は拭えないが。

 全く、と女は溜め息をついた。どうしてこんな面倒なことになったのだと。
 同じく桂も溜め息をついた。どうして、一般人である彼女を怯えないといけないのか。どうして、

「それよりも、匿ってあげたんだから、“お金”払っていただけません?」

 その、面倒なことに巻き込まれたと言いながらも嬉々とした表情を浮かべる彼女から、脅されお金を巻き取られないといけないのか。ただ、それを言おうとしても、彼女の_本来ならとても可愛らしいはずの笑顔に震え、結局言えずに終わるのだが。





ちょっとした夢主設定
名字 名前 (デフォルト名:中川 ひとみ)

20代女性。とある団子屋の店主。整った顔立ち、モデル体型の持ち主。銀時曰く「見た目だけは完璧」(そしてそれを聞いた名前にぶっ飛ばされる)。

幼い頃の記憶はあまりないが、身寄りもないところを団子屋のおじさんに引き取ってもらった。おじさんが亡くなって、彼が残した借金を払うため、そして彼が大切にしていた団子屋を守るため毎日働いている。そのため、お金にがめつい。

正直、お金を払ってもらえるなら攘夷志士だろうが関係なく、桂に匿う代わりにお金よこせと脅している。

かなり肝が座っている。並大抵のことでは怖がらない。気が強い部分もあるが、頼れる姉御分として新八や神楽には信頼されている。

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